ニューアルバム「FOLLOW ME UP」に感じる20年の歩み。坂本真綾の「今」がここに
菅野よう子のプロデュースで10年、そこから羽ばたき、さまざまな出会いの中で音楽制作を続けて10年。合わせて20年の年月を、「自分の歩幅で、自分のスピードで」歩き続けることができたと語る、坂本真綾。20周年記念アルバム「FOLLOW ME UP」には、ゆかりのクリエーターたちが多数参加。今だからこそ生み出せる、芳醇な1枚となった。
「FOLLOW ME」を、20周年のキーワードに
──4月に行われた、さいたまスーパーアリーナでの20周年記念ライブが「FOLLOW ME」。今回の20周年記念アルバムは、そこからちょっと言葉が加わって、「FOLLOW ME UP」なんですね。
坂本 「FOLLOW ME」というのは、私の中では、「ついてきて」というような強いイメージではなかったんです。「フォロー・ミー」(1972年公開/キャロル・リード監督)という、大好きな映画があって。探偵がある女性を尾行する話で、会話も交わさずに一定の距離を保っているんですけど、女性も探偵の存在に気づいて、不思議な信頼関係ができあがっていくんです。お互いに話したことはないけれど、気持ちとか好きなことを共有しているのって、リスナーと自分の関係に重なるものがあるなあと。そういうほどよい距離感の信頼関係っていいなと思って、ライブのタイトルを「FOLLOW ME」にしたんです。
──なるほど。どちらかというと静かなイメージだったんですね。
坂本 ライブが終わって、アルバム制作が始まるぞという時に、「FOLLOW ME」というタイトルを、そのまま20周年のキーワードとして引き継いでいってもいいかなと思って。それで、少しだけ変えてアルバムタイトルを「FOLLOW ME UP」にしました。
──アルバムの1曲目が新曲の「FOLLOW ME」ということで、たしかにこの言葉がキーになっていますね。坂本さんの作詞・作曲によるタイトル曲です。
坂本 この曲は早い段階で作曲を始めていて、自分としては、アルバムの中で箸休め的な曲を作ろうと思ったんです。でも、アルバムの全貌が見えてきた頃になって歌詞を書こうと思ったら、「FOLLOW ME」という言葉がメロディにはまってしまって。あまりやらないことだけど、アルバムタイトルが付いた曲を書いちゃおうかなという気持ちになりました。
──柔らかなグルーヴ感がある大人っぽい曲で、今の坂本さんらしい曲だなと思いました。
坂本 気負いなく、自由な気持ちで作ったのが結果的によかったかもしれないですね。自然体の自分らしい曲で、アルバムの中でも大事な存在になりました。
──ポジティブな感情にあふれた歌詞なのですが、「私に残されてる時間はあとどれくらいかな」という部分があって、小さなとげのように刺さりました。
坂本 それは常に考えていることですね。大人になったら特にかもしれないけど、人生ってあっという間だなと思うんです。自分はいつまで歌えるんだろうって。20代の頃から、CDをリリースするたびに、これが最後になっても後悔はないだろうかと、いつも考えていました。次の機会にやればいいというのはあり得ない、という気持ちでした。
──その積み重ねで、今ここに至ったということなんですね。
「アイリス」は、アナログテープを使って録音しました
──3曲目の「さなぎ」も新曲です。作詞が坂本さん、作曲・編曲はROUND TABLEの北川勝利さん。アップテンポで、ストリングスがふんだんに入っています(ストリングス編曲は牧野洋司さん)。
坂本 北川さんらしい曲ですね。ライブで盛り上がる曲を書いてくださるというイメージがあったので、今回もその方向で曲をお願いしました。北川さんとも、気づけばお付き合いが長くなって、お兄ちゃん的な存在です。ライブツアーでバンマスを務めてくださったり、私が作曲を始めるにあたっても、いろいろ相談に乗ってもらって、Macのソフトの使い方を教えてくださったのも北川さんでした。20周年記念アルバムに、ぜひ参加していただきたかった方です。
──今回のアルバムには、この20年で一緒に音楽制作をしてきた方々が、まんべんなく参加されているという印象があります。4曲目に収録されていて、シングル曲でもある「SAVED.」を作詞作曲した鈴木祥子さんも縁の深い方ですよね。2006年のシングル「風待ちジェット」に始まって、いくつもの曲を提供されています。
坂本 今までステキな曲をたくさん書いてくださって、今回のアルバムにも、「SAVED.」と「アイリス」の2曲で参加してくださいました。
──「アイリス」はアルバムのラストを飾る曲で、坂本さんの作詞作曲ですね。
坂本 「アイリス」のメロディは、「これから」を作る過程で生まれました。「これから」はOVA「たまゆら~卒業写真~」の主題歌で、作品の世界観や制作サイドのオーダーに沿って作っていったのですが、その途中で作品には合わないけれど、好きな曲ができて、アルバム用に取っておこうと思ったんです。
──この曲では、鈴木祥子さんは編曲とピアノ演奏を担当されています。
坂本 鈴木祥子さんに編曲だけをお願いしたのは、この曲が初めてで、新鮮に感じてくださったみたいです。デジタルではなく、アナログにこだわって録音するのが好きな方で、「アイリス」はアナログテープで録ったんです。
──この時代にアナログテープというのは珍しいですね。
坂本 私の歌と祥子さんのピアノを一緒に録ったんです。テンポも決めずに2人で息を合わせて。手作り感に満ちていて、情感にまかせてテンポが揺れたりするのが「アイリス」という曲なんです。きれいに整いすぎない曲で、これこそが祥子さんの世界観だなと思いました。
──歌詞も、湖に面した家が舞台で、自然の情景が広がっていますね。
坂本 ピアノと歌だけの小さな編成をイメージしていたら、湖のほとりの洋館に1人で暮らしている女性のイメージが浮かんできました。
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