「高校ってできないことに挑戦できる場だと思います」。劇場版アニメ『心が叫びたがってるんだ。』ヒロイン成瀬順役の水瀬いのりにインタビュー!

深夜アニメとして異例のヒットを飛ばした「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」の長井龍雪監督、脚本の岡田麿里、キャラクターデザインの田中将賀というゴールデントリオが、新たな感動を生み出した。完全オリジナルストーリーによる劇場版アニメ「心が叫びたがってるんだ。」は、幼い頃のある体験によっておしゃべりを封じられた女子高生が、学校行事の実行委員に任命されたことから始まる青春群像劇だ。ヒロインの成瀬順を演じたのは今注目の若手声優、水瀬いのりさん。「しゃべれないヒロイン」という珍しい役をどうとらえて演じたのか尋ねると、作品のさらなる魅力が見えてきた。


──「心が叫びたがってるんだ。」(以下「ここさけ」)、とても素晴らしい作品となりましたね。オーディションで成瀬順役に決まったそうですが、オーディションに挑む前、作品や成瀬順というキャラクターについてどんな印象を持ちましたか?

水瀬 作品のメインヒロインって明るくて元気、好奇心旺盛というように、月と太陽で言うと太陽みたいなイメージがありますよね。でも「ここさけ」のビジュアルを見た時、このヒロインは太陽ではなく月のイメージだなって思いました。私はオーディションで順を受けたのですが、見た目からしておとなしそうなキャラクターはこれまで演じたことがなかったんです。自分にとっての新しい声や芝居でアプローチしなきゃいけないなって思いながらオーディションに挑みました。合格したと聞いた時は、プレッシャーを感じましたね。大きなタイトルの作品だし、ヒロインだし。それにオーディションはあまり手応えを感じられないまま終わってしまったので、私のどこに順っぽさを感じてくれたんだろうというのがわからなかった。そんな感じだったので、順の声はアフレコで監督と作っていくことになったんです。

──順はしゃべろうとするとお腹が痛くなり、しゃべれなくなってしまう子です。痛がっている芝居やしゃべれない芝居というのは難しそうですが、どのように考えて演じたのですか。

水瀬 悲しみや怒りなどであればそれに近い感情を作り出せるんですけど、アフレコで痛みを発することはできないので難しくて。長井監督と相談しながらいろんなパターンを録ってもらい、後で判断してもらうという時もありました。私が考えた順の声は、声を普段出さない人が出した時に出る、出し慣れていない感じの声。上ずってしまったり、相手が近い距離にいるのになぜか大声を出してしまったりと距離感がつかめない感じ。日頃しゃべることができていない分、しゃべり方が不器用になるだろうなって常に考えながら演じました。


──お腹が本当に痛そうですし、何よりも、心がとても苦しそうな声でしたね。


水瀬 なかなか想像がつかない感覚だったので、日常生活にたとえて考えたりもしました。普通に歩いている時に急に次の足が出せなくなったらどう考えるかなとか、自分にとって当たり前だったことが急にできなくなった時のことを想像して。息のお芝居も特徴的で、順はうれしい時に拍手をするのと、呼吸で感情を表すんです。そのよろこび方も何パターンかあって、とにかく息を吐き続けたり、犬みたいに小刻みに呼吸したり。監督と一緒に、順にふさわしい音をひとつずつ作っていったという感じでした。そこも注目してもらえたらうれしいです。

──キャラクター同士のリアルな会話も見どころです。アフレコ現場はどのような雰囲気でしたか。

水瀬 日常の会話をそのまま書いたような脚本なので、皆さんあまり身構えずにやっていたのが印象的ですね。お芝居についての打ち合わせはせずに、本番で出たセリフにこちらも自然と対応するというような、無理のないアフレコでした。でも実は順役に決まった時、私の声だけ周りのキャストさんの中で浮いちゃうんじゃないかなっていう不安があったんです。私の声は高めでいわゆるアニメっぽい声だし、ここまでナチュラルなお芝居はやったことがなかったですし。でも自然体を心がけてお芝居したので、うまくなじんでいたらいいなと思います。

──作中では「地域ふれあい交流会」の実行委員に選ばれてしまった順が、同じ実行委員の坂上拓実と仁藤菜月、田崎大樹と関わっていくことで、少しずつ変化を見せていきます。その変化を演じた水瀬さんが、個人的に一番好きなシーンはどこですか?

水瀬 やはり順が「叫ぶ」シーンですね。順がそれまで抱えてきたものをすべて吐き出すシーンでもあったので、本当に心をこめて演じました。それまではずっと心の中だけで叫んでいたので、人に対して思いをぶつけるって順にとってはすごく久しぶりなこと。普通の人にとってはよくあることでも、順は気持ちをぶつける相手すらいなかった。気持ちをぶつけたあのシーンは、順にとって本当に大切な時間なんです。思いきりぶつけましたし、私も大好きなシーンです。


──ちなみに水瀬さんご自身はどんな高校生でしたか?


水瀬 2年前まで高校生だったので今とそれほど違うところはないんですが、おっとりしているように見られつつも言うことは言う、というタイプでした。学校行事があると楽しんで参加していたので、もし順のクラスみたいにミュージカルをやることになったら、きっとよろこんでいたと思います。高校生がミュージカルをやるってすごいハードルが高いけど、高校ってできないことに挑戦できる場でもあると思うんです。この作品で順や拓実たちが背伸びをしてミュージカルに挑戦しているのを見て、すごく青春らしいなって思いましたね。

──見た人誰もが高校時代を思い出せる作品です。水瀬さんはこの映画をどんな人に見てほしいですか?

水瀬 小学生、中学生など、高校生より下の子たちにも見てほしいと思っています。「高校ってこんな楽しそうな場所なんだ」って思う子もいれば、「こんなたくさんの感情に振り回される場所なの?」って感じる子もいるかもしれない。私がもし中学生の時にこの映画を見ていたら、「高校って挑戦の場なのかな」と思っていたかも。短い3年間でみんなで何かをやりとげる素晴らしさを、楽しみにしてほしいですね。


<プロフィール>

水瀬いのり(みなせいのり)

1995年生まれ、東京都出身。主な出演アニメに「ご注文はうさぎですか?」チノ役、「天体のメソッド」ノエル役、「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか」ヘスティア役、「がっこうぐらし!」丈槍由紀役などがある。ソニー・ミュージックアーティスツ所属。


<作品情報>

「心が叫びたがってるんだ。」
監督:長井龍雪 脚本:岡田麿里 キャラクターデザイン・総作画監督:田中将賀
キャスト:水瀬いのり、内山昂輝、雨宮天、細谷佳正、藤原啓治、吉田羊
制作:A-1 Pictures
配給:アニプレックス
9月19日より全国ロードショー




(取材・文:大曲智子)

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