ショービジネスの意識。「劇場版 蒼き鋼のアルペジオ ‐アルス・ノヴァ‐ Cadenza」フライングドッグ・南健プロデューサー インタビュー

2015年10月3日にいよいよ公開がスタートする「劇場版 蒼き鋼のアルペジオ ‐アルス・ノヴァ‐ Cadenza」(以下、Cadenza)。2013年10~12月に放送されたTVシリーズでは、まだアニメファンの間でも認知度が低かった“セルルック3DCG”を採用したことで注目を集めた。セルルック3DCGとは、3DCGのキャラクターやメカをいわゆるセルアニメのように表現する手法で、これを深夜帯TVアニメの制作現場で用いることは革新的だった。完結編となる「Cadenza」でも、映画の冒頭20分を公開の1週間以上前に放送するといった今までにないプロモーションを展開するなど、常に挑戦的なスタンスを示してきたこの作品だが、製作サイドはどのように支えてきたのか。当初からこのタイトルの製作に携わってきた、フライングドッグの南健プロデューサーにお話をうかがった。


──今作「Cadenza」の制作はいつごろから始めたのですか?

 2014年の1月の終わりに行ったTVシリーズの打ち上げの席で、監督ほか主なスタッフ1人ずつの肩を叩いてまわって「来週ヒマな日ある?」って軽い感じで呼び出してみたんです。それで翌週の打ち合わせで、「というわけで、TVシリーズがヒットしたので、続きを作りたいと思います。」という話をしたのが2月の頭。続きを作ると言ってもまたTVシリーズを作るのか、それともOVAを作るのか、はたまた劇場映画を作るのか。発表の形式も描くべき内容も、何も決めずに打ち合わせを始めました。一応、自分としては製作していくうえでのスケジュール感や予算の見通しを何パターンか作っていて、そこでみんなでアイデアを話し合って、100分ぐらいの映画を2本作る、ただし1本目はTVシリーズの総集編を7割くらい含んだものをやろう、というところまでは、打ち合わせ2回くらいで決まったと思います。

──映画2本というのは早い段階で決めたんですね。

 そうですね。僕は、監督というのは、一面ではアニメを作る方法を知っている“ビジネスマン”だと考えているので、打ち合わせの場でも内容面だけでなくスケジュールや制作費も込みで話をします。岸誠二監督、シリーズ構成の上江洲誠さんをはじめとした「アルペジオ」スタッフに対してはずっとそう接してきたので、今回も、スケジュールなどの都合を踏まえたうえで、何を制作することが作品にとって、ファンにとって、我々にとってベストなのかを相談しながら、映画2本に決めたという感じです。

──制作は、前作「DC」と同時並行しての作業だったのですか?

 同時並行ではなく、新作部分をひとつながりのストーリーラインとして作っていきました。「DC」の新作40分と今作「Cadenza」をあわせてひとつの物語として、この時間で何ができるのか、構想やアイデアを全部書き出し、情報量で言うと200分くらいになるアイデアを叩き込んでいます。映画はTVとは少しテンポ感が違うので、1クール分くらいのアイデアに相当します。それで構成を作って、「DC」ではここまでやる、というところが決まってから細かい脚本の作成に入りました。

──今回の「Cadenza」の制作過程においては主にどんな部分に時間をかけましたか?

 そうですね……、これは岸監督独自のやり方かもしれませんが、彼は「何を作るのか」という企画意図をハッキリさせるところに最も時間を費やします。その次は、もうとにかく脚本に時間がかかりますね。みなさんはおそらく、脚本にはストーリーとセリフだけが書いてあると想像しているんじゃないかと思います。実際、バトルアニメの脚本であれば、戦いのだいたいの流れと、戦いの中でのポイントになるセリフが書いてあれば普通はOKなんです。でも「アルペジオ」の脚本には艦の配置についての記述や、場合によっては曲を入れるタイミングまで書かれているんです。要は字コンテのようなものですよね。そのため、脚本にはとても時間をかけます。


──アイデアをストーリーとしてまとめるのが上江洲さんのお仕事になるのでしょうか?

 そうですね。話の着地点が決まったら、そこに行き着くようにキャラクターのドラマや、バトルがあるのであれば戦闘に至るまでの経緯が必要になります。その必要性や、段取りの流れに不自然がないかをみんなで確認していくのが、構成会議に当たります。

──ものすごくロジカルに決めていくんですね。

 そうですし、そのロジック自体も、作劇上のロジックや、ファンのニーズを考えたうえでのロジックなどさまざまなものがあります。そして会議に出席している人たちによる「俺はこの子が好きだから推して行きたいんだ!」といった感情的なものとか、「こんなん思いついちゃったんだけど・・・」というアイデアも複雑に絡み合ってできていきます。

──感情的なものもちゃんと含まれているんですね!

 それはもちろん。やっぱり、そういういろんなモチベーションを持ち込まないと面白い作品はできないと思います。

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