【季節を楽しむオススメ作品第5回】熱帯夜もひんやり涼しく。怖さを楽しむ小説原作ホラーアニメ

四季折々、この時期にこそ楽しめるアニメがある! 季節の話題にまつわる新旧の良作をアニメライターが紹介します。

むっと息詰まる暑さの中、過去や祖先に想いを馳せ、生と死の境目が少しぼんやりとする夏。こんな季節には、普段コワイ話が苦手な人も、いつもと違った刺激が欲しくなったりしませんか?

そんな人におすすめの、小説が原作のひんやりゾクゾクするアニメを集めました。ストーリーしっかり、コワさもバッチリ。アニメと原作で二度おいしいポイントもご紹介します。


「Another」(2012年放送)


榊原恒一が転入した夜見山北中学校3年3組は、何かに怯えるような異様な雰囲気に包まれていました。恒一は謎めいた雰囲気の同級生、見崎鳴に惹かれますが、彼女に近づくほど、周囲との違和感も大きくなります。やがて不幸な事故が起こりクラスメイトが亡くなり、これを始まりとして悲劇は拡大していきます。呪われた死の連鎖を止める方法は、果たしてあるのでしょうか?

綾辻行人原作の小説のアニメ化、全12話。物語は、クラスの秘密や誰も関わろうとしない鳴の秘密を恒一が探るところからスタート。死者が出るに従って、不安が現実の恐怖となり、加速し、やがて終盤の惨劇へとつながります。

本来、小説でしか成立しえない叙述トリックを、うまくアニメに落とし込んできちんと見せたやり方は見事です。これから見るという方はぜひ、半端なネタバレなどに触れず、謎を楽しんでください。

何事にも淡々と対処する主人公の恒一、感情を見せない鳴に対して、実に生き生きとしていたのは、アニメで魅力的に肉付けされた強気なクラスメイト・赤沢泉美でした。恒一の思いの行方も含めて、すべてが終わったあと、怖さよりも哀しさが心に残ります。やさしく穏やかで切ないエンディングテーマが、最終話にも余韻を残します。

小道具として球体関節人形が随所に登場しますので、こういうものが好きな人も怖く感じる人も、ぞわっと楽しめるでしょう。


「屍鬼」(2010年放送)


周辺から隔絶された人口1300人の小さな集落・外場村では、不審な死が続いていました。最初は疫病が疑われましたが、原因がわからないまま、病人と死者は増えていきます。坂の上の洋館に引っ越してきた謎めいた家族の正体は? やがて恐ろしい事実が判明します。村は、死者が墓からよみがえった「屍鬼(しき)」に魅入られ、のっとられようとしていたのです。

小野不由美の小説を、藤崎竜がコミカライズしたものをベースとしてアニメ化されています。全22話。序盤は、謎の脅威に包囲されて事態が進行していく恐ろしさを、中盤は、屍鬼に人間が追いつめられていく恐怖を描いています。そして終盤では人間側が逆襲に転じ、正邪の垣根が崩れて、混沌の惨劇の中にすべては飲み込まれていきます。

怪異に立ち向かう主人公格は3人。村の外に出たいと思っている高校生の結城夏野。村でただひとりの医者の尾崎敏夫。寺院の息子で小説家の室井静信。最初はこの中の誰かが屍鬼を打ち破るのではと期待したくなりますが、現実は残酷です。「死にたくない」と思う気持ちは、人間も屍鬼も同じ。暴力と血とエゴイズムが、すべての感情を遮断していきます。

見ていてぐったり疲れるほど血が流れ、死者が出る話です。そのわりに描写が淡々としているのも怖い。これは、原作小説の味わいの再現です。見ているほうまで血に慣れるのがまた恐ろしい。見終わったあとには、ようやく終わった災厄の衝撃に、ただ呆然となるかもしれません。

原作小説は情報量が圧倒的で、それぞれのキャラクターの心情と境遇がさらに容赦なく切実に理解でき、それゆえに恐ろしいので、ぜひ読んでください。またコミックも主に後半が、アニメとは少しずつ異なるので、読み比べてみるのもいいでしょう。さらにスティーブン・キングの「呪われた町」、そしてブラム・ストーカーの「ドラキュラ」を読んで、吸血鬼小説の系譜をたどるという楽しみ方もありだと思います。

「ゴーストハント」(2006年放送)


ごく普通の高校生の谷山麻衣は、とある事件がきっかけで、ナルシストで美少年の渋谷一也、通称・ナルが所長をつとめる「渋谷サイキックリサーチ(通称・SPR)」で、事務員・調査員のアルバイトをすることになります。高野山の坊主の滝川法生(通称・ぼーさん)、巫女の松崎綾子、霊媒師の少女の原真砂子、京都弁の神父でエクソシストのジョン・ブラウンらの協力を得て、麻衣はナルとともに、悪霊が絡む怪事件に立ち向かうことに。

こちらも小野不由美の小説のアニメ化。いなだ詩穂がコミカライズしたものをベースにしています。原作がもともと少女向け小説として書かれたものなので、個性的なキャラクターはどことなく少女マンガテイスト。でもストーリーはしっかり構成されていて、甘く見ているとじわじわと怖くなっていきます。

全25話で、7つのエピソードが展開します。基本的に1つのエピソードが3~4話分。悪霊が引き起こす事件を、きっちり「推理」して謎をとき、対策を立てて「解決」していくミステリー風味が、この作品の持ち味です。

アニメを全話見て気に入ったら、原作単行本の最後のエピソード「悪霊だってヘイキ!」もしくは「扉を開けて」を読むことをおすすめします。シリーズ最終でアニメ化されていないこの話に、夢の中でだけやさしいナルの秘密や正体など、ここまでに張られたすべての伏線の回収があるからです。アニメでもここまでやってほしかった!

原作の続編「悪夢の棲む家」は、少女小説テイストをバッサリ落として本当に怖くなっているので、より恐怖を感じたい大人の視聴者におすすめです。


「新世界より」(2012年放送)


今から1000年後の世界で、人間は「呪力」と呼ばれる念動力を持つ存在に進化していました。自然豊かな集落で暮らす渡辺早季は、友人たちと共に参加した夏季キャンプで先史時代の遺物ミノシロモドキと出会い、隠された歴史を知ることになります。念じるだけで人を殺せる能力を身につけた人類は、秩序を維持するために無慈悲で歪んだ社会を作り上げていたのでした。

日本SF大賞を受賞した貴志祐介の小説をアニメ化。全25話の間に主人公の早季が12歳から26歳まで、ストーリーの進行とともに成長します。12歳の早季たちの体験は、命の危険にさらされるサバイバル冒険モノ。そこから思春期の恋と葛藤、息苦しい社会や大人たちとの対立を経て、ついに到来する破滅的な事件でのパニックと激闘……と、ひと口には語れないさまざまな要素が含まれています。

くりかえし子供たちに語られる「悪鬼」「業魔」の説話の意味するところは? 人間が使役しているバケネズミという知性のある動物の、不思議な生態とは? そしてそれらは歴史の中で、どのようにして生まれてきたのか? SF的な謎解きや設定も楽しめます。

惜しむらくは、アニメのみでは「愧死機構」などの専門用語が難しく感じること。漢字の表記を見れば意味が通じやすい専門用語の数々は、アニメのセリフで聞くだけでは、最初理解が難しいかもしれません。アニメの公式サイトに、「新世界ことば辞典」などの資料があるので、アニメを見ながら参考にするといいでしょう。

すべてが明かされる最終話では、それまでの血みどろの戦いとは異なる「人間の恐ろしさ」をしみじみと感じることになるでしょう。現実の世界にてらして、常識や価値観を揺さぶられるかもしれません。それもまた、SFの醍醐味です。


「魍魎の匣」(もうりょうのはこ)(2008年放送)


元映画女優・美波絹子の妹の加奈子は、深夜に駅のホームから突き落とされて、瀕死の重傷を負いました。偶然現場にいた刑事の木場修太郎が事件を追うことに。しかし搬送先の研究所から重傷の加奈子が誘拐されて、身代金が要求されます。同じころ、八王子で連続バラバラ事件が起き、小説家の関口巽と編集者の鳥口守彦は、「御筥様」をまつる新興宗教について事件との関連を調べます。私立探偵の榎木津礼二郎もまた、行方不明の加奈子の捜索を依頼されることに。一同は憑き物落としの京極堂の元に集結します。

京極夏彦の「百鬼夜行シリーズ」代表作のアニメ化。虚々実々、夢や現実に関口や久保竣公らの小説のシーンまでを織り交ぜて、複雑怪奇なイメージとストーリーを、見事に全13話にまとめています。CLAMP原案のキャラクターたちが実に美しく、怪奇な事件を彩ります。

事件は複雑に絡み合いますが、構成がすぐれているのでわかりやすく、どんどん先の謎へと引っぱられます。

本作の見どころのひとつが、実力派声優たちの美声です。京極堂役の平田広明を始め、実にいい声で、長い長いセリフを朗々とうたうようにつむいでいく。話している内容は時に小難しくもありますが、声の響きがよいので自然と聞いてしまいます。次第に細かい内容が頭に入らなくなったとしても、心地よく見続けられるのは不思議な感覚。それはある意味、言葉の海に翻弄される原作の持ち味そのままです。

原作者の京極夏彦が、関口の小説の中の「黒衣の男」の声を演じているのも一興でしょう。これがまたいい声でびっくりします。

すべての謎が明かされる最終話では、常識を超えた愛情の糸がもつれあい、匣(はこ)に匣が入れ子になるイメージの迷宮に迷い込んで、頭がぐらぐらするのではないでしょうか。

小説をアニメにするという難しい作業での、ひとつの理想形かと思います。筆者はこのアニメを見て、あの分厚い「百鬼夜行シリーズ」の原作本に、初めて手を出しました。原作小説が好き、という方にも一見の価値があると思います。

以上、見て怖く、見終わってからもやっぱり怖い小説原作のホラーアニメ5作品をご紹介しました。

アニメを見てから小説を読むか、読んでから見るか。両方クリアすれば、違いも楽しめるというものです。今回紹介した作品は、原作の構成力が非常に高いのに加えて、アニメ化でさらにひと工夫もふた工夫も重ねてあります。キャラクターが美しくかわいい分、残酷さが増したり、BGMが恐ろしさと哀しさを際立たせたり、といった効果も。そのアニメの技ひとつひとつを、楽しんでみてはいかがでしょうか。


(文/やまゆー)

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