サスペンスという皮をかぶったヒューマンドラマ――ノイタミナ最新作「僕だけがいない街」伊藤智彦監督インタビュー

1月7日にスタートしたTVアニメ「僕だけがいない街」は、どこか懐かしい情景の中で予測不可能なストーリーが描かれる、時間逆行サスペンス。2006年に母親殺害の容疑をかけられた29歳の青年・藤沼悟が、特殊な現象「リバイバル(再上映)」によって1988年へ舞い戻り、未来を変えるために事件の真相を追っていく。原作コミックスは「このマンガがすごい!」や「マンガ大賞」にもランクインした話題作だ。
そんな「僕街」の監督を務めるのは、「ソードアート・オンライン」シリーズを手がけた伊藤智彦氏。「この作品はヒューマンドラマ」と語る伊藤監督にお話をうかがうと、第2話以降をひも解く鍵が見えてきた。



サスペンス要素を足しながら、悟が自分に踏み込む物語を描く


──原作コミックスは「このマンガがすごい!」や「マンガ大賞」にランクインしていますが、監督ご自身が読まれた際の感想を教えてください。

伊藤 俺が初めて読んだのは原作がまだ2巻しか出ていなかった時なので、おそらくランキングされる前である、ということをアピールしておきますね(笑)。制作スタッフに薦められて読んだのですが、続きがとても気になって、「ぜひアニメにしたい」と話していました。

──具体的にどんなところを映像化したいと思いましたか?


伊藤 過去に戻った時のノスタルジックな情景、要所要所の感動的なエピソードにぐっときました。あと、サスペンスアニメって実はあまりないと思うので、やってみたいな、と。

──では、逆に難しそうだと感じたところは?

伊藤 あくまでアニメなので、あまり淡々としすぎては地味になってしまう。そのあたりは一番注意すべきポイントだと思いました。実際に制作に入ってからも、アニメとして画が映えるように、サスペンス要素を足すようなカット割りを意識しています。

──第1話の終盤、悟と母親を殺した犯人がすれ違う場面は、かなり緊迫感が伝わってきました。

伊藤 原作のような過去への戻り方ができなかったのですが、いろいろと手を加えるよりも、犯人の計算高さが見えると思ったんですよね。この場面を印象深く映したかったので、切れかけの電球をチカチカさせる演出を加えました。

──ラストシーン、悟が「リバイバル」で1988年に戻る場面も印象的でした。


伊藤 実はシナリオの打ち合わせの時から、1話の最後1分ぐらいは1カットでやってもいいかなと考えていました。原作のページを開いた時のインパクトを、映像で再現したかったんです。

──第2話以降は、29歳の精神が入った10歳の悟が行動する、という複雑な流れになりますね。

伊藤 「時をかける少女」的なノリというか、意外と過去の話が長くて。過去の話をしている間に視聴者が現代の悟を忘れてしまう可能性があると思ったので、モノローグはずっと29歳の悟が話しています。それなら主人公として存在感があって、ずっと近くにいる感じがするじゃないですか。ただ、姿は一切出していません。姿が出てくると、いつでも元に戻れる、自由に時間を行き来できそうに思えるので。「リバイバル」は便利にタイムスリップできる能力とは違うんですよね。


──作品全体のテーマとして考えていることをお聞かせください。

伊藤 この作品にはヒロインが何人か登場しますが、基本的には悟の話だと思っています。第1話の冒頭でマンガ編集者に「あなたの顔が見えてこない」と言われていたように、「藤沼悟は人生に踏み込んで生きてきたのか?」という問いかけがひとつありますよね。それに対して彼がしっかり踏み込んでいく物語を作るのがテーマで、第2話以降でもできるだけわかりやすく描いているつもりです。その積み重ねによって、最後に「顔」が見えてくるのではないでしょうか。

──悟というキャラクターについてはどんな印象をお持ちですか?

伊藤 わりと俺に近いものを持っていると思うので、親近感がわきます。結構グチグチ言ってしまうことも多いですし、「女子に話しかけられないその気持ち、わかるよ!」とシンパシーを感じる(笑)。俺も1988年度に小学5年ぐらいだったので、同世代なんですよ。「同じ時代を生きてきたんだ」と思うと、少し感慨深いですね。


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