【懐かしアニメ回顧録第3回】セルアニメ版「アップルシード」。唯一の実写映像付きOVA!!

ベテランライター廣田恵介氏が、懐かしいアニメ作品を回顧する「中年アニメライターの懐かしアニメ回顧録」。

第3回は、最新作「アップルシードアルファ」が先月公開されたアニメシリーズ「アップルシード」の原点に迫る。「APPLESEED」(2004年)、「EX MACHINA」(2007年)、「APPLESEED XIII」(2011年)と、『アップルシード』とくれば3DCGというイメージが定着しているが、実は1988年に1本だけ、セルアニメとして制作されていたのだ!!



「アップルシードアルファ」の宣伝展開を見ていて、「おお、これはまた懐かしいビジュアルだな」と思った。映像のことではない、コスプレのことだ。菊地亜美や岸明日香、中原未來といったグラビアアイドルが、主人公デュナンのコスチュームを着て、ブリアレオスの着ぐるみを着た男性と並んでポーズを決めている――「確かに、見覚えがあるな」と思った人は、バンダイの情報誌「B-CLUB」の読者だったのではないだろうか?
まずは「B-CLUB」という雑誌の説明から始めよう。バンダイが発行していた月刊誌なので、当然、バンダイの出資しているアニメや特撮の情報が多い。多いのだが、たまにバンダイとはあまり関係のない作品まで「これ面白いぞ!」と、編集部の独断で持ち上げるところが、「B-CLUB」の特徴であった。

その「B-CLUB」イチオシの1本が、まだ士郎正宗氏の原作漫画しか存在していなかった「アップルシード」なのだ。士郎氏へのインタビューはもちろん、フィギュアを制作するなど「アップルシード」世界の立体化にもチャレンジしはじめた「B-CLUB」誌は、ついに1/1実寸大のブリアレオスの頭部を作ってしまった。
いくら何でもノリすぎではないかと思うのだが、さらにデュナンのコスチュームまで制作。白人女性にコスプレさせて、あたかも実写映画が存在するかのような写真を撮りはじめた。まだアニメにもなっていないのに、なぜここまで……とあっけにとられている間に、「アップルシード」のアニメ化計画が進んでいたのであった。

当時、「アップルシード」も士郎氏も知る人ぞ知るマイナーな存在だったので、「アップルシード」アニメ化情報については「B-CLUB」がもっとも早く、もっとも詳しかった。当初は「GAINAX制作の劇場用アニメ」と報じられたが、後に60分ほどのOVAと訂正される。また、GAINAXは直接制作には携わらず、AICとセンテスタジオの制作であることが明らかになってくる。AICは当時、「メガゾーン23」(1985年)、「バブルガム・クライシス」(1987年)などのOVAをヒットさせていたので、メカ物なら得意だろうと予想がつく。


ところが、センテ・スタジオ……って何だっけ?と、誰もが眉をひそめた。実は「アモン・サーガ」(1986年)という夢枕獏原作のファンタジー・アニメを制作していたのだが、「ああ、あのアモン・サーガを作ったセンテ・スタジオね!」と即座にピンとくる人は、日本全国でごく少数ではないだろうか。ともあれ、当時、「王立宇宙軍 オネアミスの翼」でアニメ界の話題をさらっていたGAINAXが「アップルシード」をアニメ化する!というサプライズは、少しずつ薄れていった。

ともあれ、1988年春に「アップルシード」初のアニメ化作品が発売された。原作ファンは、誰もががくぜんとしたはずである。絵の雰囲気が、原作とまったく違うからだ。キャラクターデザインは洞沢由美子氏。当時はスタジオぴえろ制作の魔女っ子シリーズの作画監督として活躍しており、「魔法のアイドル パステルユーミ」(1986年)のキャラクターデザインを手がけていた。80年代はぴえろの魔女っ子シリーズも大人気だったのだが、士郎正宗氏の絵とはちょっと方向性が違うというか、「アップルシード」と魔女っ子シリーズには遠大な距離感があったと言わざるを得ない。アニメ版「アップルシード」は、どこかふんわりとやわらかい絵柄なのだ。

では、監督は誰だったのか? 「風の谷のナウシカ」(1984年)で演出助手をつとめ、後に「ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日」(1991年)のアニメーションディレクターとして大活躍する片山一良氏が、脚本と監督を手がけている。しかし、士郎氏の原作は欄外にまでビッシリと裏設定の描きこまれた密度感が魅力だったはず。
一読しただけでは、何がどうなっているのかわからないが、とにかく偏執的なメカの描き込みがカッコいい。デッサンのしっかりした女の子たちがカワイイ。そうしたフェティシズムは、アニメの「アップルシード」からは感じられない。何だか、やけに見晴らしがいい。スカッと抜けた感じがするのだ。

だが、その「抜けた感じ」が、1988年版「アップルシード」のキモなのだ。密度の高い映像を楽しみたければ、それこそ2004年以降の「アップルシード」シリーズを見ればいい。いま、1988年版「アップルシード」を見ると、あの難解な原作漫画の骨格が少しずつ見えてくるのだ。「なるほど、そういう話だったのか」と、ちょっとだけ説得されてしまう。なので、「もともと、どういう話だっけ?」と記憶を整理したい人には、うってつけのアニメなのだ。

そして、「B-CLUB」が暴走気味に作ったブリアレオスとデュナンのコスプレは、ショートフィルムとしてDVDに収録されている(世界で唯一の実写映像化!)。こちらも原作を咀嚼(そしゃく)した内容となっており、そのチープな舞台セットに「ドラクエIII」のヒットした1988年の空気が凝縮されていて、不思議と心なごむはずだ。

(文/廣田恵介)

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