日本の食という有益な情報を世界に―「英国一家、日本を食べる」著者マイケル・ブース氏インタビュー
イギリスのフードジャーナリスト、マイケル・ブース氏が執筆した紀行本「英国一家、日本を食べる(原題:Sushi & Beyond: What the Japanese Know About Cooking)」が今年4月からNHKでアニメ化され、さらにNHKワールドから世界に向けて発信されている。この本は、2007年に実際にブース氏一家が行った100日に渡る日本滞在の経験から書かれており、今回のアニメ化はこれを元にして、イギリスから来日した英国一家が日本の食を探求するストーリー仕立てにアレンジされている。原書は2010年に英国で刊行され好評を博し文学賞も受賞。各国で翻訳され、日本でも2013年に発売開始し、現在はシリーズ累計15万部を超える大ヒットとなった。
自身の体験がアニメになり、その内容だけでなく自身と家族がキャラクターになって動く今作をどのように感じながら視聴されているのか、来日したマイケル・ブース氏に直接、お話をうかがった。英国人の目線を介した日本のとらえ方には、ある種のカルチャーショックを感じるインタビューとなった。
本とアニメに共通する“クリエイティブ・ノンフィクション”の作り
──アニメ化のオファーはどのようにあなたのもとに届いたのですか? そしてそれを聞いてどのように感じましたか?
ブース 突然、アニメのプロデューサーからEメールが届いたんですよ。まさに青天の霹靂でした。僕の本をアニメにする計画があるんだとお話をうかがったんですが、そのときは「面白いですね、具体的になったらまた教えてください」くらいにしか思っていませんでした。20年近くジャーナリストをやってきて、TV番組などから映像化のお話をいただくことはたくさんあるのですが、なかなか実現にまで至らないこともありますからね。ところがある日、またプロデューサーから連絡が来て、「お宅 にうかがってお話をしてもいいですか?」と。そこで初めて、これは本当に進んでいる計画なんだ、と感じました。ちょっと現実離れしている気もしたんですが、非常にワクワクしましたね。
──ご自身とご家族がアニメキャラクターになった感想は?
ブース 最初にキャラクターデザインの絵を見せていただいたときは、家族みんなで笑い転げました。子どもたちも大よろこびで、携帯電話に入れられる画像を送ってほしいと頼んできたくらいです。周りから僕たちがどんなふうに見えているのかがわかって面白く、少し不思議な感じもしました。たしかに僕は欲張りなところや、偉そうにしてしまうところがあるけど、そんな性格をうまく生かしたり誇張したりして、キャラクターになっていると思います。
──特にあなたのキャラクターは、実際よりもお腹がでっぷりとデフォルメされていますよね。お会いすると、アニメのマイケルよりハンサムだしスリムなので、少しびっくりしています。
ブース 僕はアニメのほうがハンサムに描かれていると思いますよ。シャツが隠してくれているから見えないと思いますが、まだあと10キロは減らしたいと思っているくらいですからね。
──アニメのどんなところを面白く感じていますか?
ブース 最初は、アニメにしてもあまり面白くはならないんじゃないかと思っていたんですが、完成したアニメを見てもう、あまりの出来のよさに感動しました。本の内容をどう画面の上で表すのか、ストーリーラインなんかはどうやって作っていくのか、僕にはちょっと想像ができなかったんですけど、監督のラレコさんには、どんどんフィクションにしてもらって構わないと伝えていました。TV番組としてドラマチックなものになるように本の内容を膨らませてくれていいと思っていましたし、実際にそうしてくれたので、僕も面白く見ています。僕がすごく好きだったのは最後の実写部分で、日本の視聴者の方が見ても、ドキュメンタリーとして非常に面白いものになっていると思います。
──本ではあなた1人でリサーチしたり取材した場所でも、アニメでは家族で訪れてドタバタするという面白さが加わっていますよね。
ブース その通りですね。僕が1人で行くよりも家族で出かけて行って、そこでいろんなやりとりがあったほうが面白いと思いますし、僕の執筆のスタイルとしてクリエイティブノンフィクションというのがあるんです。ノンフィクションなんだけれど、クリエイティブなところを足していく。情報を集めて、それを一度ふるいにかけ、ふるいにかけた情報に少しのフィクションを加えていく、本でもそういうスタイルを取っているんです。
他国への偏見を超えて見えてくる発見
──アニメでは食だけではなく、生産者や職人など日本人との交流も見どころのひとつになっていると思いますが、旅の前後で日本人に対する見方に変化はありましたか?
ブース 日本に対しては常に驚かされ、学ぶことがあります。まだまだ表面的なことしかわかっていないとは思いますが、20回くらい日本を訪れてひとつ大きな発見したこととして、海外の人には、日本人がこんなにもユーモアのセンスを持っていることは、知られていないと思います。
──日本人はお堅い人柄だと思っていたということですか?
ブース 日本に対しては2つの極端な見方があると思います。1つは、どこまで我慢できるかを試すような、とてもじゃないけれどユーモアを感じられないクレイジーなTV番組を楽しむような面。もう1つは、非常に真面目で、静かで、自分を厳しく律していくような勤勉さ。そういった2つの見方があると思いますね。まあどこの国でも、ほかの国に対して簡単には理解を示さずに、単純な見解だけであの国はこうだ、この国はこうだ、と評するところがあるので、こういった偏見を持つことは日本に限ったことではありません。いろんな国がいろんな国に対してしていることだと思います。
──家族で来日することついてはリスン夫人の強い後押しがあったと本に書かれていましたが、リスン夫人と子どもの食育について話し合いをすることはありますか?
ブース いつもいつも話し合っていますよ。家でのディナーは毎晩、僕が作っていますし、子どもたちのお弁当も作ります。ときどき巻き寿司みたいなものを持たせたりもしますよ。子どもたちには加工食品や冷凍食品を出さずに、できるだけ有機食品を食べさせることを意識しています。日本でもヨーロッパでも、今そういうことを心がける人はたくさんいると思います。来年には、また家族と訪日したいと思っているんですよ。現在、続編となる本の執筆に取りかかっています。
──この本によって日本人にとっても、日本の食の作り方や背景、環境への考え方などがとても奇知に富んだものとして受け取れました。それも踏まえて、フードジャーナリストの使命とはなんだと考えますか?
ブース 僕としてはそこまで大それた思想を持ってこの本を書いたわけではないですが、ただ当時は、英米では日本食というと寿司くらいしか知られていませんでした。寿司以外にもたくさんの食が日本にはあるということを、世界の人にも知ってもらいたかったんです。だからあまり大上段に、環境だとかそういうことを言いたかったのではありませんが、結果的に得た成果として、日本の食を知ることは非常に価値のあるものでした。旬のもの、地のものを食べることであったり、魚や野菜などたくさんの種類のものを取り入れるという、昔から日本で成されてきた食生活は、世界中のどこに出しても役に立つ、非常な有益な情報だと思います。
(取材/日詰明嘉・奥村ひとみ 構成・文/奥村ひとみ)
●製品情報
●番組情報
原作:マイケル・ブース「英国一家、日本を食べる」(翻訳:寺西のぶ子)
音楽:羽深由理、出羽良彰
アニメーション監督・キャラクターデザイン:ラレコ
アニメーション制作:ファンワークス
制作協力:ジーズ・コーポレーション
制作:NHKエンタープライズ
制作・著作:NHK
2015年4月~
NHK総合、NHKワールドにて放送
#
●年末年始特番 「英国一家、正月を食べる」
NHK総合 2016年1月1日(金)午後10:15(49分)
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