ホビー業界インサイド第5回:デジタル技術が揺るがすフィギュア造形の“常識” “ZBrush”原型師、深川克人インタビュー

フィギュア商品の原型制作といえば、粘土やパテ等の素材を手で盛りつけ、ナイフやヤスリで削ったり磨いたり……といった作業が当たり前だった。ところが今、パソコンの中だけで自由自在に造形する“デジタル・モデリング”が、急激に普及しつつある。粘土やパテに一度も触れたことがなく、いきなりパソコンでフィギュア造形にトライする人たちも現れつつあるという。

東京・代々木のカルチャースクール「おとなの美術室」で、3D造形ソフト“ZBrush(ゼットブラシ)”の講座を担当する3Dアーティストの深川克人氏に、いま模型業界に起こりつつあるデジタル化の裏側について、お話をうかがった。


“Zbrush”造形は、どこまで万能なのか?


──深川さんの教えるZBrush基礎講座には、どういう方たちが受講に来るのですか?


深川 まったく造形の経験ゼロで、趣味ではじめたいという方、デジタルで絵は描いているんだけど3Dは初めてという方……、あらゆる方がいらっしゃいます。意外と、プロのフィギュア原型師の方も受講されているんですよ。


──粘土やパテで造形していたベテラン原型師が、デジタルを学びに来るんですか?

深川 ええ、そういう方が、フィギュア業界でもかなり増えているようですね。

──プロ原型師までが、アナログからデジタルに乗り換える、あるいは併用する理由はなんなんでしょう?

深川 デジタル造形のメリットとしてあげられるのは、まず、正確な左右対称を、簡単に作れることです。キャラの目が左右でズレていて、どうしても合わない……なんていう苦労がありません。アナログでメカを作る場合、直線と曲線の入り混じった形を、ノギスやテンプレートで測りながら正確に仕上げていくと聞きます。大変神経を使う作業だそうですが、それに比べると自動的に左右対称を合わせてくれるデジタル造形は、とても楽ですね。

あとは、画面上の3Dモデルをいくらでも拡大して細かなディテールを作り込めたり、また、モデリングの途中から、完成イメージに近い着色で作業を進められたり……など、メリットは多いです。

──ここにあるフィギュアは、分解可能になっていますね。パーツ同士のダボ穴がピタッと合います。

深川 そこもデジタル造形の強みです。部品同士の正確なはめ合わせ形状が、誰にでも高精度で作れます。

ただし、現在の3Dプリンタの出力品には“サポート跡”や“積層段差”といった、ザラザラの部分が出てしまいますので、このザラザラを、ヤスリで磨いてきれいに仕上げるという作業が必要になります。


──ここ数年、特にZBrushが注目されている理由は、何でしょう?

深川 従来の“ポリゴンモデリング”の場合、本来の目的である造形と同時に、その形にそった最適なポリゴンの並べ方を、つねに考えていく必要があります。それがけっこう、ストレスなんですよ。ところが、ZBrushではペンタブレットを使って、まるでアナログの素材をあつかうように、ポリゴンの並びも気にせず、思いどおりの造形が出来てしまう。そこが画期的なんです。

だけど、何よりも立体出力の普及が、大きいと思います。日本国内でも出力サービスを行う業者さんが増えたし、個人向けの安価な3Dプリンタも、多く販売されるようになりましたからね。

──ZBrushでは、3Dモデリングの知識がゼロでも、直感的に作れるわけですか?

深川 3DCGやZBrushの知識があまりなくても、本物の粘土をこねるような機能ひとつだけで、ほとんど何でも作ってしまう方もいますね。

僕の場合、映像やゲーム系でのGC経験が長かったんです。ですから、当初はポリゴンで基本的な形を作ってしまい、服のシワのような細部だけ、補助的にZBrushを使いはじめました。ZBrushの一番の得意分野は、凸凹の多い有機的な形状なんです。シャープでカッチリした形を作るには、必ずしも向いていない部分があります。ですから、僕が個人的に制作したフィギュアも、本体や服はZBrushで造形して、刀だけは昔ながらのポリゴンモデリング……というように、デジタルのツールを、いくつか併用しています。


──ZBrushの造形にも、向き・不向きがあるわけですね。

深川 個人のスキルや好みに左右される部分ですし、やって出来ないわけではないのですけど。例えば、「艦これ」のキャラクターで言うと、生身の女の子の部分はZBrushで作って、大砲のようなメカ部分はポリゴンやCAD(機械部品などを設計するソフト)で作る……といった使い分けもされています。

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