【スタッフに注目! お宝作品発掘】「十兵衛ちゃん」「十兵衛ちゃん2」 - 「神様はじめました◎」の大地丙太郎監督によるオリジナル時代劇ファンタジー

スタッフつながりで見ていくと、アニメはもっとおもしろい!
このコラムでは、スタッフ関連で注目したい過去の良作品を紹介します。



大地丙太郎氏が原作・脚本・監督の、アニメオリジナル作品


2015年1月から、「神様はじめました◎」の放送がスタートした。第1期と変わらない安定した楽しさが期待できそうで、ワクワクしている人も多いだろう。

「神様はじめました」は、白泉社「花とゆめ」連載の、鈴木ジュリエッタ作による同名コミックを原作としたTVアニメシリーズだ。第1期は2012年10月から全13話を放送。かわいらしいヒロインとイケメン神使のあやかしコメディとして、ほんわかまったりした味わいが男女を問わず好評だった。

監督を務めているのが、大地丙太郎さんだ。代表作は、「こどものおもちゃ」「すごいよ!!マサルさん」「おじゃる丸」など。基本的にテンポのいいコメディをベースとして、時には少女漫画原作モノをリリカルに描き、時にはセリフの弾丸飛び交うキレキレのギャグをぶちかまし、時には穏やかな空気感にひたってまったりとなごませ、時にはシリアスなドラマで見る者の胸を締めつけ……。緩急自在のリズムを操り、監督の手のひらの上で転がされていれば幸せになれるアニメを次々に生み出してきた。

「神様はじめました」が心地いいと感じるなら、ぜひ見てほしいのが、大地監督の代表作「十兵衛ちゃん─ラブリー眼帯の秘密─」と「十兵衛ちゃん2─シベリア柳生の逆襲─」。大地監督が原作・監督・脚本を担当し、おもしろいと感じるもののすべてを詰め込んだ感のあるオリジナルアニメだ。

早口のセリフがぽんぽんと使われるギャグシーンや、キャラクターたちの気持ちがすれちがう切なさ、鬼切・虎徹を思わせるような漫才コンビキャラのかけあい、講談調のナレーションなど、「神様はじめました」に通じる要素も多い。今さらあげるのもためらわれる名作だが、まだ見ていない人がいるならぜひ見てほしい。見て損はない。


愛らしい「二代目・柳生十兵衛」に、次々刺客が襲来する!


「十兵衛ちゃん─ラブリー眼帯の秘密─」は、1999年4月放送(全13話)。続編の「十兵衛ちゃん2─シベリア柳生の逆襲─」はその約5年後、2004年1月から放送された(全13話)。2作を比べるとスタッフとキャストの一部が交代しているが、通して見ても違和感はなく、同じシリーズの作品として楽しめる。

物語は現代を舞台とした「時代劇ファンタジー」だ。衰退してしまった「時代劇」というジャンルを愛するスタッフは、アニメ業界にも確実に存在している。そして何度も「アニメで時代劇を作る」挑戦がなされてきた。「十兵衛ちゃん」はその中でもかなり成功した例だろう。時代劇なんて興味ないただのアニメファンが見て、何も考えずともおもしろく、しかも時代劇の醍醐味も十分に味わうことができるのだ。

父と二人暮らしのキュートな中学生・菜ノ花自由(愛称・十兵衛ちゃん)は、300年間生きてきたお侍・小田豪鯉之介と出会い、ピンクのハート型をした「ラブリー眼帯」を受け取って、江戸時代初期の隻眼の剣豪、柳生十兵衛の二代目に指名される。ラブリー眼帯をつけた十兵衛ちゃんは、無類の剣の実力を持つ女剣士に変身できるようになる。もっとも彼女自身は、そんな面倒なモノになりたくないのだけれど。

十兵衛ちゃんは自分の意志と無関係に、さまざまな刺客に狙われることになる。「十兵衛ちゃん─ラブリー眼帯の秘密─」では、300年前に柳生家にとりつぶされ復興を目指す「竜乗寺一門」が勝負を挑んでくる。そして「十兵衛ちゃん2─シベリア柳生の逆襲─」では、柳生十兵衛の実の娘でハーフの柳生フリーシャ、そして江戸柳生により遠いロシアの地に追いやられた「北柳生一門」が、十兵衛ちゃんの敵となる。


アニメの楽しさ「全部入り」。最後の最後まで気を抜かないで


大地監督の作品らしく、アニメの楽しさは「全部入り」。「萌え」と「燃え」は当然押さえている。「ぽちゃぽちゃのぷりんぷりんのぼんぼーん」と形容される主人公の十兵衛ちゃんの魅力には、劇中のキャラクターたちのように「好きだ」とつぶやきたくなるし、“ヒーロー”として十兵衛ちゃんが覚悟を決め、戦いにおもむく展開には胸が熱くなる。

脱力する笑いが全編に散りばめられるいっぽうで、緊迫した剣戟アクション=チャンバラシーンのカッコいいこと! 難しい設定など何ひとつない。見る人はただ、画面に見入ってアニメの幸せにひたればいいのだ。

さまざまなキャラクターがにぎやかに入り乱れるが、テーマは親子愛、なかでも「父と娘の家族愛」が中心となる。十兵衛ちゃんの父親・菜ノ花彩の娘への愛はやや過剰なほどだが、それは過去に起こったある事情によることが明らかになる。

父と娘という家族の間だからこそ、ないがしろにして失ったものは取り戻せない。だからこそ守りたいものは時を外さず、全力で守らなくてはならない。大人の視聴者は、そんな彩の心情にも感情移入できるだろう。

第1期をおもしろいと感じたなら、第2期もぜひ見てほしい。「十兵衛ちゃん2─シベリア柳生の逆襲─」は、「十兵衛ちゃん─ラブリー眼帯の秘密─」に比べると、複数のキャラクターの心情とドラマをじっくりと掘り下げていて、よりしみじみと味わえる。岡崎律子が歌う挿入歌の演出もあいまって、途中何度か目頭が熱くなること間違いなし! また第2期ではアクションシーンの割合が増して、より「魅せる」尺をかけて描かれている。

思わぬ人物が意外な正体を現したり、一件落着と終わったら「まだ終わっていなかった!」というドンデン返しもテンコ盛り。最後の最後まで楽しめる極上エンターテインメントだ。

(文/やまゆー)


<イントロダクション>
「十兵衛ちゃん─ラブリー眼帯の秘密─」
剣豪・柳生十兵衛の残した"ラブリー眼帯"を着けた平凡な中学生・菜ノ花自由はその闘気を身に纏い、二代目柳生十兵衛を襲名した。だが、そんな彼女を狙い、竜乗寺真影流の刺客が次々と襲い掛かってくる──。

「十兵衛ちゃん2─シベリア柳生の逆襲─」
二代目柳生十兵衛に選ばれてしまった女の子・菜ノ花自由の戦いを描いた「十兵衛ちゃん ~ラブリー眼帯の秘密~」の続編。あれから1年、フツーの女の子に戻っていた自由の前に、"打倒十兵衛"を悲願とする新たな刺客が現れる。

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