【スタッフに注目! お宝作品発掘】「おおきく振りかぶって」 ─「SHIROBAKO」の水島努監督による高校野球青春アニメ─

スタッフつながりで見ていくと、アニメはもっとおもしろい!

このコラムでは、アニメライターがスタッフ関連で注目したい過去の良作品を紹介します。


弱気なエースと強引な捕手のミラクルな出会い


美少女アニメとしての体裁をとりながら、アニメ業界の今を描く「SHIROBAKO」。そこで描かれるアニメの制作現場の美術は、取材でかいま見たことのある人間としては、ちょっと驚くほどの再現レベルだ。ありのままに、そのまんま!

美少女たちが前向きにがんばる姿は気持ちがよく、なかなかに厳しいアニメの制作事情もすんなりと見られてしまう。かといって、極度に美化せず、笑いで茶化したりもしない(パロディ満載だが!)。アニメの制作現場の空気が伝わってくる。それを支えているのが、しっかりと描きこまれた現実感のある背景だ。

この作品を見ていて思い出したのが、同じ水島努監督による野球アニメ、「おおきく振りかぶって」および「おおきく振りかぶって~夏の大会編~」だ。


「おおきく振りかぶって」(第1期)は、ひぐちアサさん作のコミックを原作として制作された高校野球アニメ。2007年4月から全25話が放送された(未放送の特別編あり)。続編の「おおきく振りかぶって~夏の大会編~」は、2010年4月から全13話(未放送の12.5話あり)。

舞台となるのは、埼玉県の公立西浦高校。硬式の野球部は今年発足したばかりで、部員は1年生ばかりが10人。「野球を本当に楽しめるのは、真剣に勝ちたい人だけ」という女性監督・百枝まりあ(モモカン)の指導の下、10人の1年生たちはやる気と潜在力を引き出され、厳しい練習を楽しみながら乗り越えて、夏の甲子園大会の埼玉県予選に挑んでいく。

中心となるのは、弱気なエース・三橋廉と、リードに自信があってやや強引な捕手・阿部隆也の関係性だ。この2人の物語が、とにかくおもしろい。

第1期冒頭では、中学時代の体験から自分を“ヘボピッチャー”だと思いこみ、自信を根こそぎ喪失している三橋が、自信たっぷりの阿部と出会い、「俺がお前を本当のエースにしてやる」と宣言される。改めて見ても、インパクトのある始まり方で心が踊る。

バッテリーとなった2人の相性は、性格的に決してよくない。阿部は短気ですぐイラ立つし、コミュニケーション能力に難ありの三橋は常にビクビク、オドオドだ。2人のやりとりは常に、チームメイトもハラハラするような危うさをはらんでいる。

でも三橋は、どなられて涙目になりながらも、リードで自分を「エース」にしてくれる阿部を一途に信頼する。そして阿部は、投手との関係でトラウマがあるため意固地になっているが、三橋に無条件に信頼されて心打たれ、こちらも次第に変わっていく。

この2人を見ているだけで、何度見ても飽きないほどの楽しさがある。そこに、ほかの個性豊かでひたむきな西浦ナインが絡んできて、集団劇としても楽しいものになっている。

大柄な自信家に見えて実は結構繊細な、面倒見のいいキャプテン花井梓。チーム一番の野球センスを持つ小柄な天才、天真爛漫な田島悠一郎。天然な三橋や田島と仲がよく、チーム全体をクールに見ている泉孝介。ちょっと抜けたところがあるけれど、のんびり屋で人なつっこい水谷文貴、などなど……。

最初は見知らぬ他人として出会った西浦の1年生10人が、どんどん「チーム」になっていく姿には、モモカン(百枝まりあ監督)でなくてもワクワクさせられる。日常にも部活にも試合にも、ナマの高校生のキラッキラした感じがいっぱいに詰まっているのだ。

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