アニメ業界ウォッチング第9回:模型メーカーの感じる「ガールズ&パンツァー」商品化の醍醐味 雑誌編集から模型業界に転職した高久裕輝(マックスファクトリー)インタビュー!

この秋に、新作劇場用アニメの公開を控えた「ガールズ&パンツァー」。模型雑誌の副編集長として同作品の特集号を大ヒットさせ、現在は模型メーカーのマックスファクトリーで商品を担当するのが、高久裕輝さんだ。メーカー側から見た「ガールズ&パンツァー」の魅力と価値とは? 可動式フィギュアである“figma”を5体搭乗させることのできる“figma Vehicles IV号戦車D型 本戦仕様”を前に、高久さんと社長のMAX渡辺さんに縦横に語っていただいた。


――高久さんは「ガールズ&パンツァー」(以下『ガルパン』)を、模型雑誌「モデルグラフィックス」の副編集長だったころに知ったんでしたね?


高久 そうです。番組の始まる前に、杉山潔プロデューサーから「模型というメディアを作品のアピールに使いたい」というお話をいただきました。今までのアニメだと、劇中に登場するメカが決定して、それからメーカーに商品化をお願いして……というパターンが多かったけれど、『ガルパン』では今まであった資源が使えるわけですよね。既存の戦車のプラモデル商品を使って、今までと違う作例を載せたりできるので、モデルグラフィックスとしては「全面的に支援させてください」と返答しました。


――だけど、『ガルパン』は有名原作があるわけでもない、人気の保証されていない完全オリジナルアニメですよね。心細くありませんでしたか?

高久 出演声優やキャラクターデザインが誰だから……というより、アニメをつくる側の人たちが「好きだからやっている」ことがわかったので、そこに信頼を置きました。もうひとつ、模型雑誌にアドバンテージのあるアニメ作品って、今までになかったと思うんです。戦車模型の面白さは、僕らモデラーが一番よく知っている。だったら、早いもの勝ちじゃないかと思ったんです。もし仮にずっこけたとしても、当時は戦車模型というジャンル自体に閉塞感が漂っていたので、そこに風穴をあけるという狙いもありました。今だから言うと、アニメの人気が出ようが出まいが、「こんなアニメもあるのか」「これで、戦車模型の楽しみ方がひとつ増えたね」という落としどころでも、得はせずとも損はしないだろう……ぐらいの気持ちでした。


――戦車模型を活性化させるためには、最高のモチーフだったわけですね。

高久 『ガルパン』はIV号戦車が主役だし、脇を固めているのも38(t)だのIII突だの、モデラーから見れば、おなじみの戦車ばかり。さらに、それら定番の戦車を奇抜な色で塗装したり、面白いマーキングをしたり、新鮮な気持ちで作れる。そこが雑誌の企画として面白かったわけで、「アニメとして面白いかどうか?」は、当初は二の次でした。まさか、最終回で号泣することになるとは、その時は予想すらしてなくて(笑)。モデルグラフィックス誌で、最初に『ガルパン』の特集を組んだのは、まだアニメの第4話~第5話を見たあたりでしたから。

――モデルグラフィックスの『ガルパン』特集は増刷がかかるぐらい売れましたが、それは予想してましたか?

高久 版権イラストを表紙に使うのは異例でしたし、その話数までに登場した戦車はすべて作例にしていたし、モデラーの間で話題性の高まってきたタイミングで、うまくドロップできたと思います。ただ、まさか1週間で品切れになるとは予想していませんでした。月刊誌なのに、2回も増刷しましたから。

――その当時、『ガルパン』が表紙になったアニメ雑誌は、1冊もありませんでしたね。

高久 紙媒体で『ガルパン』を特集した本が、まだ1冊もなかったんです。当時のアニメ番組の中でも、キャラクターが特にエッチだったり派手に目立ったりしていたわけではない。アニメ作品としても、戦車戦のシーンは見どころだけれど、流行りの萌えポイントを網羅しているわけでもない。言ってしまえば、『ガルパン』は、アニメとして地味な部類だと思うんです。

渡辺 「当たりそうな作品を、当たるように当てる」……そういう使命も、われわれ模型メーカーには課せられています。そんな大人の事情とは別に、『ガルパン』はまず、figmaで主役5人を出そうと、僕が決めました。第1話を見て、「これは新しいことをしようとしている!」と直感したからです。



――可動式のfigmaは、固定ポーズのフィギュア(スタチュー)と比べて、開発は容易なんですか?

渡辺 figmaは大きさが決まっているし、figma専属のチームが製作しているので、システマチックな部分に助けられています。スタチューの原型製作は、少なくとも3か月ほどかかりますが、figmaなら2か月ぐらいですね。まず、『ガルパン』の主役5人を、間隔を置きながら出して、その間に「彼女たちの乗る戦車はどうしようか?」と考えはじめていました。だから、高久が弊社に入社する前から、figmaに合わせたIV号戦車の試作は作ってあったんです。

高久 2013年のイベントに出品されていたので、モデルグラフィックスで記事にしたはずです。当時、僕はまだ、編集者でしたから。

渡辺 イベントのディスプレイ用で終わってもいいけど、実際に大きなIV号戦車を目の前にしてみると、やっぱり商品化したい。高久が入社してきたのをいいことに、「指値を決めて、商品化してみ?」と提案したら、のってくれて。ただし、価格は高くしない。高くしたらマニア向けの商品になってしまうから、「なるべく安くしよう」と、僕と高久との間で決めました。

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