【中国オタクのアニメ事情】中国の日本のアニメ取締りと、4月の新作アニメへの影響

中国オタク事情に関するあれこれを紹介している百元籠羊と申します。

今回は3月末に中国の動画サイトに対して起こった日本のアニメ作品取締りと、そんな中で配信が始まった4月の新作アニメなどに関して紹介させていただきます。




4月の新作アニメ配信開始直前に起こったアニメの取締り


3月末に起こった取締りによって中国の動画サイトでは、かなり多くの日本のアニメ作品が視聴できなくなりました。また現在中国の動画サイトでは日本アニメの正規配信への影響も少なからず大きなものとなってしまいました。この取締りにおいて名指しで批判された作品は「残響のテロル」「Blood-C」「学園黙示録 HIGHSCHOOL OF THE DEAD」で、このうち「残響のテロル」は正規に配信されていたものです。(他の2作に関しては不明)

また、他の視聴できなくなった作品の中には「進撃の巨人」「寄生獣」「東京喰種トーキョーグール√A」「ソードアート・オンライン」など、中国で大人気となっていた正規配信の作品も含まれ、取締りが行われた中国の動画サイトで4月の新作アニメの配信に関する情報が出回るタイミングに重なったことから、中国の動画サイト業界、オタク界隈は大混乱となりました。


4月の新作アニメへの影響


今回の取締りは中国では珍しくない「理由は挙げられているものの、ガイドラインや取締りの範囲は明確ではない」ものでしたが、これまでのアニメの取締りにおいて主な理由とされていたポルノ的な描写や暴力的な描写以外に「テロ」に関する描写が加わり、しかもその「テロ」に関する言及が真っ先に行われたことから、今までにない新たな規制の動きだとされています。また、新しい規制の動きということで中国側の現場にとっても判断材料が乏しく、配慮するための内容や表現レベルに関しても手探りで決めるしかない面もあり、配信開始直前だった4月の新作アニメへも大きな影響が出ました。

すでに配信に関する情報や告知が流れていた作品の中には結局配信されることのなかった作品が出ましたし、配信が開始された作品の中にも自主規制による修正が加えられて配信される作品も出ています。しかし、なかには規制の影響が思わぬ形でプラスとなった作品も出ているようで……。以下にそんな規制の影響が結果的にプラスに作用したと思われる作品について、行われた規制への対策とともに紹介させていただきます。


●血界戦線

現在規制の影響がもっともわかりやすい形で出ているのが「血界戦線」です。「血界戦線」は原作漫画が中国では広まっていないうえに、同じ原作者の作品「TRIGUN」ファンも現在の中国オタクでは主流の世代ではなくなっていたことなどから、規制前、配信に関する情報が流れ始めた頃は中国のオタク界隈では一部のマニア層を除いて注目されず、あえて言えば制作会社のボンズに関して話題になっている程度でした。しかし、取締りの動きが出てからは中身に加えタイトルが問題視されたのか、「幻界戦線」という中国語のタイトルに変更されて配信となりました。このごまかしというか無理矢理なタイトル変更が話題となり事前に想像されていた以上に注目を集めました。またそれにいつ規制されるか、いつまで視聴可能なのかわからない!」といったイメージも加わり、規制関係のリスクを考えなければ非常に順調なスタートとなった模様。新作アニメが次々と入れ替わる昨今の状況では、配信開始前時点での知名度が低い作品の場合どうしても初動が鈍くなり、その後評価は高まってもアクセス数の方はイマイチ伸びないというケースも少なくないのですが、この「血界戦線」に関しては規制の動きで配信開始直後から注目が集まることとなりました。そして「血界戦線」は作品の内容に関してもバトルシーンのクオリティが高い、中国の視聴者好みの群像劇ということから中国のオタク層にとってはかなり好みに合う作品と受け止められたようで、その後も順調に人気を集め、現在中国のオタク界隈では4月新作アニメのダークホースの1つといった扱いになっています。


●食戟のソーマ

「食戟のソーマ」は料理に対する派手なリアクションに、お色気要素が混じっているのが特徴の1つかと思いますが、中国の動画サイトにおける配信ではそのお色気交じりのリアクションが問題視されたのか、その手のシーンになると動画サイトの自主規制が入り画面が真っ暗になってしまったりするそうです。しかし、実際に現地で規制アリのバージョンの配信が始まると、「作中の食事に関するリアクションのエロバカ的な演出が規制されてしまった!」という点が第1話からスゴイ勢いで話題になりました。その後も「どこが規制されたのか」ということについての話題が中国のオタク界隈では頻繁に飛び交うようになりました。「食戟のソーマ」に関しては、前評判は良好でしたが、直近に他のグルメ要素のあるアニメの人気が、中国の動画サイト上ではあまり盛り上がらなかったことや、現在の中国オタク界隈では漫画の影響力が日本に比べて小さいことから、初動の時点ではそれほど伸びないのでは……という見方もありました。ですが自主規制に関する方面の話題も加わったことにより、最初から予想以上に注目が集まりました。「食戟のソーマ」は食事のリアクションがエロバカ的な方向になっているというネタ方面からの入りやすさ、話題にしやすいというのもあって人気もどんどん高まっていきました。現時点ではおそらく話題性、ネタ方面の注目に関しては4月の新作アニメの中ではトップクラスの位置にある作品になっていると思われます。



●対策の効果は?
終わりに、今回の取締りと規制の動きに対して中国の動画サイトで行われている対策、「自主規制」「タイトル変更」の効果はどの程度期待できるのかということについて書かせていただきます。

まず自主規制についてですが、今回の取締りは手続き的なものではなくアニメの内容に踏み込んだものでした。取締りのターゲットとなってしまった場合、言い訳の材料としては少々厳しいものがあります。そしてタイトル変更ですが、こちらも効果はあまり期待できません。実は今回の取締りで名指しで批判対象となった「残響のテロル」は、昨年中国で配信される際に「テロ」という言葉がタイトルに入るのを回避しようとしたためか、「東京残響」という中国語タイトルで配信されていました。結局のところ、中国では対策の有無に関わらず目をつけられたらどうしようもないといったところがあります。またそういった背景もあってか、これまで中国のオタク業界の人やファンたちからは、「自分たちのオタク趣味を守ろう」「社会的な批判や政府の取締りを受けないようにルール作りを行おう」という動きはなかなか出ませんでした。しかし実際に取締りや規制の対象となってしまえば何もやらないわけにはいきませんし、政府に対しても取締りをきちんと意識していることをアピールしないといけませんから、「効果は不明」「でもやらないよりはマシ」といったところなのではないかと思われます。

(文/百元籠羊)

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