【犬も歩けばアニメに当たる。】三悪が正義のヒーローに! 善悪逆転シリアスギャグアニメ「夜ノヤッターマン」

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若干9歳のドロンジョ様が最強!


「夜ノヤッターマン」がおもしろい。


まだ見たことがないという方は、かつての「ヤッターマン」を知っている人も知らない人も、まずはオープニングを見てほしい。主人公の「ドロンジョちゃん」こと若干9歳の女の子・レパードの仕草、表情、雰囲気の、なんと子どもらしくかわいらしいことか!

見ましたか。よろしい。これが大前提だ。ではそこから話を始めよう。

2015年1月からスタートした「夜ノヤッターマン」は、1977年から1979年にかけて放送された、往年の名作ギャグアニメ「ヤッターマン」を元にしたスピンオフ作品だ。

ドロンボー一味との戦いを制したヤッターマンが作り上げた王国ヤッター・キングダムは、圧政で民をしいたげていた。個人的な恨みと義憤にかられて立ち上がったのが、先祖の名を受け継いだ新生ドロンボー一味。ここに善悪は逆転。悪のヤッターマンに“オシオキ”をするために、新たなドロンジョ、トンズラー、ボヤッキーは、無謀にも絶対権力者に戦いを挑んでいくという構図になる。

わずか9歳のドロンジョが、「お前たち、やーっておしまい!」と芝居がかった幼い声をはりあげ、その意志に従って大の男のトンズラーとボヤッキーが、知力・技術・体力を、小さな主のために全力でふるう。とぼけた反逆者たちの姿はどこかおかしいのだが、それでいてなんとも切なく、愛しく思えてくる。

第1話を見たときは、あまりの展開の暗さにびっくりした。まずは、SFロボットアニメさながらの、月が砕け、地球上が隕石によって壊滅するという惨劇が、終末感たっぷりに描かれる。そして時代は移り、レパードたちの生活が描かれるが、暮らしは貧しく気候は寒々しい。そしてささやかな幸せに終わりのときが訪れる。

罪人ドロンボー一味の末裔であるレパードたちは、罰として孤島に押し込められていて、母親が病気になっても満足に治療できず、外から医師を呼ぶことすらできない。助けを求めて懸命にヤッター・キングダムを目指したレパードたちには、「ヤッターマン」の姿をしたロボット兵の無慈悲な銃口が向けられる。「『ヤッターマン』というヒーローのアイコンを、こんなブラックなイメージで使っていいの?」ととまどうほどだった。

もっともこれは、すべて計算ずくの演出であることが、次第にわかってくる。



善悪が逆転したシビアな世界にちりばめられるギャグ


母親を病で失ったレパードは涙をふるって立ち上がり、ドロンジョの名を受け継ぎ、トンズラーとボヤッキーを従えて、ヤッターマンに“デコピン”をくらわすためヤッター・キングダムの首都へ向かって旅立つ。そして敵だらけの王国の中で、ガリナとアルエットという少年少女を仲間に得て、本格的に首都を目指すことになる。


ここからの展開は、まるでパタパタとリバーシの駒がかえっていくのを見るようだ。善悪が逆転した世界で、キャラクターやアイコンには新たな意味付けがなされていく。その中で、重くて苦いストーリーは、元の作品の持ち味であるギャグアニメとしての息吹を取り戻していくのだ。

ヤッター・キングダムにおいて、ドロンボーは正義の義賊だし、人々を苦しめる絶対君主のヤッターマンは悪と理不尽の象徴だ。そしてこの暗い世界において、笑いは未来を目指す力になる。不屈のドロンボー一味が果敢にヤッター兵に戦いを挑んでいく中で、おなじみのセリフがご先祖の言動を真似る3人の口から飛び出し、ドタバタした決死の戦いはギャグの色あいを帯びていく。


「こんなこともあろうかと用意しておきました」とふざけたセンスのメカが繰り出され、爆発とともに「スカポンターン!」とふっ飛んだドロンボー一味は、ギャグチックに壁に突っ込んで目を回す。命の瀬戸際で「アラホラサッサー」「ポチッとな」と軽口をたたき、圧倒的に不利な状況で「ドロンボーがいる限り、この世にヤッターマンは栄えない!」と3人揃って見得を切る。真っ暗な時代に、大真面目でこれらをやってのけるドロンジョたちは、なんともタフで“粋”だ。何より、覚悟を決めた行動がカッコいい。

子どもらしい正義感で、ひたむきに信じる道を貫くドロンジョことレパードは、実に愛らしくて魅力的だ。新たなトンズラーとボヤッキーを名乗るヴォルトカッツェとエレパントゥスも、ご先祖ゆずりのデベソを持つものの、言動は実にダンディーでイイ男。レパードの母親ドロシーへのプラトニックな思慕を秘めつつ、兄のように父親のように、レパードの盾となり拳となって支えつづける。

生真面目な3人が絵本で伝えられているご先祖様の振る舞いを真似て、懸命に高笑いして悪ぶる姿を見ていると、思わず応援したくなってしまう。それは正しく、ヒーローの特性に違いない。


新たなヤッターマン誕生の瞬間は見られるか?


気になるのが、ドロンジョたちと行動を共にしている少年ガリナ(ガッちゃん)と、目の見えない少女アルエット(アル)だ。声を演じているのは、2008年のリメイク版「ヤッターマン」で、主人公のガンちゃん(ヤッターマン1号)とアイちゃん(ヤッターマン2号)を演じていた、吉野裕行さんと伊藤静さん。これは何を意味しているのか?

TOKYO MXの公式サイトによれば、「夜ノヤッターマン」は、「新たな世代のドロンボーと、新たなヤッターマンの誕生を描くものである」となっている。ではガッちゃんとアルが、これから先、新たなヤッターマンになるのだろうか?

しかし、ここにも逆転の構図がある。2人にはまったく正義のヒーローらしいところがないのだ。もちろん、この息苦しい王国の絶対権力者にも向いているとは思えない。

心優しい少年ガリナは手先が器用だが、腕っぷしはからっきしで優柔不断な少年だ。決断を迫られる場面では、いつもサイコロでどうするか決めようとするくせがある。無邪気な少女アルエットは、目が見えず、夢見がちな性格で、父母が亡くなったという現実を未だに受け入れられない。

今はドロンジョたちに守られてばかりの非力な2人に、この先どんな変化が起きるのかが気になるところだ。敵対するヤッター・キングダムのゴロー将軍が、ガリナやアルエットと関連のある人物らしいことも示唆されている。いろいろ考えあわせると、一筋縄ではいかない展開が待っていそうだ。

第1話のサブタイトルにあるように、劇中において「世界は真っ暗闇」。結構シビアで、ときには人が死んだりするような展開の中で、小さなドロンジョちゃんと2人の手下ども、二枚目トンズラーと頼もしいボヤッキーが、いかにして王国に笑いと希望を取り戻してくれるのか、期待したいところだ。とはいえ、流れ次第ではどんな急転直下もありそうなのが、この作品の持ち味。ハラハラするのも止められそうにない。


(文/やまゆー)


<イントロダクション>
何が善で、何が悪なのか……!? ドロンボー一味との長き戦いを制したヤッターマンだが、彼らが築いた王国ヤッター・キングダムは平和な楽園ではなかった!? 国は疲弊し、圧政に苦しむ人々! そこに立ち上がったのは、かつてヤッターマンのライバルとして戦ったドロンボー一味の末裔で、ヤッターマンに恨みを抱くレパード。 “ドロンジョ”の後継者としてその名を受け継いだ彼女は新生ドロンボーを結成。憎きヤッターマンにデコピンするため、ヤッター・キングダムに乗り込む!!



夜ノヤッターマン 第1話(TatsunokoChannel)

ヤッターマン(2008年版) 第1話(TatsunokoChannel)

ヤッターマン(1977年版) 第1話(TatsunokoChannel)

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