「王立宇宙軍」から受け継がれたクリエイターの魂を込めたモノづくり 吉成曜「リトルウィッチアカデミア 魔法仕掛けのパレード」監督インタビュー

2013年、文化庁のアニメーター育成プロジェクト「アニメミライ」用に企画されたオリジナルアニメ「リトルウィッチアカデミア」はファンから大好評で迎えられた。本作の監督を務める吉成曜氏は、「新世紀エヴァンゲリオン」で、ファンはもとよりトップクリエイターたちからも絶賛されるアニメーター。そんな吉成監督が陣頭指揮をとったこの作品はハイレベルな映像クオリティだけでなく、大人も子供も楽しめる普遍的な魔法少女作品に仕上がった。

また、同年には続編の企画も発表され、クラウドファウンディングという世界中のファンからネット上で基金を募るという資金集めの手法が採られ、瞬く間に目標を達成したことも話題を呼んだ。そうしてできあがった本作「リトルウィッチアカデミア 魔法仕掛けのパレード」はどんな作品なのか。吉成監督に話をうかがうと、クリエイターとしての作品作りの考え方やファンと作品との関係性が色濃く表れている様子だ。


クリエイターとしての動機づけを作中キャラクターと重ねて


──本作は日本ではまだ珍しいクラウドファウンディングによって製作されました。世界中から支援を集められたことについて、監督はどのような理由があったと考えますか?

吉成 この作品に限らず世界中に日本のアニメファンは数多くいらっしゃるわけですが、彼らは何らかの形で日本のアニメに貢献したいとずっと思っていたのではないでしょうか。そうした状況の中で、たまたま僕たちが最初にこうした企画で呼びかけたから、多くの皆さんが反応して押し寄せたんじゃないかなと思います。先日も「アニメエキスポ」というロサンゼルスのイベントにうかがったのですが、彼らは積極的で楽しむ気まんまんで来て、非常によろこんでくれました。そんな状況だからこそ、当たっているんだと過大に受けとってはいけません(笑)。他に人気のある作品を聞いてみると、挙がるタイトルも日本の最新作とほとんど変わりがない。彼らは日本のアニメらしさのある作品が好きなわけで、日本人が変に海外に媚びようとしてしまうときっとズレてしまうでしょうね。そこが難しさでもあるなと思いました。

──今作ではどんな作品作りを目指しましたか?

吉成 これは国内ファンに対してもそうですが、あまりに設定が特殊になってしまうと、とっつきにくいものになってしまいます。ですので、たとえば僕たちの親の世代が見てもわかりやすいものにしようとは思いました。前作をスケールアップしつつ、アクションよりもややドラマに比重を置き、そこを見ていただいても十分に面白いと思わせるようなものを作りたいなと考えました。

──脚本は島田満さんがクレジットされていますが、監督とは共同で行なって開発を進めていかれたのでしょうか?

吉成 僕だけではなく、最初はスタジオ全体でディスカッションを進めていきました。そこでみんなのアイデアを詰め込んでいくと尺に収まりきらなくなってしまったんです。だから外部の方に入っていただいて冷静にジャッジしていただこうということで、島田さんに力を貸していただきました。ベテランの方なので、ドラマ展開と時間計算についてもきれいにまとめていただけました。島田さんにお願いした理由はもうひとつあって、作中では主人公の女の子同士が、あるいさかいを起こす展開があるのですが、その心情を描写する際にウチの野郎スタッフばっかりで詰めていくと、どうしても男のケンカになってしまうんです(笑)。やっぱり男のケンカと女の子のケンカって違うので、どういう感情の行き違いでケンカになるのかは女性の方に書いてもらった方が説得力のあるものになりますね。


──前作では若者が新しい世界に飛び込んでいくという、「アニメミライ」の企画である作り手の状況と、描かれた物語においてある種、重なる部分がありましたが、今作においてもそうした状況を反映した部分はありますか?

吉成 それでいえば、先ほどのクラウドファウンディングの話がまさにそうで、ファンの人たちに支えてもらっているという点が、クライマックスの部分に関わってきます。お客さんに応援していただき、彼らに楽しんでもらわないとエンターテインメントは成立しないわけです。主人公の最初の動機付けにしてもそうで、僕らの状況に照らし合わせて共感できそうだったり抱えている問題を反映させるほうが作りやすいんです。「なんでこんなことをやっているんだろう」というのがわからないとキャラクターを動かせない。たとえばロボットが出てくるという仕掛けを考えても、それだけではなかなか物語にならなくて、一体この人は何をしたいのかを最初に決めないと進まない。そういう内的な動機は自分たちが抱えている問題のほうがつかみやすいんですよね。最終的に地球を守るみたいなデッカイ話になるとしても、出発点はそういうところにしておかないと上手く進められないところはありますね。

──壮大なことも絵で描こうと思えば描けるけども、その足場がないと。

吉成 そうです。それがないとお客さんも気持ちが乗らないと思うんです。キャラクターが望んでいることに共感するとか、自分もこうなってほしいとか、お客さんを引っ張っていく何か。

──そうした内的な動機に根源を置く考え方は、TRIGGERという制作会社や、以前にTRIGGERのみなさんが所属されていたガイナックスの社風のように思えるのですが、いかがでしょうか?

吉成 そうだと思います。僕がガイナックスに入った理由は「王立宇宙軍」(ガイナックスのデビュー作:1987年公開)を見たからなんです。ロケットを飛ばすという一見、意味のないことについて目標を持っていなかった若者が一生懸命になるというところに、作り手の気持ちがすごく表れているなと思って。「エヴァンゲリオン」も庵野監督の人生が色濃く反映されていると思うんですけど、そういうふうに作っていくほうが、お客さんも作り手も気持ちが乗っかりやすいと思うんです。


──はじめてご覧になったのは?

吉成 中学生の頃ですね。ただ、当時は厳密にはその気持は分かっていなかったかもしれません。ちょうど僕がガイナックスに入社した時に「王立宇宙軍」の続編の「蒼きウル」という企画が進んでいて、それを練り直していろんな人からアイデアを集めていたんです。「王立」ってすごく大勢でアイデアを出し合って作っているから、物語の奥行きとか世界の作りこみがスゴいんですよね。資料もたくさんあって、こうやってあのスゴい作品ができたんだと知り、それがアニメ作りの基礎みたいに自分の中に刷り込まれてたから、この作り方が本道であるというふうに思っているのかもしれませんね。

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