【アニメコラム】アニメライターによる2015年冬アニメ中間レビュー
新年の幕開けを飾った冬アニメはどの作品も佳境を迎えている真っ最中。とりわけ1クールの作品は折り返し地点を越えているだけに多くの期待が寄せられている。そこで今回は2015年冬アニメのなか中からアニメライターが注目するの5作品をピックアップした。これまでの軌跡を振り返って、今後の展開に備えよう!
『アイドルマスター シンデレラガールズ』
「アイドルマスター」の765プロダクションが雑居ビルを拠点としていたのとは対照的に、本作のアイドルたちが所属する346プロダクションは超大手の芸能事務所。美城(346)という名が示す通り、お城のような自社ビルには撮影スタジオを完備。カフェはおろかサウナやエステルームさえ存在し、敷地内を怪獣の着ぐるみが闊歩する始末。もはや芸能事務所というより撮影所時代の映画会社を思わせる豪華絢爛ぶりだ。
ということは、新卒採用は学歴重視。あの無口なプロデューサーも実のところは絵に描いたようなエリートなのだろう。実際、売れっ子作曲家への依頼を成功させるなど手腕は確かなようだ。いつも不審者に間違えられてしまう風貌ながら、島村卯月のお母さんがやけに親切なのも3高(高学歴・高収入・高身長)という後ろ盾があることを思えば納得がいく。丁寧語を崩せないところからも育ちの良さが感じられるではないか。恐らく東大仏文科卒に違いない。
そう考えれば、思春期真っ盛りのアイドルたちとコミュニケーション不全ゆえのトラブルを起こしてしまったのも仕方のないことだと言えよう。上司の口からは、彼の元から離れていったアイドルがいたとほのめかされており、島村卯月と本田未央がオーディションの繰り上げ合格者である点も何やら示唆的だ。プロデューサーが多感な女の子の気持ちを理解し、いっしょの写真に笑顔で収まる日が来るのか。その成長を見守っていこう。
『美男高校地球防衛部LOVE!』
「こちら葛飾区亀有公園前派出所」や「銀魂」を大ヒットに導いた高松信司監督の最新作はイケメン高校生5人が織りなすオリジナル作品。地球防衛部とは名ばかりの何もしない部に所属するメンバーが、やる気があるのかないのかわからない微妙なテンションで怪人を懲らしめていく異色変身ヒーローものだ。
男子高が舞台ではあるが、いわゆる戦闘美少女アニメを下敷きにしており、変身シーンや必殺技では本家顔負けの可憐なアクションが炸裂する。そのバトル描写に加え、日常時の5人が繰り広げるグダグダなトークにも笑わせられてしまう。ときにモザイクやピー音が飛び交う過激なギャグは本作でも健在。提供クレジット時には「銀魂」でもおなじみの柱コメントが登場し、作品に関する豆知識を教えてくれるなど小ネタも充実した。キャラの名前が温泉から取られているためなのか、戦闘シーンならぬ銭湯シーンが毎回盛り込まれ、裸の場面が多いのも見逃せない。女性キャラが一切登場しないどころか、女性声優すら起用しない骨太の方針にはすがすがしささえ感じる。
『冴えない彼女の育てかた』
英国外交官を父に持つお嬢様ながら18禁同人作家として活躍するツンデレ金髪ツインテール、学年トップの才媛で累計50万部を誇る人気ラノベ作家のヤンデレ黒髪ストレート、そしてオタク文化をむやみやたらに称賛する主人公。テンプレートなキャラのオンパレードのようにも思えるが、もちろんこれは意図的に設定されたものだろう。
ある日、主人公の安芸倫也は存在感の薄い美少女・加藤恵と運命的な出会いを果たし、彼女をメインヒロインにしたギャルゲーの制作を決意する。倫也は地味な恵に「キャラが死んでいる」と言い放ち、萌えるヒロインに育て上げようと励む。しかしアニメを見慣れている我々にとっては、むしろ倫也たちのほうが「死んでいる」ように見えてしまう。ギャルゲーをプレイさせたり、ツンデレなセリフをしゃべらせたりと、オタクたちが恵に教育をほどこす様子は、まるでゾンビが生きた人間を喰らうかのようだ。
だが倫也は次第に、恵を通じてギャルゲー制作に足りなかったものに気付かされ、恵も彼らと触れ合うことで新たな一面を見せるようになる。この二次元と三次元の温かな交流はキャラクターに息吹をもたらしていく。オープニングアニメでヒロインたちが呼吸をしていたように、生き生きと表現された登場人物の姿に期待したい。
『純潔のマリア』
「もやしもん」などの代表作で知られる石川雅之さんの人気コミックを「無限のリヴァイアス」「コードギアス 反逆のルルーシュ」の谷口悟朗監督がアニメ化。戦争が嫌いな魔女・マリアを主人公としたファンタジー作品ながら、英仏百年戦争下の中世ヨーロッパを舞台としているのが大きな特徴だ。英軍がロングボウ、仏軍がクロスボウを使用している点をはじめ、緻密な時代考証が作品世界を支えている。そのいっぽう、戦争を止めるためマリアが召喚するモンスターも毎回異なっており、ドラゴン、サーペント、メリュジーヌなど多種多様。歴史とファンタジーが融合した重厚な世界観を堪能することができる。
魔女としては超一流のマリアだが、男性に対してはかなり奥手。インキュバスを作ったものの大事な部分があやふやになってしまうなど、コミカルな場面も盛り込まれている。そんな彼女の行動が大天使ミカエルの目にとまり、戦争に介入することを禁じられたことでストーリーが進展していく。絶対的な力を持つミカエルや、戦争を生活の糧にしているオリジナルキャラなど、谷口監督らしいモチーフも見受けられ、一筋縄ではいかない展開が待ち受けていそうだ。
『うわばきクック』
左足用のうわばきのクックが、離ればなれになった右足用のお兄ちゃん・カックを探すショートアニメシリーズ。旅の途中でいろいろなキャラクターたちと出会い、成長していくロードムービーである。一見キッズ向けのビジュアルながら、ストーリーは意外とシビア。他のキャラにだまされたり、大量のハチに刺されたり、お兄ちゃんが燃えるゴミとして処分されたのではとネガティブになったりと、多くの試練が襲いかかるものの、持ち前の明るさで乗り越えていくクックの姿が愛らしい。
本編では毎回3択のクイズが出題されるが、その中には正解がなかったり、さらには答えを教えてくれなかったりと、少しシュールな展開もスパイスが効いている。クック役の久野美咲さん、カック役の興津和幸さん、空き缶役の杉田智和さんなど、人気声優陣が集結しているのもポイント。監督・脚本は「TIGER & BUNNY」でシリーズ構成を手がけた西田征史さんが担当。本作ではナレーションも務めており、元お笑い芸人という経歴を生かした情感たっぷりのやさしい声色でクックの旅を応援している。
(文/高橋克則)
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