【犬も歩けばアニメに当たる。第13回】応援したくなる等身大のアイドルの群像劇「Wake Up, Girls! 続・劇場版 前後篇」

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後篇のラストがあっさりしているのは、ひとつの通過点だから


「Wake Up, Girls!」テレビシリーズの続篇として制作された、劇場版の前後篇「青春の影」「Beyond the Bottom」が公開された。

タイトルのWake Up, Girls!は、7人のメンバーによるアイドルユニットの名前、通称「WUG!(わぐ)」。東日本大震災後の仙台を舞台とした、アイドル業界群像劇になっている。

ちなみにサブタイトルは、「七人の侍」を始めとする、黒澤明監督の映画のタイトルをもじってつけられている。今回の劇場版前後篇は、「影武者」と「どん底」からとっていると思われる。

これまでのシリーズでは、7人のメンバーが集められるところから物語が始まった。第1作の劇場版「七人のアイドル」では、元メジャーアイドルグループの一員だった島田真夢を中心に、7人が困難の中、背負ったものを越えてアイドルの道に踏み出し、ユニットが本格的に始動するまでが描かれた。

テレビシリーズでは、アイドルの在り方をライバルの「I-1 club(アイワンクラブ)」と対比させながら、成長していくWUG!の姿を描き、優勝を狙ってエントリーした「アイドルの祭典」の決着までを見せた。

今回の続・劇場版は、その後メジャーデビューしたWUG!の東京進出と挫折、そして「アイドルの祭典」への再挑戦の物語となっている。(スピンオフ作品として、「うぇいくあっぷがーるZOO!」がある。)

後篇「Beyond the Bottom」については、ファンの感想として「駆け足で残念。もっとたっぷり見たかった」という評がある。この評価は、ここまでのシリーズで積み上げられてきた物語の中で、ファンの気持ちが高まってきていることも示している。

「アイドルの祭典」での優勝が華なら、そこをもっと盛り上げてほしかったし、メンバー1人ひとりのドラマをしっかり見たかっただろう。また、観客席で見守る劇中のファンと同じ目線で、WUG!の7人のステージを、フルサイズで歌も踊りも楽しみたかっただろう。

今回、そこがあっさりしていた理由はひとつ。ここが頂点ではないからだ。山本寛監督は、さらにこの先を描きたいと、パンフレットのインタビューで語っている。

とはいえ、歌とダンスをフルで見たい気持ちは、それはもうわかる。そういうものだ! なぜなら、WUG!自体がそういう、「応援したくなる」気持ちをかきたてるように、ここまで続いてきたからだ。


実写ドラマのようなキャラクターたちの存在感


アイドルアニメがあふれる中でも「WUG」は、あえていうなら“地味な作品”として語られることが多い。

アイドルアニメではもはやおなじみの、3DCGの華やかで立体的なステージシーンやダンスもない。登場人物の髪の毛はほとんどが黒か茶色で、ピンクや水色といった現実にない色は存在しない。

東日本大震災を絡めたキャラクター造形は、セリフのひとつひとつから過去の設定に至るまで、ハッタリが少なく、アニメというよりは実写ドラマに近いテイストがある。

だからこそ、シリーズ最初のエピソードに当たる映画「七人のアイドル」のダンスシーンで、パンチラがあったとき、見ている側はギョッとした(まるで、リアルな女の子のパンチラを見てしまったかのように!)。

そして、少女たちが悩んだり涙をこぼすシーンでは、切なく感情を揺さぶられることになるのだ。

アイドルの周囲の大人たちの造形がまた奥深い。WUG!7人の1人ひとりに突出したドラマがない分、大人たちがいい味を出している。

WUG!が所属する事務所「グリーンリーヴズ・エンタテインメント」のやり手の女社長・丹下順子は、元アイドルだ。WUG!のメンバーの迷いや進退に際して与えるアドバイスには、ビジネスのつきあいを越えた、先輩としてのあたたかみがある。また、さえないシンガーをやっている元アイドルで盟友・佐藤勝子(サファイヤ麗子)の危機には、遠方から駆けつける侠気を見せる。

ライバルのI-1 clubを率いるゼネラルプロデューサー・白木徹は、かつて丹下と佐藤をユニット「セイント40」として売り出した人物だ。テレビシリーズでは冷徹な人物と思われたが、続・劇場版で上の指示を受けたり、丹下と大人の会話を交わしたりして、彼なりに今もアイドルに熱い思いを持っていることが示される。

舞台設定がリアルな分だけ、勝負の厳しさも切実だ。WUG!やI-1 clubのアイドルたちは、悩みに揺れつつも歯を食いしばって、生き残りをかけて競い合う。その中で、自分が頑張る意味や、アイドルを続ける理由を見つけていく。

ストーリーは群像劇で、1人だけ際立った主人公はいない。かつてI-1 clubセンターだったという、比較的ドラマチックな過去を持つ島田真夢も、例外ではない。

全体に実写ドラマ風であり、極めて王道のアイドル・ストーリーだ。だから、ある一定以上の年齢層で「WUG!」を見た人は、ある種の懐かしさを感じるのだろう。


先がわからないからこそ、一瞬一瞬がきらめく


他の作品にない「WUG!」の一番の特徴は、リアル声優アイドルユニットと本篇の内容が、リンクしていることだ。

この作品のキャストは、プロジェクト始動にともない、オーディションによって無名の新人が選ばれた。そして、その演じる7人を集めてアイドルユニットとして活動を始めたのが、リアルの「Wake Up, Girls!」だ。

アイドルアニメにともない、キャストが声優ユニットを結成して、期間限定で活動することは珍しくない。だが「WUG!」は、まず新人を7人集めてユニットを組ませ、リアルにアイドル活動をさせて、そこからいろんな要素を引っぱってきて作品を構成している。そこがユニークだ。

もちろん、ドラマや設定の骨子はフィクションだ。だがそこに、現実から借りてきた要素を、可能な限りちりばめてあるのだ。

たとえば、劇中の島田真夢のセリフ「WUG!はWUG!である」は、演じる吉岡茉祐が実際に聞かれて答えたセリフである。たとえば、劇中で片山実波がかけていたサングラスは、キャストの田中美海がかけてはしゃいでいた私物である。などなど、ネタは枚挙にいとまがない。

「WUG!」という作品のファンは、リアルな7人のアイドルを応援しながら、彼女たちが反映されたアニメを楽しんでいる。もしくは、アニメを楽しみながら、現実のWUG!の活動も応援している……という、二重の楽しみ方をしているのだ。

だから、作品としての「WUG!」は、リアルWUG!たちの活動が終わるまで止まらない。山本監督も、キャスト7人に、たとえば誰かが脱退するといった出来事が起こった場合は、「劇中に反映する」とインタビューで答えている。

そういったかなりマニアな楽しみ方ができるいっぽうで、「WUG!」という作品のすぐれたところは、それらをまったく知らなくても、単独で十分に楽しめるところにある。

ゲーム原作作品などで、「原作を知らないと十分に楽しめない」という場合があるが、これは独立した作品としては魅力に欠ける。「WUG!」は、シリーズ作品として前の話を見ていた方が楽しめるというところはあるが、アニメだけを見ても幅広い層の人がアイドル業界物語として楽しめる強さがあるのだ。

アニメを見ていても、リアルな7人の活動を見ていても、ひたむきに頑張る姿についつい応援したくなる。それは何よりも、アイドルとしての特性といえるだろう。

そして「WUG!」が今後どうなっていくのかは、続篇が制作されるのかどうか、アイドルユニットがどこまで続くのかを含めて、未知数だ。その、未知なる明日に向かって同じ時間軸を歩むからこそ、WUG!たちは等身大のアイドルとして、魅力的なのだと思う。



(文・やまゆー)

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