【懐かしアニメ回顧録第13回】松崎しげるのハスキーボイスにむせび泣く! 冷たく美しい「スペースアドベンチャー コブラ」の抽象性

いよいよ12月18日から、「スター・ウォーズ」の完全新作映画「フォースの覚醒」が公開される。1978年の「スター・ウォーズ」第一作公開前後は、同作をパロディ化した映像がテレビCMで流れ、国内のアニメや特撮も、大きな影響を受けた。

劇場映画「スペースアドベンチャー コブラ」(以下、劇場版「コブラ」)は、「スター・ウォーズ 帝国の逆襲」から2年後、1982年に公開された作品だ。原作者の寺沢武一自身、“「スター・ウォーズ」がGOサインとなって描きはじめた作品”と明かすコミックのアニメ化作品なのだが、果たして、どのくらい影響が残っているのだろうか?


松崎しげるが、ハン・ソロを演じた理由


先に、余談めいた話をしておこう。劇場版「コブラ」を制作したのは、「ルパン三世」と同じ東京ムービー新社(現:トムス・エンターテイメント)。ルパンの声優が、放送開始までに野沢那智、広川太一郎、山田康雄と変遷したように、コブラ役の声優も劇場版では松崎しげる、テレビシリーズでは野沢那智、関連商品のCMでは山田康雄が担当している(2010年のテレビシリーズでは、内田直哉が演じた)。

劇場版「コブラ」では、松崎しげるがハスキーな声で、とぼけた雰囲気のコブラを軽妙に演じているのだが、松崎は翌1983年、「スター・ウォーズ」の初テレビ放映時、ハン・ソロ役を射止めている。このキャスティングには、劇場版「コブラ」での松崎の好演が影響しているのではないか……と、当時から噂されていた。

その真相はさておき、劇場版「コブラ」に「スター・ウォーズ」の影響を見ることは、たやすい。冒頭、ヒロインのジェーンが賞金首をしとめるシーンでは、頭上に巨大な宇宙船が横切り、エイリアンばかりの酒場が登場する。賞金首が使う武器は、杖の変形したビーム状のランサーで、「スター・ウォーズ」のライトセーバーを思わせる。

だが、影響と呼べるのは、その程度だ。監督は「あしたのジョー」で知られる出崎統。松崎しげるの歌うバラード調の主題歌がはじまってからは、アダルトな雰囲気の耽美的世界が展開する。


柔らかいガラスや金属の生み出す、抽象世界


物語は、コブラが惑星ミロスの生き残り、ジェーン、ドミニク、キャサリンの三姉妹と出会い、彼女たちの悲劇的な運命に立ちあうラブストーリーだ。コブラは宿敵クリスタル・ボーイと戦いこそすれ、あくまで三姉妹の頼みを聞いて、惑星を渡りあるくだけだ。

特筆すべきは、登場するSFガジェットが、少しも物理的にリアルではないこと。コブラの左腕に隠されたサイコガンは、原作漫画では義手を外して使う。ところが、劇場版『コブラ』では左腕が光ったかと思うと、いつの間にかサイコガンに変化している。立体映像のような、不思議な仕組みになっているのだ。

宿敵のクリスタル・ボーイは、全身が金属の骨格とガラスの皮膚でできている。では硬質なボディなのかというと、そうではない。彼は笑うとき、自分の顔面に指を突っ込む。そのとき、彼のガラスの表皮は、液体のように柔らかくなるのだ。また、ボーイはガラスに覆われた自分のボディの内部から、金属製の肋骨を手で取りだし、それを武器にする。サイコガンのビームは素通りするし、銃で撃っても、ガラスの表皮がゲル状となって弾丸を受けとめてしまう。外部からの攻撃はシャットダウンするが、ボーイは、彼自身の体と同じ物質ならば、体内に出し入れすることができるのだ(最後の戦いでは、その特性が仇となる)。

また、三姉妹のうち、ドミニクだけはクリスタル・ボーイの意のままに操られている。ボーイの金属骨格と同じ材質の輪を、頭にはめられているのだ。コブラによってボーイが倒されると、ドミニクの頭の輪は、液体のように溶け落ちる。そのとき、彼女の目に溶けた金属がたまり、黄金色の涙のように流れおちる――。劇場版『コブラ』の耽美的ムードを高めるのが、これらの液体金属、キューブ状の氷の拘束具、光の馬や円盤に変形する乗り物など、物理的にあり得ないSFガジェットの数々だ。それらは絵には描けても、実際に作ることは難しいだろうし、そもそも作る理由がない。デザインのためのデザインなのだ。

映画版『コブラ』は、『スター・ウォーズ』のように手で触れられる温かい世界ではない。アニメーションという「絵が自在に動く」法則の中でのみ成立する、冷たく美しい抽象世界なのだ。




(文/廣田恵介)

おすすめ記事