アニメ業界ウォッチング第17回:5周年をむかえた「立川×アニメ」、聖地巡礼にとどまらない次の一手は? 立川観光協会・岩崎太郎インタビュー!

「とある魔術の禁書目録」「とある科学の超電磁砲」、「聖☆おにいさん」、「ガッチャマン クラウズ」、「ガッチャマン クラウズ インサイト」、「世界征服~謀略のズヴィズダー」……ここ何年かの間、東京都立川市を舞台にしたアニメ作品が増えつづけている。立川市は観光事業にアニメを組み込み、ファンの期待にこたえる街づくりを行ってきたが、その取り組みも5年をこえ、ターニングポイントを迎えているようだ。これまでの歩みを、立川市観光協会の岩崎太郎副会長にうかがった。


聖地巡礼で、自治体が気をつけるべきポイントとは……?


──立川観光協会のアニメ事業は、どのようにして始まったのですか?

岩崎 私が懇意にしている方から、「立川を舞台にしたアニメがありますよ」「聖地巡礼で立川を訪れたり、ネットで書き込んでくれているアニメファンがいますよ、知ってましたか?」と教えてもらったことが、そもそものキッカケです。ネットで調べてみると、名古屋などの遠方から、立川まで足を運んでいる方たちがいらっしゃる。そうした熱心なファンの方たちに、より快適に立川で過ごしていただけるよう、何かアイデアを練るべきでしょう……と、5人ぐらいで集まって、チームをつくりました。それが、2010年のことです。

──そのチームは、どんな方たちで構成されていたのですか?

岩崎 立川観光協会、立川市役所、それとフィギュアメーカーとして知られるコトブキヤさん、オリオン書房さん、立川シネマシティさんに集まっていただきました。当初は何をすればいいのかわからず、まずは聖地巡礼のためのマップを作りました。その時点では、どのアニメをどこの会社が制作しているのかさえわからない、まったくの手探り状態でした。ですから、そのころに立川に来られた方は「グッズも何も売ってないじゃないか」と、ガッカリされたかも知れません。次のステップとして、版権を持っているアニメ会社さんを訪ねて「地域振興にご協力いただけませんか」と、粘り強く話をしました。その甲斐あって、アニメ会社さんからも、少しずつ協力をいただけるようになったのです。

──逆に、アニメ会社から「立川を舞台にしたアニメをつくりますから、協力してください」という話は来なかったのですか?

岩崎 「とある魔術の禁書目録」(2008年)の時点では、まだそういうお話は来ていませんでした。「ガッチャマン クラウズ」(2013年)のとき、初めて「取材の手配などで協力してもらえないか」とのご依頼を受けました。立川観光協会に、映画のロケ地などを紹介するフィルム・コミッションという部署がありますので、「ガッチャマン クラウズ」では、しっかりした協力体制を整えることができました。


──「聖☆おにいさん」(2012年)も、立川が舞台ですよね?

岩崎 2013年の劇場版のとき、ご協力させていただきました。主役のブッダとイエスはアパートに住んでいる設定ですので、空き家を改造して、アパートの部屋を再現しました。アニメの舞台となった商店街に行けば、どなたでも無料でブッダとイエスの部屋を見られるよう、一般公開したんです。映画のキャンペーン期間のみでしたが、かなりの人たちが訪れてくれました。

ただし、聖地巡礼の場合、ファンの方たちが「あのシーンの場所は、ここに違いない!」と自力で見つける楽しみを奪ってはいけないので、あまり私たちが「この場所が、アニメに出てきますよ」と、あざとく宣伝しすぎないよう、気をつけています。


どのキャラクターを、ご当地グッズにするべきか?


──「ガッチャマン クラウズ」放送時、駅前にフラッグを掲げたそうですが?

岩崎 そうです。いくら「立川をアニメで盛り上げよう」と言っても、観光協会の予算内でできることには、限界があります。そこで駅前商店会に協力してもらって、街路灯にフラッグをかけさせてもらいました。「世界征服~謀略のズヴィズダー」(2014年)の放送時はクリアしおりを作って、ファン向けのイベントを催したり、違う組織同士が持ち回りで協力しあっているんです。

──フラッグやクリアしおりにキャラクターを使う場合、使用料はどうしているのですか?

岩崎 もちろん、グッズを作る場合はロイヤリティをお支払いしています。ただ、フラッグなど「番組の告知」として使わせていただく場合は、地域貢献の一環という意味もありますので、使用料をお許しいただく場合もあります。あくまで、キャラクターをお借りする形ですね。

──立川に聖地巡礼された方が、「とある科学の超電磁砲」のキャラクターでラッピングされた自販機の写真をアップしていましたが……。

岩崎 はい、「とある」シリーズのオリジナルデザイン自販機は立川にしかありませんので、聖地巡礼される方にはよろこんでいただけています。また、アニメの中に出てくる“ヤシの実サイダー”をイメージした「ヤシの実&パインサイダー」は4種類の缶をつくりまして、一時は売り切れてしまうぐらいの反響がありました。


──商品化するキャラクターは、どのように決めているんでしょうか? たとえば、立川サイドから「このキャラをプッシュしましょう」と提案したりしますか?

岩崎 はい、そういうこともあります。アニメを見ていて「サブキャラなんだけど、ひそかに人気がある」と気がついたキャラクターをプッシュして、制作サイドに断られてしまったこともあります(笑)。

──アニメでの地域振興を5年続けてこられて、ちょっと規模も大きくなってきましたね。「たちかわ楽市」というイベントでは、声優さんを呼んでいますよね?

岩崎 はい、アニメによる地域振興は昨年11月で5周年でしたので、ちょっと予算を多くかけまして、声優の阿部敦さんや井口裕香さん、佐藤利奈さんをお招きしました。同時に、立川シネマシティさんで、劇場版アニメをリバイバル上映したりもしました。

──立川シネマシティは、「ガールズ&パンツァー 劇場版」の爆音上映でも有名になりましたね。

岩崎 はい、シネマシティさんは独立系のシネコンですので、ある程度まで自由にプログラムを組めるんです。「ガッチャマン クラウズ インサイト」(2015年)では、第0話と第1話の先行上映会を開催しました。

──すると、「立川を秋葉原のようなアニメの街にしよう」という構想は難しいのでしょうか?

岩崎 ええ、「秋葉原のような街にしたい」という意見もあります。逆に、今のようにアニメばかり押していて大丈夫なのか……という声もあります。駅前の第一デパートさんは、コアなオタク文化の発信地のようなイメージがありました。だけど、アニメイトさんが南口に移転しましたし、街全体が今後どうなっていくかは、ちょっとわかりませんね。

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