【季節を楽しむオススメ作品第1回】 春だから恋しよう! ふんわり切ない桜色のラブストーリー

四季折々、この時期にこそ楽しめるアニメがある! 季節の話題にまつわる新旧の良作品をアニメライターが紹介します。春を彩る桜の花は、やわらかくあたたかい色に輝きながら、変わりゆくはかなさを感じさせてくれる心のよう。かわいらしくて愛らしくてちょっと切ない、春らしい恋をテーマにしたアニメ作品を集めてみました。見たらほっこり、心があたたかくなりますよ。


まずは、きわめて王道な青春ラブストーリーから。


「たまこラブストーリー」(2014年公開)


古き良き商店街の中にあるもち屋の娘・北白川たまこが、高校卒業を前にして、幼なじみの大路もち蔵の告白を受け、互いを意識しあうピュアなラブストーリー。テレビシリーズ「たまこまーけっと」の続編ですが、本作は、アニメ映画として劇場公開されました。

ラブストーリーというと、何かしら2人が乗り越えるべき障壁が存在して恋を盛り上げるもの。でも、この話では特別ドラマチックな障害はありません。あるのは、告白する勇気を出す難しさ。そして、過ぎ去っていく時間という現実です。

テレビシリーズでは、もち蔵の思いにまったく気付かなかったたまこは、天然で恋に鈍感な女の子でした。そんな彼女が、恋という気持ちを知ったときに見せる変化といったら……。萌えとも照れともじれともつかない、たまらない気持ちにさせられます!

たまこもピュアですが、もち蔵が本当によい子で、女子目線から見ても彼のたまこに対する優しさは感動的。テレビシリーズから見ていた身としては、永遠に片思いキャラで終わりそうだったもち蔵の思いが、たまこに通じて「よかったねえ……(ほろり)」という気持ちになります。幼なじみ愛っていいですね!


君に届け」(第1期/2009年・第2期/2011年放送)


高校でクラスになじめなかった黒沼爽子が、学年の人気者で偏見を持たない風早翔太と話をしたことから、少しずつ成長していく青春ストーリー。友情や進路などと並んで、風早への気持ちを「恋」と自覚していく爽子の変化が、ていねいに描かれています。

こちらも見ていて何がほっこりするって、爽子がピュアなら風早もさわやか。こんな2人が互いを思いあっていたら、「うまくいってほしい!」とジリジリしてしまいます。でも、周囲が無理解だったり、恋のライバルが登場したりと、現実味のある問題も描かれて、いい意味でハラハラドキドキさせられます。

ピュアな2人が現実に負けず、少しずつ思いをつないでいく様子は胸キュンもの! ひとときひとときが宝物のような青春を味わえます。恋だけでなく、友情のドラマもじんわりと心にキます。


ここからは、ひと味ちがった仕かけが恋を盛り上げる作品をご紹介しましょう。


「桜蘭高校ホスト部」(2006年放送)


舞台は、セレブの子弟が集う共学私立高校。暇をもてあます美少年たちが暇をもてあます女生徒たちをもてなす「ホスト部」に入部するハメになった女の子、藤岡ハルヒが主人公のラブコメディー。

一見BLもののようにも見えるけれど、描かれるのは、男装してホスト部で隠れ紅一点を務めるハルヒと、周囲の部員たち(男子)との、きわめてノーマルな男女の恋です。

容姿が中性的で性格がさっぱりしたハルヒは、恋愛に関して相当うとい一面があって、時に残酷なほど。また、ハルヒに思いを寄せるホスト部部長の須王環が、これまた自分の気持ちに無自覚の超鈍感。おかげで、恋の物語はさっぱり進展しません!

ラブストーリーというよりは、ハルヒと環はもちろんのこと、メインキャラであるホスト部部員たちが、それぞれの家の問題や心の問題を乗り越えていくのが見どころの、青春ものと言えるかも。重くなく、コミカルに楽しめます。


神様はじめました」(第1期/2012年・第2期/2015年放送)


こちらは、土地神となった少女と、神に仕える神使(しんし)の、いわば異形の恋です。といっても、神様は高校生の女の子で、神使は美青年。ビジュアルに違和感はありません。

自宅を借金のカタに取りあげられ、ホームレス状態になった高校生の桃園奈々生(ももぞのななみ)は、さまよっているところを土地神に助けられて、神社で暮らし、土地神の仕事を代わりに行うことになります。神使の巴衛(ともえ)は、口が悪く態度も厳しいけれど、さりげない優しさももちあわせた頼れるイケメン。奈々生は巴衛のことが好きになってしまいます。

巴衛は500年以上生きている存在で、過去にもいろいろあったらしく、奈々生の恋はなかなか前途多難。それでも奈々生が前向きで明るくメゲない女の子なので、ひたむきな思いを応援したくなります。

神使との契約がキスだったり、危険なところを巴衛に助けられたり、ほかにもイケメン妖キャラが勢揃い、とトキメキ要素もバッチリ。テンポよく、キャラもかわいらしいので、見ていてほっこり。満足感の高いアニメです。


「一週間フレンズ」(2014年放送)


高校2年生の長谷祐樹が友達になった、同級生の藤宮香織は、1週間ごとの週末に友達の記憶が消えてしまうという障害を持っていました。祐樹は親身になって香織の気持ちによりそい、懸命に新たな時間と関係をつむいでいきます。

ヒロインの記憶が恋の障害という、珍しいシチュエーションの話です。「友達になってください」から始まる祐樹と香織の関係は、恋なのか友情なのか? 微妙なところですが、互いを大切に思いあう気持ちは、やはり恋以外の何ものでもありません。

思い出とは、いっしょにいた時間を記憶し、積み重ねていくこと。そんなあたりまえの事実が、奇跡的に尊い。大切な人同士、お互いの笑顔が見られるのって、何よりも幸せなことなんだとしみじみさせられます。

恋のライバルの九条一も含めて、イヤな人間が登場しない作品。だからこそ、香織を思いやる祐樹があまりにもひたむきでやさしくて、見ているほうも切なくなります。


最後は、とめどようもなく時間が過ぎていくことの切なさをより感じられる、ちょっと大人向けのこの作品を。



「秒速5センチメートル」(2007年公開)


新海誠監督による映画です。「桜花抄」「コスモナウト」「秒速5センチメートル」という短編3話。思いを寄せあった1組の男の子と女の子の、時間と距離を越えた関係の変化を描きます。タイトルの意味は、「桜の花びらが落ちていくスピード」のこと。

東京の小学校で出会った遠野貴樹と篠原明里は、互いに淡い思いを寄せあい、卒業後離ればなれになっても文通を続けていました。鹿児島への転校が決まった中学生の貴樹は、せめて東京にいる間にと、栃木に住む明里に電車に乗って会いにいきます。そして時は流れ……。

現実を切り取った1カット1カットが、美しい情景の中に登場人物の思いを秘めたものになっています。両思いの貴樹や明里、貴樹に片思いする澄田花苗にどんな感情をいだくかは、見る人によりずいぶん違うでしょう。


見たあとは、なんともやるせない、けれど心が洗われたような気持ちになります。



以上、春らしい恋の話を6作品ご紹介しました。

桜の花も、散っていくときにはどうしようもなく寂しいものです。桜色の恋を描いた話は、甘くやさしいだけでなく、どこかにほろにがさをはらんでいるのかもしれませんね。

(文やまゆー)

おすすめ記事