【懐かしアニメ回顧録第5回】映画第1作「うる星やつら オンリー・ユー」!! 思春期にトラウマを残した悪夢の試写イベントとは!?

ベテランライター・廣田恵介氏が、懐かしいアニメ作品を回顧する「懐かしアニメ回顧録」。その時代を知っている世代には懐かしく、知らない世代には、新たな作品を知るいいきっかけとなるだろう。今回は、高橋留美子原作の大人気SFコメディ「うる星やつら」の劇場版シリーズ第1作「うる星やつら オンリー・ユー」を取り上げる。






高橋留美子原作の「境界のRINNE」がスタートした。おそらく、世代ごとに“アニメ化された高橋留美子の漫画”というのはイメージが違っていて、「犬夜叉」こそが代表作という人もいれば、私がぞっこんだったのは「らんま1/2」だという人もいるだろう。今でもよく覚えているのだが、アニメ雑誌を通じて「うる星やつら」のグッズを売却したとき、買ってくれた高橋留美子ファンが「らんま1/2」の話題をふってきて、それについていけなかった記憶がある。「らんま1/2」は1989年放送開始なので、その頃には「うる星やつら」のファンをやめていたことになる。なぜ、ファンをやめたのか。公式ファンクラブ「うる星くらぶ」の会報をすべて売ってしまったのか。映画第1作「うる星やつら オンリー・ユー」(1983年)に、その原因を求めることができる。

「全体が映画になっていないということがショックだった。ただのテレビのでかいものであって、それがショックだった」(徳間書店「イノセンス 押井守の世界」より)と監督自らが語るほど、「オンリー・ユー」の評価は低い。押井守監督作品の中でも「うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー」(1984年)の方が傑作、代表作と認められている。だが、僕は「ビューティフル・ドリーマー」は映画館に見にいかなかった(何年もしてからビデオで見た)。半面、「オンリー・ユー」の方は、専用ハガキで応募して当選しないとチケットすら買えないプレミアム試写会に足を運んだほど熱心だった。

だが、そのような熱心なファンが選ばれて集まる試写会だったからこそ、トラウマになるような光景を目にすることになった。主題歌や挿入歌をうたうアーティストたちのライブが終わると、いよいよ「オンリー・ユー」の試写会が始まった。すると、客席前に三脚が立てられ、またたく間にカメラの砲列が出来たのだ。その当時は映画館で写真を撮るマニアは多かった(アニメや特撮のオールナイトには必ずいた)が、この数は尋常ではない。そして、映画が進行し、服を盗まれたラムちゃんが目を覚ますカット。一瞬だが、ラムちゃんの胸が見える。カメラのシャッター音が場内に鳴り響いたのは、その瞬間である。カメラを並べていたファンたちは、ラムちゃんの胸チラを目当てに来ていたのだ。ショックだった。「こんな奴らと同じ人種と思われたくない」と思った。

帰り道、足は重たかった。確かにラムちゃんは魅力的なヒロインだが、そこまで割り切って性的な対象として見ることはできなかったからだ。16歳の僕は、潔癖症だったのかもしれない。

映画は面白かった。映画だけのゲストキャラクター“エル”の声が、後にハマーン・カーンやクシャナを演じる榊原良子さんで、シーンによっては甘ったれるような声を出している。榊原さんの甘え声はレアだ。声優の話を続けると、「ラムのラブソング」を歌っていた松谷祐子さんがUFOの艦長として出演したのもうれしかった。僕は押井監督の作家性よりも、主題歌歌手が声優として特別出演するとか、ラムちゃん役の平野文さんが挿入歌を歌うとか、そういうわかりやすい豪華さでお腹いっぱいだった。テレビシリーズの流れをくんだお約束のギャグも網羅されていたので、それで十分。ただ、ラムちゃんの胸チラが必須だったかというと、そういう描写は心の中でこっそり楽しむべきものだと思っていたし、今でもそう思う。人前で、堂々とカメラに収めてしまう神経をはかりかねた。


「オンリー・ユー」は映画館でも見たはずだが、試写会前に比べて熱は冷めていた。いっしょに見に行った友だちから「ラムちゃんの胸チラ・シーンがよかった」と言われて、返答に窮した。そういうシーンを楽しみにして「うる星やつら」を好きになったわけじゃない。ギャグが面白くて、それでいてかわいいヒロインが出てくる、その華やかなバランスが好きだった。恋愛に比重がおかれたエピソードであっても、ギャグだけは忘れないでほしい――「オンリー・ユー」は、その節度をたもった映画だったのに、胸チラ・シーンに向けられたカメラの砲列が、作品のイメージを侵食してしまった。「いつ・どこで・誰と」見たのか、映画にとっては大事な要素である。


「オンリー・ユー」公開の1983年夏、テレビシリーズの主題歌が「ラムのラブソング」から「Dancing Star」へ変わった。さらに翌年、チーフディレクターが押井守さんからやまざきかずおさんへ、制作会社もスタジオぴえろからディーンへ変わった。「うる星」も一周したんだな……と、ますます気持ちは遠のいていった。

昨年、仕事の関係で30年ぶりに「オンリー・ユー」を見た。榊原良子さんの演じるエルは未完成で消化不良だが、それゆえに愛らしい。当時、榊原さんは27歳。「スペースコブラ」(1982年)でレディの声を担当していたが、恋に破れたまま宇宙のどこかへ消え去ってしまうエルの悲哀は、やはり27歳の榊原さんでないと演じられなかったと思う。高校生だった公開当時より、ずっと魅力的に感じられた。


(文/廣田恵介)

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