原作のラストまで描ききる! TVアニメ「WORKING!!!」鎌倉由実監督インタビュー
北海道に存在するファミリーレストラン・ワグナリアが舞台のお仕事4コママンガ「WORKING!!」。ちっちゃくてかわいいものが大好きな小鳥遊宗太、背の低いことがコンプレックスの種島ぽぷら、男性恐怖症で近付く男性を殴り飛ばしてしまう伊波まひる。そんな個性的すぎる店員たちが織りなす波乱の日常が人気を博し、2010年にファン待望のテレビアニメがスタート。2011年の2期「WORKING'!!」を挟み、2015年7月からは3期「WORKING!!!」が放送開始となった。原作がすでに完結していることからアニメでどこまで描かれるのか注目を集めている本作。今回は3期の監督を務める鎌倉由実さんに直撃インタビューを敢行した。コンテ・演出を務めた1話の解説や、北海道出身ゆえに盛り込んだご当地ネタ、そして気になる今後のストーリーなど、さまざまなお話をうかがった。
バランスのよい演出家を目指していた
――まずはオファーを受けるまでの経緯について教えて下さい。
鎌倉 1期では第6話のコンテ・演出として1本だけ参加したのですが、そのエピソードを評価していただけた様で、A-1 Picturesから他の作品でも声をかけてもらっていたんです。3期の制作が決まった際にもお話をいただけました。私自身テレビシリーズの監督は初めてということもあり、まったく知らない作品よりは一度関わったことのある「WORKING!!」のほうが踏み込んだ演出ができるだろうと考えて、お引き受けすることにしました。
――監督は夕方に放送されている子ども向けの作品から、深夜帯のアニメファン向けの作品まで、幅広いジャンルのアニメを手がけていますね。
鎌倉 「カスミン」や「イナズマイレブン」など子ども向けの長期シリーズを担当することが多かったのですが、演出として表現方法において、ジャンルを固定したくないという思いがあったので、深夜帯のアニメにも意識的に関わるようにしてバランスのよい演出家になろうと心がけてきました。
――演出家としてターニングポイントになった作品はありますか?
鎌倉 新人の頃はとにかく数をこなそうと突っ走っていて、壁に直面したのは4、5年が経過した頃ですね。そんなときに監督補佐として関わった「イナズマイレブン」が壁を越えるキッカケになりました。「イナズマイレブン」は「WORKING!!」と同じように人間ドラマが多く、作品を経験することで表現できる幅が広がったという実感が生まれました。それにA-1 Picturesで担当した「かんなぎ」や「ソ・ラ・ノ・ヲ・ト」でも、いろいろな作品でやっていくための手応えを得ることができました。
――影響を受けた先輩などはいますか?
鎌倉 初めて演出についたときの監督が本郷みつるさんなんです。他に長く関わった分、秋山勝仁さんや西村純二さんの影響は強く受けていると思います。3期でも作品の魅力を引き出していければと思っています。
――監督にとって「WORKING!!」の魅力はどんなところにありますか?
鎌倉 改めて原作を読み返したら、キャラクター同士の掛け合いがとてもユニークなことに気付かされました。言葉のキャッチボールをしているようで本当はすれ違っていて、それなのに会話自体はなぜか噛み合ってしまう。そんなねじれた関係性が積み重なって群像劇のような魅力を生みだしていると思います。
あと絵コンテを描いているときに原作を見合わせると、セリフの内容とキャラクターの表情がズレというか、表現が違うことが多く、「あのセリフをしゃべってたときにこんな顔してたんだ!」と再認識することが多かったですね。高津カリノ先生の持つ世界観は普通のニュアンスとは少し違っていて、微妙なズレや独特な間がテンプレではない面白さにつながっている。その繊細さを表現していきたいですね。
ぽぷら視点で「WORKING!!」の世界を見せる
――「WORKING!!」に参加されるのは1期以来、テレビシリーズは初監督ということもあってプレッシャーは大きかったのではないでしょうか?
鎌倉 いえ、あまり緊張している自覚はなくて、むしろ楽しんでやっているぐらいだと思います。「WORKING!!」はシリーズを重ねてきたことによって培われたものが大きくて、安心感のある作品なんですよ。そこに1期での経験をプラスすることで、自分の演出を乗せていくことができればと思いました。
――”自分の演出”と言いますと?
鎌倉 そうですね。私にとっての「WORKING!!」は、アイキャッチを挟むことで次々とシーンを切り替えていく1期のイメージが強いんです。2期では原作4コマの各エピソードを1話分のストーリーにしていたと伺っています。今回はシリーズ構成の吉岡たかをさんに「アイキャッチを入れて、エピソードごとに区切っていきたい」と伝えました。3期は原作のラストに向けてキャラクターたちの人間模様がより深く描かれていくので、視聴者を惹きつけるためのストーリー性は自然と備わってきます。それならそれ以外のエピソードはアイキャッチでシーンを切ったほうがテンポもバランスもよくなるだろうと考えたんです。
ただ各話ごとに要となるシーンが必ず存在するように作っています。この話数はどんなエピソードなのか、ひと言で表せるような“核”は絶対に必要になってきますからね。見終った後に「今回は“たか×いな”だった、”峰岸”エピソードだった」とか、そういったことが意識できるようにキャラクターも各話でピックアップして、3期全体でバランスを取るようにしています。
――第1話「ワグナリア戦線異状なし」では監督自身がコンテ・演出を担当されています。
鎌倉 第1話は監督がコンテと演出をやるものだというイメージが私にはあるんです。シリーズをどのようにしたいかを一番最初に示せますし、ほかの演出さんや作画さんにも「こういう方向性で作りたいんだな」と理解してもらえる。シリーズとしての軸を制作側にも意識してもらえると思っています。今まで私が師事してきた監督たちも第1話は自分で担当していたことが多いのもあって、ほかの人に任せるという発想自体がまったくありませんでした。
――まず本編に入る前のアバンタイトルのシーンが、種島の見た目からの一人称視点で描かれていることに驚きました。
鎌倉 2期ではぽぷらの全身をフレームに収めず、画面の下からピョコっと顔だけを出させることで、彼女の小柄さを表現していました。3期ではそれをオマージュしつつも違った導入にしようと考えていて、ぽぷらの主観から見た映像で表現するのはどうかというアイデアが上がりました。小鳥遊や伊波では普通の高さからの目線になってインパクトが出ない。やはりぽぷらの身長からワグナリアという世界を見せる事に意味があるかなと。
店全体を巡ることでキャラクターを紹介することもできて、店内めぐり風にやりたいことを詰め込んでいったんです。偶然ですが私が担当した1期の第6話も主観から始まっていて、そのことは指摘されて初めて気付きました。第6話は小鳥遊の父親が撮影をしているシチュエーションで、父視点から小鳥遊ファミリーを見せていく内容でした。
――そういえば山田兄が木から下りる場面でもカットを割らずに一連の動きをじっくり追っていますね。
鎌倉 全身を映したカメラアングルから、大げさな動作で着地するさまを一気に見せれば、山田兄のアホっぽさが出せると思ったんです。カットを割ってテンポをよくすることもできましたが、割らないことでキャラクターのパーソナリティーを表現しました。初回ということもあり、描くのが難しい場面を意識的に盛り込んでいきましたね。
そんな画面作りができたのは、キャラクターデザイン・総作画監督の足立慎吾さんの存在が大きいです。どんなに難しいアングルでも「足立さんなら描いてもらえる」と信頼しています。「描いてもらえる」なんて横暴にも聞こえるかもしれませんが、とても感謝しています。なので、絵的な部分に関してはかなりの所をおまかせしています。足立さんは「WORKING!!」の全シリーズに関わっていて、その間も「ガリレイドンナ」や「ソードアート・オンライン」と他の作品を挟んだことで、絵柄も変化していて「今一番ベストだと思う絵を出したい」とおっしゃっていました。
これまでとアプローチを変えたいといろいろなアイデアも出してくださって、たとえばキャラクターの目の処理は少しキラッとした感じにするといったように、細かい部分を変更しています。
また、足立さんはコンテにはない遊び心も付け加えてくれるんです。小鳥遊が女の子をあやすシーンでは振り回すような絵に盛ったり、八千代と相馬が話をしているときに女の子がチラッと目線を送っていたり……。そういった所が楽しくて、非常に助かっています。
各話の作監さんたちも、ものすごく豪華なんですよ。鈴木豪さん、北田勝彦さん、滝山真哲さん、西口智也さん、「イナズマイレブン」でご一緒した中野繭子さんにも参加してもらいました。このメンバーに慣れてしまったら今後はどうすればいいんだろうと悩んでしまうくらいです(笑)。皆さん他にも「WORKING!!」のことをよくご存じで「ぜひ参加したい」と言ってくださる方が多かったんです。そんなところからも作品の人気を再認識できました。
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