【懐かしアニメ回顧録第8回】“パクり”と指摘するのは野暮! 海外SFX映画ブームの中で生まれた「バブルガムクライシス」の浮遊感覚に酔いしれろ!

ベテランライター・廣田恵介氏が、日本アニメの黄金期や衰退期を気ままに語る「懐かしアニメ回顧録」。当時を知る世代、当時まだ生まれていなかった世代ともに、過去を語ることで、現在と未来を明るく楽しく過ごそう。さて、第一作「ターミネーター」公開から30周年の今年、最新作「ターミネーター:新起動/ジェニシス」が公開されている。第一作公開時の1985年、シュワルツェネッガーの顔の下から金属骨格“エンドスケルトン”が現われるビジュアルに、誰もが驚いた。そのエンドスケルトンを日本流にアレンジ、そのまんま敵役としてしまったOVAが「バブルガムクライシス」(1987年)である。


「バブルガムクライシス」は、今はなき企画会社アートミックによるオリジナル・アニメ。パワードスーツを身にまとい、人間に擬態したアンドロイド“ブーマ”の犯罪に立ち向かう4人の美女“ナイトセイバーズ”の活躍を描く……と一気に書くと、何ともいえないB級風味が漂って、とても楽しい。前作の「ガルフォース エターナルストーリー」(1986年)も、7人の美少女兵士が大規模な宇宙戦争を戦いぬく……という「メカ+美少女」モノの典型で、すでに「アンドロイド少女の顔の下から、金属骨格があらわれる」シーンを描いていた。「女の子はかわいく、メカはカッコよく、だけど細部はパクる」軽やかさがアートミック作品の魅力だった。あまりにミもフタもない鮮やかなパクりっぷりなので、元ネタを指摘するのも無粋。だけど、パクりであることはファン同士、よく知っている。そんな距離感の作品は、オリジナル志向の強かった80年代前半には、まったく見られなかったと思う。

さて、「バブルガムクライシス」。4人の美女のうち、ウルフヘアのウィッグをかぶり、ライブハウスを賑わす美しきロックスターの名前が、プリス。彼女のファンであり、(ターミネーターそっくりの)ブーマたちを追うADポリスの刑事は、レオン。どちらも「ブレードランナー」に登場するレプリカントの名前だ。……が、深い意味はない。富野由悠季監督はネーミングのアイデアを膨大にメモし、何パターンも組み合わせ、どの作品でも苦吟のすえにキャラクター名を完成させているのだが、アートミック作品からは、そういう産みの苦しみを感じない。「ブレラン」(この略称は嫌いだが、あえて)も「ターミネーター」も「好きなんだから、それでいいじゃん?どうせなら、楽しく作ろうよ。」全編そういうノリなので、オープニングに登場する巨大コングロマリット“ゲノム”の高層ビルは、「ブレラン」のタイレル社に似ているし、金属骨格の上に人間の皮をかぶったブーマが弾丸を皮膚で受け止め、強いダメージを受けると金属骨格がむき出しになる描写は「ターミネーター」そのまま。だが、このように指摘したところで、作品の価値が落ちるわけではない。「スタッフみんな、海外SFX作品が大好きなもんで……(∀`*ゞ)テヘッ」という悪びれなさ。「これなら知ってる」「どこかで見たことある」、そのファンと送り手の、どこか薄くて甘ったるく心地よい共通認識こそが、アートミック作品に親しみを与えていたのは確かだろう。長く重たい“アニメ史”とは無縁の、独特の浮遊感覚があった。

アートミック単独企画によるオリジナルアニメは、他に「ウォナビーズ」(1986年)があり、いずれも園田健一がキャラクターデザインを担当している。というか、園田氏のプロデビュー作は「ガルフォース」の原作企画(モデルグラフィックス誌に連載)だったのだ。それ以前の園田氏といえば、ホビージャパン誌でムサシヤという小売店の広告用カットを描いており、その内容は「うる星やつら」のキャラクターをアンドロイド化した「ラムロイド」、「魔法の天使クリィミーマミ」と「重戦機エルガイム」を組み合わせた少女型メカの「U-GAIM」など、パロディ作品ばかりであった。地方在住(園田氏は大阪出身)の同人作家が、いきなり商業アニメでデビューしてしまう“うっかり”加減は、今なら、pixivで人気の絵師が、突如としてキャラクター原案に起用されるノリに近い。アニメ制作の現場で何年間も下積みして、ようやく……という根性論とは、まったく別のフィールドからアニメ界に飛び込んだ園田氏からは、「アニメは大好きだけど、アニメで苦労したくはない」、ファンに近いスタンスが感じられた(実際には苦労されたと思うが、あくまでイメージ)。その軽さ、気負いのなさは、僕には新鮮に感じられた。どこで誰が成功するかわからない、チャンスと挫折の待ち受ける80年代ならではの(どこか無責任な)空気が、園田氏の背中を押したのだろう。

「バブルガムクライシス」も「ガルフォース」も、90年代に入ってから、それぞれ「バブルガムクライシス TOKYO 2040」「ガルフォース・ザ・レボリューション」としてリメイクされた。だが、両作品とも、スタッフを一新するまでの間に、続編や番外編などをテレビやOVAでコツコツと作りつづけた。その間に制作会社や発売メーカーが変わったり、シリーズが打ち切りになったり、ついにはアートミックが倒産したり、先の見えない迷路に入り込んでしまった。その混迷ぶりは、「今度こそ完結だ」「やっぱりテレビ・シリーズで続きをやろう」「次は新三部作だ」「いやいや、第一作をリメイクするのだ」とフラフラさまよいつづける「ターミネーター」シリーズそっくりではないか。「ターミネーター」も第一作は低予算アクション映画で、シュワルツェネッガーも無名に近かった。一発かぎりのアイデア、一回きりのインパクトで勝負するなら、いつまでも一度の成功を命綱にしていてはいけないのかもしれない。


(文/廣田恵介)

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