【犬も歩けばアニメに当たる。第11回】原作ファンも前作アニメファンも納得! 新たな魅力を携えて生まれ変わった「GAMBA ガンバと仲間たち」
心がワクワクするアニメ、明日元気になれるアニメ、ずっと好きと思えるアニメに、もっともっと出会いたい! 新作・長期人気作を問わず、その時々に話題のあるアニメを紹介していきます。
原作の児童文学をていねいに読み解き、新たに誕生した名作
「ジュラシック・パーク」も「進撃の巨人」も何するものぞ。この国には、〝食われ、囲まれ、蹂躙される恐怖〟を描いた名作が40年も前からあった。それも子どもの読み物として。それが、斎藤惇夫の児童文学「冒険者たち──ガンバと15ひきの仲間」。ネズミを主人公とした動物たちの冒険物語だ。この名作が、3DCGアニメーションの新作映画となってよみがえった。
相棒のマンプクと2匹、街でのんびり暮らしていた町ネズミのガンバは、ふとしたきっかけで「海が見たい」と思いたち、海辺の街へ向かう。そこでガンバは、荒くれ者の船乗りネズミのヨイショやガクシャたち、さらに助けを求めてきた島ネズミの男の子、忠太と出会う。島ネズミたちは、白イタチのノロイの一族に襲われて、全滅しかかっているという。ガンバたちは島ネズミたちの助けになろうと島に渡るが、そこでは恐ろしいノロイ一族との死闘が待っていた。
忠太を含めて7匹の仲間が結集し、SOSに応えて絶望的な戦いに乗り出して、弱い多数を従えて強者に挑む。この展開は、映画「七人の侍」に通じる逆転サバイバルストーリーで、改めて見ても心が熱くなる。
「宝島」「あしたのジョー2」の出崎統監督が手がけたアニメ「ガンバの冒険」(1975年放送)で、ネズミたちは、服や帽子などのキーアイテムを身につけた二頭身半のキャラクターとしてデザインされた。一見、子ども向け仕様のかわいらしいキャラクターたちだ。
ところがどっこい、描き出される戦いでは絶望が容赦なく突きつけられた。巨大で圧倒的、しかも残酷無比な白イタチ・ノロイの恐怖は、子どもたちにトラウマを植えつけた。だからこそあきらめずに立ち向かうネズミたちの物語は強い印象を残し、大人になっても忘れられない「名作」といわれるアニメになった。
「『冒険者たち──ガンバと15ひきの仲間』がCGアニメーションで再びアニメ化」というニュースを聞いて感じたのは、あの名作が新たに注目されるといううれしさ。同時に、前のアニメが素晴らしかっただけに「変に子どもっぽくした中途半端な作品だったらガッカリだな」という思いだった。期待半分、不安半分。しかし原作ファンとして見ずにはいられない。そんな気持ちで映画館に出かけたが、結果からいうとまったくの杞憂だった。
中性的なノロイの妖しさと恐ろしさにうっとり!?
映画は、ハラハラドキドキに満ちた良質なエンターテインメントに仕上がっている。ガンバは、若くて世間知らずで勇敢で、強者におもねらず弱者にやさしい正統派の主人公。忠太の姉の潮路は、家族思いで賢く美しく、決断力と行動力を合わせもつ、こちらも正統派のヒロインだ。今時のアニメでは珍しいタイプともいえるこの2匹が、イヤミなくさわやかに話を引っぱる。
原作で島に乗り込む15匹のネズミたちは、さまざまな事情から7匹に集約された。その分、各々の個性やストーリーが、ぼやけることなくくっきりと描かれている。
町育ちのガンバが、未知への憧れから住み慣れた場所を離れて旅立ち、海を見た時の興奮。境遇や体格、経験の異なるヨイショとガンバが、互いを認めあうことになる経緯、などなど。なかでも印象的なのが、ボーボとイカサマの関係だ。
のんびりやのボーボは、戦闘向きの性格ではないし、あまり戦いの役には立たない。アウトロータイプのイカサマには、ボーボがなぜこんな戦いに志願してきたのかが理解できない。けれど状況がどんどん深刻になっていく中、イカサマは次第にボーボを理解し、彼が望んでこの島に来て今幸せであること、そして彼がここにいてくれてよかったということに気づいていく。これは原作からていねいにすくいあげ、より印象的に生かしたエピソードのひとつとなっている。
……と、いろいろ述べてはみたが、この作品で出色の出来映えのキャラクターは、白イタチのノロイだろう。正直、出崎アニメ版のノロイの恐ろしさを越えることはないだろうと思っていたが、スイマセンなめていました!
ノロイの声は、狂言師の野村萬斎が担当している。中性的で色っぽい声、話し方、芝居がかった大げさな仕草。「このデジャヴュは……そうだ、あれだ!」と思っていたら、パンフレットでも野村萬斎が「ベルク・カッツェ」に言及していたので、思わず笑ってしまった(注:ベルク・カッツェとは、「科学忍者隊ガッチャマン」に登場する悪役の名前)。
いやしかし、これが本当に恐ろしい。原作にも登場する、ノロイがネズミたちを食べ物のプレゼントで懐柔しようとするシーンでの、いかにも下心ありげな誘いの言葉のそらおそろしいこと。悪魔のささやきとはこのことか。
ネズミの視点で描かれるそそり立つようなイタチの巨大さ。月影の下、居並ぶ敵の数の多さ。追いつめられ、せまりくる悪意。そして力一杯ふりおろされるイタチの爪の鋭さ。観客はネズミの視点から、「食われる弱者」が見る世界を味わうことになる。
だからこそ、ガンバの勇敢さが際立つ。潮路のけなげさが光る。圧倒的に小さな存在が、意地と誇りをかけて死にものぐるいで、みんなで生き抜くために戦う気持ちに共感できるのだ。
緊迫のクライマックス、躍動するCGアクション
最後の決戦は、手に汗握る緊張の連続だ。ホラー映画もびっくりの恐ろしく哀しく、それゆえにしみじみする戦いの行方を見届けてほしい。
CGで描かれたキャラクターたちは、アクセサリーを身につけ、人間のように後足二本で立ち上がって会話もするが、走るときは四つ足でケモノのアクションをして、動物らしさも失わない。
動物の格闘をアニメで描くというのは、なかなか難しい。二足歩行ロボット同士の格闘なら人間の動きを参考にできるけれど、四つ足で走り回り、ジャンプし、食いついて振り回しあう動物の動きは、人間とはまったく違うからだ。そして、動物が見せる「野生の動き」というのは、どうしてもこぎれいになるCGアニメが苦手とする描写だからだ。
だが、クライマックスのイタチたちとネズミの死闘は見応えがあった。原作ファンも出崎アニメファンも、「ええっ!?」と驚く展開が用意されているので、きっと楽しめるだろう。
「ガンバの冒険」で主人公のガンバを演じていた野沢雅子が、ネズミたちと出会うオオミズナギドリのリーダー、ツブリを演じているのが、なんとも感慨深かった。ツブリが女性なのは今回の映画での変更点だが、それを感じさせないぐらいハマっていた。
「児童文学」といわれる作品群のよさは、楽しさの消費に留まらず、この世界の深みや恐ろしさをちらりと子どもに見せ、何かを心に残すことだろう。遠い世界のファンタジーに思えた物語が、少し時間が経ったとき、現実の何かに向き合ったとき、あるいは大人になったときに、「そうか、あれはこういうことだったんだ」と不意に理解できたりする。
そんな体験をさせてくれる、今に通じる魅力を持った作品として「冒険者たち──ガンバと15ひきの仲間」がよみがえってくれて、いちファンとして本当にうれしい。
「ガンバの冒険」のファンは、新たな「ガンバ」たちの物語を新鮮な気持ちで楽しめるだろう。ガクシャがなぜ二枚目なのかなど、「ガンバの冒険」との設定の違いの理由は、全部原作小説にあるので、それを知るために原作に触れてみるのもいい。
原作「冒険者たち──ガンバと15ひきの仲間」の読者は、改めて映像化されるネズミたちの世界や、映画らしいスケール感のある島の風景を楽しめるだろう。大空を飛翔したり落下したり、イタチたちの腹の下を命からがらくぐり抜けるなんていう体験は、アニメでしかできないはずだ。
そして、初めて見る人は幸せだ。あの小さくて勇敢なネズミたちの心おどる大冒険を、これから予備知識なしで味わえるのだから。
(文・やまゆー)
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