【懐かしアニメ回顧録第2回】CGアニメ黎明期に制作!モバイルネットの近未来を描いた「プラトニックチェーン」

ベテランライター廣田恵介氏が、懐かしいアニメ作品を回顧する「中年アニメライターの懐かしアニメ回顧録」。その時代を知っている世代には懐かしく、知らない世代には、新たな作品を知るいいきっかけとなるだろう。さて、今回は、トゥーン・シェーディング(セルアニメ調の3DCG)のクオリティの高さでこの冬話題になった劇場版アニメ「楽園追放」に関連して、フル3DCGで制作された「プラトニックチェーン」を取り上げる。



「楽園追放-Expelled from Paradise-」(2014)で、「セル・ルックのCGアニメ、結構いいな!」と、トゥーン・シェーディングの魅力にあらためて気づいた人も多いはず。

しかし、トゥーン・シェーディングのCGアニメ、特にセル・ルックの美少女CGが完成されたのは、ここ数年のことではないだろうか? セル・ルックのCGアニメの歴史を振り返るとき、絶対に忘れてはいけない作品……それが「プラトニックチェーン」だ。テレビアニメ版は2002年10月からの放送だが、その前年の2001年秋、パイロット・フィルム(全5本)をネットで見ることができた(「カフェ・クリエイターズ」内にて。制作はACiD)。当時のインターネットはウェブ2.0以前、まだmixiなどのSNSもなく、殺伐としていた。「2ちゃんねるで、吉野屋コピペが流行りはじめた頃」と言えば、当時の雰囲気を思い出してもらえるだろうか?

さて、「プラトニックチェーン」であるが、単に、セル・ルックだから画期的だったわけではない。モーション・キャプチャを導入して、セル画調の美少女キャラに、実写そのままの演技をさせていたのだ。モーション・キャプチャで俳優のアクションをデータ化してあれば、カメラワークは自由自在。ワンカット長回しも可能。しかも、手持ちカメラのような、ブレた映像まで作れる。キャラクターはセル・ルックなのに、カメラワークは実写風……そこが「プラトニックチェーン」の新しさだった。しかも、キャラクターが歩くエリアは3DCGで作ってあるので、背景もカメラに追従して動く。しかし、画面の質感は飽くまでセルアニメ調。これは新しかった。

では、2002年、商業アニメの中でCGはどのように使われていたのだろう? OVA「マクロスゼロ」が、ちょうど2002年からリリース開始されている。可変戦闘機バルキリーがフル3DCGとなったのは「マクロスゼロ」が初。バルキリーには、筆で塗りこんだような絵画風のテクスチャが貼られていた(つまり、セル・ルックではなかった)。さらに言うと、背景にはCGが使われていたが、人物は手描き作画だった。

サテライト制作以外では、GONZO制作のOVA「戦闘妖精雪風」が、やはり2002年よりリリース開始。「雪風」でも、「メカはCG/キャラは手描き」ときっぱり分けられている。そう考えると、キャラクターをCGで動かすこと自体、当時は珍しいパターンであった……アニメ作品としては。

しかし実は、ゲームの世界では試みられていたのだ。ピンときた人もいると思うが、「ときめきメモリアル3」がそれだ。2001年末の発売で、プラットフォームは、まだ「プレイステーション2」。ところが、キャラクターが3DCGのうえ、セル・ルックでぐりぐり動いていた。ただ、技術的にはいまひとつの完成度で、動きはやや不自然だった(モーション・キャプチャではなく、“手づけ”と呼ばれるキーフレーム・アニメーション)。また、GONZO制作のOVA「青の6号」(1998年)の前日譚をゲーム化したドリームキャストの「青の6号 歳月不待人 TIME AND TIDE」(2000年)が、部分的にセル・ルックのCGキャラを動かしていた……が、静止画の手描きキャラとのギャップが強烈で、トータルバランスは悪かった。(この頃のゲームは良くも悪くも非常に野心的だったので、いずれ機会があれば振り返ってみたい。)

3DCGでセル・ルックの美少女キャラを動かした「ときメモ3」と「プラトニックチェーン」(パイロット版)。この2本が同時に出現した2001年の秋~冬は、特別な季節だった。「これから、美少女はみんな、3DCGに置き換わっていくのか?」というワクテカ感と、「だとしたら、それはイヤだ!」という不安がごっちゃに存在していた。なぜかと言うと、今のように頼んでもいないのに情報が勝手に流れてくる環境と違って、当時のネットは、かなり不親切だったから。メカ以外の動物の作画にも3DCGを導入した個人制作アニメ「ほしのこえ -The voices of a distant star-」は、2002年発売のOVAだが、「ニコニコ動画で先行配信」などといった気のきいた時代ではない。興味はあるが、中身を確かめる手段がない。なので、ネットで予告編だけ見て、いきなりDVDを買う。「だれ、新海誠って?」「これは何、自主制作なの?」「とにかく買ってみようぜ!」という投げやりな期待感で、アニメイトへDVDを予約しに行ったものだ。2001年頃を振り返って、「ITバブル崩壊」「IT不況」と呼ぶことがある。あの何もない、ヒンヤリと冷たい空気感……確かに不安ではあったが、みずから情報を求めて、吹きっさらしの原っぱを歩いていくような充実感もあった。

テレビ版「プラトニックチェーン」は、パイロット版では中学生だった主人公たちが高校生になる。コギャルやケータイ(もちろんスマホではなくガラケー)など、90年代に流行った風俗の延長線上に、軽くて明るい未来感を描こうとしていた。だが、時代はさらなる不況の中へ突き進んでいく。最先端のセンスを狙ったつもりが、ちょっぴり古くなってしまった“滑り具合”、いま見るとチープなCGの出来具合が、また愛しい作品なのだ。もしブックオフの棚の隅に見つけたら、そっと拾ってあげてほしい。

(文/廣田恵介)



<イントロダクション>
携帯やネットによる個人放送局をキーワードにした女子高生3人のシブヤ系ストーリー。原作は「アンドロメディア」「ブラックアウト」の渡辺浩弐。近未来の渋谷、ハチ公前。そこは相変わらずたくさんの人々であふれかえっていた。塾に遅刻しそうになったヒトミは、携帯で友達に電話し、自転車で送ってもらえないかと頼む。そのやりとりを耳にした男が、ヒトミに声をかけるが…。

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