【懐かしアニメ回顧録第14回】90年代末の混迷期を堪能せよ! デジタル化されていくアニメ界で“真実”を追い求めた「ガサラキ」!

1月の新番組「アクティヴレイド -機動強襲室第八係-」の総監督、谷口悟郎氏といえば、「プラネテス」(2003年)、「コードギアス 反逆のルルーシュ」(2006年)で知られるヒットメーカー。その谷口監督が、デビュー作「無限のリヴァイアス」(1999年)の前年、高橋良輔監督作「ガサラキ」(1998年)で、助監督として活躍していたことはご存知だろうか? さらにさかのぼれば、高橋良輔氏がプロデューサーをつとめた「勇者王ガオガイガー」(1997年)でも、何本か演出を担当している。「ガオガイガー」「ガサラキ」とも、サンライズがデジタル表現を積極的に導入しはじめた初期の作品である。


90年代末は、アニメにデジタル技術の導入された時期


「ガサラキ」とは、どんな作品だったのだろうか?

主人公は、豪和家の四男・ユウシロウ。彼は能を舞うことで、謎のエネルギー“ガサラキ”を召還する能力を持つ。同時に、ユウシロウは特務自衛隊(特自)のロボット兵器“TA(タクティカルアーマー)”のパイロットとして、傑出した才能を見せる。物語は、“ガサラキ”の力を独占しようとたくらむ豪和一族と、“TA”と同じテクノロジーを使ったロボット兵器“メタルフェイク”を所有する組織“シンボル”との対立、ユウシロウの出生の謎をめぐって錯綜する。全25話では、平安時代をも含む膨大な物語構造をとらえづらい作品だったが、前述したように「デジタル表現の積極導入」という点では、目を見張るものがある。

例をあげると、基地内のモニター画面、データ・グラフなどに3DCGが大量に使われ、さらに空間のひずみなど、物理現象にもデジタル表現が効果的に使われていた。


デジタル加工されたアニメの中では、何が“本物”なのか?


谷口悟郎氏の演出した第1話を見ると、前半は特自でのTAの運用試験、、前半は特自でのTAの運用試験、後半は石舞台と呼ばれる山奥での能の舞が描かれている。どちらのシーンでも、ユウシロウが実験体となっている。そして、どちらのシーンも、カメラやセンサーを通じたデジタル映像が、膨大に使われている。

たとえば、TAのコクピットに投射される立体的な作戦地図は、すべてCGで作成されている。指令をくだす自衛官の顔はセルで描かれているが、モニター越しなので、ドットが強調されている。TAに乗ったユウシロウが肉眼で見ることのできる風景は皆無で、最後に運用試験すべてが、仮想現実を使ったシミュレーションであることが明かされる。

では、後半の石舞台での能の舞いはどうだろう? この舞は“ガサラキ”を召還することが目的なので、石舞台の周囲には、ズラリと観測機器が並ぶ。特自での試験と同じく、ここでもデジタル的なモニター画面が多くのカットで使われている。ところが、能面をつけて舞うユウシロウは、意識の中で異様なイメージを見る。敵対組織“シンボル”に属するヒロイン、ミハルが短剣をもって切りかかってくる姿だ。そのイメージシーンのみ、真っ黒な背景とセルだけで描かれている。つまり、デジタル加工のされていない、生(ナマ)の映像なのだ。

簡単に整理すると、デジタル加工された映像(監視カメラやグラフ、モニター上の地図など)は科学的には“本物”であり、客観的事実として描かれる。それに対して、セルのみで描かれた未加工の映像は、人間が肉眼や深層意識で感じとる、体感的な“本物”の世界……と分けることができる。つまり、2種類の“本物”が作品内で入り乱れているわけだ。

そして、物語は自分の正体を見極めようともがくユウシロウの主観的世界へと没入していく。豪和一族に騙されていたことを知り、アイデンティティを喪失していくユウシロウ。彼の迷走は、デジタル技術の急激な介入によって揺さぶられる、90年代末のアニメ業界のとまどいに、ピタリと重なって見える。

(文/廣田恵介)

おすすめ記事