アニメ業界ウォッチング第10回:ショートアニメの新時代を作る―「ウルトラスーパーアニメタイム」企画の内側に迫るプロデューサーインタビュー

2015年7月よりスタートした「ウルトラスーパーアニメタイム」(以下、USAT)とは、サンジゲン(代表作「蒼き鋼のアルペジオ −アルス・ノヴァ−」)、トリガー(代表作「リトルウィッチアカデミア 魔法仕掛けのパレード」)、Ordet(代表作「Wake Up,Girls!」)、ライデンフィルム(代表作「アルスラーン戦記」)などの人気制作会社を擁するウルトラスーパーピクチャーズがプロデュースするショートアニメ3本立ての新しいアニメ番組枠だ。従来的なビデオメーカーの枠組みの垣根を越えた放送枠のパッケージングや制作会社のホールディングカンパニーがプロデュースする意義など、この枠組への興味は尽きない。そこで同社プロデューサーの平澤直氏、広報の横山巧氏、そして代表の松浦裕暁氏にお話をうかがい、この企画の内容と各番組の魅力、ビジョンについてうかがった。


視聴者とクリエイターのフットワークを軽くするショートアニメ枠の創設


――「USAT」という番組枠の企画はどのようにして生まれたのかを教えていただけますか?

平澤 まず企画の成り立ちとして、新しい視聴体験をお客さんに提供してみたいという考えがありました。深夜アニメ帯において、30分・1クールを最小単位とする楽しみは、ここ20年ぐらいでスタンダードになっています。いっぽうで、お客さんの時間感覚は20年前とは大きく違っています。これは僕自身経験していることですが、この20年で情報に触れる量も増えたため、情報よりも時間のほうがより貴重になってきていると思います。そういう時代になった時に、ひょっとしたら30分・1クールという枠組みを少し変えてみるとお客さんに面白がってもらえるのではないか?という仮説が出発点としてありました。

 また、同じくこの20年間における特筆すべき変化として、作家性の高い個人クリエイターや新しい制作スタジオの台頭があります。そういった方たちが挑戦をするときに30分・1クールはちょっと重たいのかなとも思っています。なので、お客さんにとっても作り手にとっても、コンパクトに作ることがもしかしたら大きな価値になるのではないかなと考えました。さらにいえば、制作費を出すクライアントもこの20年で大きく様変わりしました。深夜アニメ市場が成熟し、売り方や宣伝の仕方も細かな約束事に至るまで洗練されていく中で、その型にはまりきらないと商業的に難しいと判断されてしまったり、企画の立案から放送まで2年近くかかかる制作期間を待てないと判断されてしまうこともあったりします。ショート作品だったら制作期間もそれほどかからないし、より短い時間と少ない予算で挑戦的なことにチャレンジすることができます。そういったこの20年で変わったことをきちんと整理して、お客さんにとってもクライアントに対しても価値のあるものを作ってみよう!というのが、今回の「USAT」の狙いです。

――ビジネス的な枠組みはどのようになっていますか?

平澤 番組提供として、枠を支えてくださっているのは、3作品それぞれの作品の製作委員会です。そのほかに枠の趣旨に賛同してくださった企業さんからご協力をいただいている部分もあります。新参の枠として製作委員会の皆さんにご参加を提案するにあたっては、まず第一に、参加のハードルを高くしてはいけないと考えました。たとえば、どこかの配信会社と組んで、USATに参加した作品はすべて特定のサービスで独占配信するといったような付帯条件はなるべく少なくすべきだろうと。ですから、番組提供も、それぞれの作品の製作委員会に支えてもらう形になります。


――そうすることで「USAT」自体が今後ブランディングされていくことにもつながりますね。

松浦 そうですね。それは僕たちにとってもすごく大きいです。ウルトラスーパーピクチャーズという会社とは何か?ということにも関連してくると思います。ウルトラスーパーピクチャーズではいろんな制作会社が集まってそれぞれアニメを作っているわけですが、グループとともにこの枠が認知されていって、グループ内外のいろんな会社といろんなアニメをユーザーさんに届けていけたら、結果ブランディングにも繋がるのではないかなと。こういうことって正直、誰もやりたがらないことだと思います。だってものすごく大変ですから(笑)。でもユーザーさんにしてみれば、面白い作品を短い時間で見られるというところをひっくるめて「USAT」の価値になって、そこからヒットが出てくればと思います。


――TOKYO MXでは金曜23時~23時30分というアニメファンにとってホットな時間帯に組まれていますが、この理由については?

横山 当然、深夜アニメの時間として認知してくれているファン層も見てくださるかと思います。合わせて、今までアニメをそこまでディープに見てこなかった方が家に帰ってパッとテレビをつけてみて面白かった。だから、続けて見てしまう―というような効果も期待しているところです。この時間帯は一般的に、家に帰ってリラックスしている頃だと思うので、ビジネス的な面からも現代の生活リズムに即している枠だという狙いは持っています。

――「USAT」は30分枠でCMを除くと各作品8分弱ほどの計算になりますが、その時間量とクリエイティブの関係についてどんな考えをお持ちですか?

松浦 それについては「ギリギリの長さ」だと思います。アニメーション制作は簡単なことではありませんが、それでもこの枠だと30分アニメよりは制作しやすいですし、各話100カット程度というのは続き物のストーリーとしても成り立つ分量なので、バランスはいいと思います。あと、ちょっと無茶しても100カットならシリーズ全体で調整が効くかなと(笑)。

平澤 短すぎて話が入らないという声はクリエイター側からはほとんど上がってきませんでしたね。「サザエさん」とか初期の「クレヨンしんちゃん」って3本立てですが、このくらいの時間があれば起承転結が描けるんですよね。これ以上短くなると、ストーリーがシチュエーションものに限定されてしまうと思うのですが、ある程度のストーリーを描くうえでの最小単位が7分ぐらい。最近でいうと人気YouTuberの映像ってだいたい10分未満が多いんです。だからお客さんの時間感覚的にもこの位の時間がいい感じなのかなという仮説を持っています。

横山 時間を短くすると内容が薄くなるんじゃないかと懸念される方もいるかもしれませんが、実力派のクリエイターが集まり、最小限の時間にした代わりに能力をフルに使って面白さを表現してもらうわけです。クリエイターさんにとっては腕試しをしてもらいつつ、かつ視聴者の皆さんには短い時間でも満足のいく時間を過ごしてもらうという、ともすれば相反して削れてしまう価値観をこの枠では両立させようとしています。


松浦 クリエイションとのバランスがいいですね。このあたり、ショートアニメならではかなと。だからといってショートアニメをポツンと放送してもなかなか視聴習慣に繋がらないですし、まずは見てもらわないと誰にも買っていただけません。この枠で3本見られるというお得感を訴えられたらなと思います。

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