【季節を楽しむオススメ作品第3回】時には雨宿りもいいね。しっとり梅雨にひたって夏を待つ不思議アニメ

四季折々、この時期にこそ楽しめるアニメがある! 季節の話題にまつわる新旧の良作品をアニメライターが紹介します。

毎日のように降る雨を、うっとうしく思う人も多いでしょう。でも雨音に閉ざされる梅雨の時期こそ、雨の物語を楽しむ好機! 知らないもの同士がふと立ち止まる雨宿りも、そのあとに出る小さな虹も、好きになれそうです。



「言の葉の庭」(2013年公開)


高校生のタカオは、大好きな雨が降ると学校をさぼり、日本庭園のお気に入りの場所で過ごすのがクセでした。ある日そこで出会ったのは、年上の女性・ユキノ。ふたりは雨の日だけ、まるで約束したかのように出会い、いっしょに過ごす時間を重ねていきます。やがて梅雨が明け、会えない時間が続くうち、タカオはひょんなことからユキノの仕事や悩みのことを知ることになります。

新海誠監督の得意とする美しい風景描写で、梅雨から夏にかけてのさまざまな雨の情景が描かれる、まさしく「雨」のアニメ。しっとりと降りこめる梅雨の雨から、天気雨、夏の夕立まで、さまざまな雨が表情豊かに、惹かれ合うふたりの心に重ねて描かれます。


描かれるのは、年齢も名前も関係なく惹かれあう孤独な心。悩めるふたりにとって、雨の中ふと触れ合った思いは、次の晴れ間を待つまでの、大切な雨宿りの時間だったのかもしれません。こんな出会い、こんな恋がしてみたいと思いつつ、雨の音に耳をすませてみたくなります。


「蟲師」(2005年放送)


“蟲師”を生業とする主人公のギンコが、さまざまな“蟲”が関わる不思議な事象に向き合っていく物語。アニメ第1期の第7話「雨がくる虹がたつ」は、雨と虹が関わるエピソードになっています。

雨宿りでギンコが出会った男・虹郎は、病にふせる父親のために虹をつかまえるつもりだと言います。父親は奇妙な虹に取り憑かれ、雨が降ると虹を探して駆け出さずにはいられなかったというのです。

ギンコはそれが普通の虹ではなく、“蟲”であることを察して、虹郎とともに虹を探しにいきます。求めるものを追いつづける虹郎は、やがて周囲から変人扱いされてきた父親の思いを知ることに……。


彩度を落とした画面の中、何度も登場する虹は不可思議に美しく、見る者を誘います。本当に目の前に虹が現れたら、触りたくなりそうです。そんな怪異に巡り会うのが、幸せなのか不幸せなのかは別として。


「xxxHOLiC」(2006年放送)


CLAMP原作の同名コミックのアニメ化作品。アヤカシを引き寄せてしまう体質の男子高校生・四月一日君尋(わたぬききみひろ)と、なんでも願いをかなえる店の女主人・壱原侑子(いちはらゆうこ)をめぐる怪異を描いた物語です。


第1期・第7話の「アジサイ」は、梅雨の季節のアジサイがからむエピソード。雨を司る雨童女(アメワラシ)の依頼を受けた四月一日は、巨大なアジサイをたずねて闇に引きこまれ、泣いている小さな女の子と出会います。


ひんやりと怖くてちょっと切ない、オカルトホラーファンタジー。原作コミックは「ツバサ-RESERVoir CHRoNiCLE-」と密接なつながりがありますが、アニメのTVシリーズはそこまで描いていないため、単独で見てもひんやりとした怪談として楽しめます。喜怒哀楽の激しい四月一日と、クールで無表情な友人の百目鬼静(どうめきしずか)のかけあいが笑いを誘います。


雨上がりに虹を見つけたら、とてもラッキー♪ こちらは、明るくて幸せな虹色気分を味わえるアニメです。


「魔神英雄伝ワタル」(1988年放送)


虹といえば、創界山! 「魔神英雄伝ワタル」は、RPG風にステージをクリアしていくスタイルの冒険アニメの走りといっていいでしょう。創界山は、七つの界層に分かれた山に虹がかかった世界。小学4年生の少年戦部ワタルはこの異世界に呼ばれ、救世主として悪の帝王・ドアクダーを倒す旅に出ます。「魔神英雄伝ワタル2」(1990年放送)、「超魔神英雄伝ワタル」(1997年放送)と長期にわたって続いた人気シリーズです。


登場人物は“おもしろカッコいい”キャラクターが勢揃い。天真爛漫な忍者の女の子・忍部ヒミコ、顔が大きな剣豪・剣部シバラク、鳥だけどクールな渡部クラマ、敵の王子なのになぜか友達になってしまう虎王などなど、一度見たら忘れられないインパクトです。各話に登場する敵キャラが、これまた姿も名前もユニーク。もちろん、二頭身のしゃべるロボット龍神丸など、メカ勢も“おもしろカッコいい”!


創界山にかかる虹は、希望と善の象徴。ドアクダーに支配されたために色を失っていましたが、ひとつの界層でボスを倒すと封印された龍が解放され、虹にひとつずつ色が戻ります。ひとつひとつの冒険の最後には青空に虹の橋がかかり、仲間とともに次の階層に上っていくのがお約束です。ハッピーエンドには虹がよく似合いますね。


「アズールとアスマール」(2007年日本公開)


直接的に虹が登場するわけではありませんが、虹の七色を思わせる色鮮やかな画面が楽しめる、希望の物語です。「キリクと魔女」で有名な、フランスのミッシェル・オスロ監督の劇場用作品。目に鮮やかな美しい画面は、まるで精密に描かれた絵本がそのまま動いているかのようです。


青い眼を持つアズールは、ヨーロッパの領主の子ども。黒い瞳を持つアスマールは、アラビア人の乳母の子供。乳母にいっしょに育てられたふたりは、兄弟のように仲よく育ち、別れわかれになりました。やがて大人になったアズールは、イスラムの地に乳母を訪ねていき、アスマールとともに「ジンの妖精」を救い出す旅に出ます。


テーマは異文化の衝突と受容です。無邪気に子ども時代を懐かしむアズールに対し、アスマールは雇い主の子と使用人の子という立場の違いを実感し、恨みさえ抱いていました。立場が逆転したイスラムの地の冒険で、ふたりがどんな困難に出会い、どのように関係が変わっていくのかが一番の見どころです。


劇中に何度も登場するセリフが、「みんなで考えましょう」。肌の色の違いも男女の差も年齢も、人間か妖精も関係ありません。常識や価値観にとらわれず、皆が自分自身で考え行動し、手をたずさえることの大切さが説かれる、とても深いおとぎ話です。


梅雨のあとには夏が来る! 間もなくやってくる夏休みを舞台にした、切ない思いを描いた2作品をご紹介します。


「虹色ほたる ~永遠の夏休み~」(2012年公開)


30年以上前の1977年にタイムスリップした、小学6年生の少年ユウタの不思議な体験を描く劇場用作品です。1977年といえば、昭和52年。「自分が子どもだったころのこの時代を知っている」という大人が、この映画を見て一番キュンとくるのではないでしょうか。


「虹色ほたる」とは、虹色に輝く蛍。かつて村が干ばつに見舞われたとき、虹色ほたるが村人たちを水のあるところに連れていったという伝説が語られます。虹の七色は、小さな奇跡の象徴といえるかもしれません。


田舎の野山で地元の人と触れ合い、自然の中を駆け回るという体験をしながら、ユウタは、タイムスリップした自分の味方になってくれた少女サエコの秘密を知ります。


ユウタが過去のこの村にいられる時間は、約1か月。そして、舞台となる村にもタイムリミットがせまっていました。まもなくこの村はダムの底に沈むため、ユウタが知り合う村の子どもたちは、この夏を最後に散り散りになってしまうのです。


夏休みも人生も、いつかは終わる。ノスタルジックに見えた物語は、次第に「死と別れ」の色合いが濃くなってきて、結構ハラハラさせられます。ちょっと変わったタッチで描かれたキャラクターが「とっつきにくい」と感じるかもしれませんが、これが表情豊かで仕草も絶妙。かなり感情移入させられますので、そのおつもりで。


「蛍火の杜へ」(2011年公開)


しっとりした夏休みの物語を、あとひとつ。「夏目友人帳」と同じ原作者・アニメスタッフによる、人とあやかしの恋物語です。泣けます。


6歳の少女・竹川蛍は山神と妖怪が住まう森で道に迷い、お面をつけた不思議な少年・ギンに助けてもらいます。ギンには、人間に触られると消えてしまうという秘密がありました。夏休みが来るたび、ギンに会いにくる蛍は、やがて高校生になります。互いに会いたい、触れたいという思いは次第に強くなるばかり。だが決して触れてはならないことも、ふたりはよくわかっていました。


やさしくてあたたかくて、それゆえに切ない。「夏目友人帳」が好きな人なら、まちがいなくハマります。いつか必ずくる別れを予感しながら、触れられなくても、いっしょにいて同じ時間を過ごす。それだけで満たされる幸せがある。消えてしまうとわかっていても美しい虹のように輝く、ふたりだけの時間が胸を打ちます。


以上、夏を待ちながらしっとりとした気分にひたれる7作品をご紹介しました。

雨が降ったら、足を止めてみるのも一興です。雨宿りが意外な出会いを運んでくるかもしれません。いろんなアニメを見ながら、梅雨が明けるのを待ってみてはいかがでしょうか。

(文/やまゆー)

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