【懐かしアニメ回顧録第4回】「タイムボカン」王道コメディシリーズの第1作目!

タイムボカンシリーズ第二弾『ヤッターマン』の後日譚、『夜ノヤッターマン』が好評だ。しかし、リメイクや実写映画化など話題に事欠かない『ヤッターマン』に比べて、いまひとつかえりみられる機会のないのがシリーズ第一弾『タイムボカン』(1975年)だろう。

ベテランライター廣田恵介氏が、懐かしいアニメ作品を回顧する「中年アニメライターの懐かしアニメ回顧録」、第4回は『タイムボカン』にスポットを当て、その魅力の原点に迫る。



『タイムボカン』放送の1975年といえば、『マジンガーZ』『グレートマジンガー』が終わり、新機軸の『UFOロボ グレンダイザー』がスタートした年。『ゲッターロボ』は『ゲッターロボG』にバトンタッチされ、ロボットアニメは第2ラウンドに入っていた。ロボットの登場しないメカ物に目を移すと、『宇宙戦艦ヤマト』が低視聴率のまま打ち切られたのが、やはり1975年。

ロボット物もメカ物も、「シリアスで当たり前」、「主役級のキャラクターが死ぬのも当然」。さらに言うなら、『フランダースの犬』でネロとパトラッシュが天国へ旅立ったのも1975年。ブラウン管からは、硬質な悲壮感が漂っていた。


ところが、『タイムボカン』はオープニングでいきなり、主役メカが爆発してしまう(正確には、爆発の中からメインタイトルが飛び出す演出)。悪玉メカのタイムガイコッツの必殺武器はいつも必ず爆弾で、タイムボカン側は毎回、爆弾を送り返して敵を爆発させて勝利する。

何はともあれ爆弾・爆発でカタをつける大雑把さが、心地よかった。もちろん、爆発しても誰も死なない。他の子供向けアニメがシリアス一辺倒に傾く中、「アニメなんてアバウトでいいんだよ、アバウトで! なあキミ!」と大人から力強く肩を叩かれたような、解放された気分だった。どうせ最後は爆発するんだから、それまでのお話はボーッと見ていても大丈夫。好きなところだけ、集中して見ていればいい。


主役メカは、男子なら誰でも大好きなカブトムシがモデル。そして、彼らを追いかけてくるマージョ一味の使うメカはガイコッツをコアにしながらも、毎回デザインが違う。コンセプトの違うメカ同士の追いかけっことくれば、『チキチキマシン猛レース』だ。僕は、東京12チャンネル(現・テレビ東京)の「マンガのくに」という枠で見ていたんだけど、『チキチキマシン~』も、やたら衝突したり壁や天井をぶち抜いたり、もちろんダイナマイトでの爆発や自爆、その手の荒っぽいギャグばかりだった。

関係者に取材してみると、『タイムボカン』は、企画初期は善玉と悪玉がレースする話だったそうで、ほんの数年前に放送されていた『チキチキマシン~』の影響は大きかったものと思われる。収納スペースのない所からマジックハンドが飛び出てきたり、ジャバラさえあればビヨ~ンと無限に伸びたり、メカニックに対する無邪気な信頼感・万能感も『タイムボカン』と『チキチキマシン~』の共通点だ。「まあ、何とかなるよ」「次、また頑張ればいいじゃん」と、楽観的な気分になれた。あの大らかさは、当時の子どもたちの科学観・文明観に大きな影響を与えたはず。


だが、『チキチキマシン~』には唯一、不満があった。紅一点のミルクちゃんが、あまりかわいくない。彼女がピンチに陥ったりすると、子ども心にもドキドキしたものだが、三白眼だしアゴはないし(正確には首が服に隠れている)、顔がアップになるとシラけてしまう。いくらメカ物好きの小学生男子でも、ヒロインの存在は気にかかる。できれば、美人でいてほしい。

その点、『タイムボカン』の主人公は男女ペアで、ヒロインの淳子はまつ毛と唇にしっとりした色気が香る(後に設定年齢10歳と知って愕然とした)。主人公の丹平がゲスト・キャラの女の子と仲良くなると、淳子はヤキモチをやいたりする。『タイムボカン』の女性キャラクターでは、悪玉トリオのマージョが画期的だという人が多いだろう。だが、マージョは、シリーズ第2弾『ヤッターマン』(1977年)のドロンジョ様によって完成されるプロトタイプといった趣きが強い。

『タイムボカン』は『ヤッターマン』に比べると設定のツメが甘く、主役の丹平と淳子は変身するわけではなく、なぜか普段から専用コスチュームを着ている。ヒーローでもないし、必殺技もない。設定が薄い分、ちょっとした描写が気になる。オープニングで2人はメカブトンの上で肩を寄せ合い、ハートマークが浮かんだりしているが、特に深い意味はないらしい。本編でも、丹平と淳子が手を触れ合わせて頬を赤らめ……といった描写が散見されるが、2人が恋仲であるという証拠としては薄すぎる。一体どういう関係なのだ、丹平と淳子は?

あいまいだからこそ、かえって気になってしまう。淳子の存在が。天野喜孝による、妖艶とさえいえるキャラクターデザインが引き立つ。『ヤッターマン』以降のヒロイン(もちろん正義側の女子キャラ)も、それぞれかわいいのだが、淳子のキャラクターデザインには迷いがある。どのくらいリアルに描けばいいのかコンセプトがグラついていて、そこが魅力になっているのだ。


ついうっかり、淳子について暑苦しく語ってしまった。いま、『タイムボカン』を見直してみると、まだ誰も踏破していない新大陸への第一歩、それも恐る恐るの第一歩、その瑞々しさを感じることができる。これでいいのか? こんなアバウトなままでいいのか? でも、もう放送が始まってしまう……いいや、最初に爆発させちゃえば大丈夫だろ! まずは爆発! そんなヤケクソのような勇気に元気づけられるのは、僕だけだろうか?

(文/廣田恵介)

<イントロダクション>
ついに完成したタイムマシン・タイムボカンの試運転で、どこかの時代へとタイムスリップした木江田博士。しかし、戻ってきたタイムボカンには博士の姿は無く、オウムのペラ助と、宇宙一高価と言われる宝石「ダイナモンド」が残されていた。博士の助手の丹平と孫娘の淳子は、タイムボカンで博士の捜索を開始。しかし、悪玉トリオのマージョ一味も、ダイナモンドを狙って丹平たちを追いかける。



タイムボカン 第1話(TatsunokoChannel)

ヤッターマン(1977年版) 第1話(TatsunokoChannel)

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