【アニメコラム】キーワードで斬る!見るべきアニメ100 第2回 「おそ松さん」ほか
アニメファンの飲み会というのはえてして、大喜利というか連想ゲーム的なものになりがちだ。「○○には××なシーンが出てくるよな」と誰かがひとこと言えば、ほかの誰かが「××なシーンといえば△△を忘れちゃいけない」と返してくる。アニメとアニメはそんなふうに見えない糸で繋がれている。キーワードを手がかりに、「見るべきアニメ」をたどっていこう。
「おそ松さん」が驚くほどの人気である。しかも人気の中心が、松野家の六つ子というのも驚きである。
イマサラではあるけれど「おそ松さん」の基本設定をおさらいしておこう。原作は赤塚不二夫の「おそ松くん」。この時、小学生だった六つ子が成人し、働きもせず、ダラダラとニートとして生活しているというのが「おそ松さん」の設定だ。
「おそ松くん」におけるこの六つ子たちは、そもそも六つ子である(=同じ顔がぞろぞろいる)ぐらいの特徴しか与えられておらず、原作では途中からイヤミやチビ太といった個性的なサブキャラクターがセンターに立つようになっていった。過去2回のアニメ化も、六つ子を主役に立てつつも、イヤミやチビ太が印象に残る作りだった。
ところが今回の「おそ松さん」は、6人に明確な個性を与えたのだ。各キャラクターも「構成要素は同じだが、性格を反映して表情づけが全部異なる」方向でデザインされている。これはコペルニクス的転回であった。
かくして「おそ松さん」は、フラットなキャラクターを与えられた六つ子をメインとするコント番組として再生されたのである。
キャラクターが描き分けられているから、「六つ子の顔が似てて大混乱」ネタは少ない。第2話「就職しよう」と第18話「逆襲のイヤミ」の中でイヤミが兄弟を取り違えるシーンががあるほか、第3話「こぼれ話集」の中の「OSO」というホラー映画「SAW」のパロディっぽいショートギャグの中でそれが描かれている程度だ。特に「OSO」は、視聴者は見分けがついているにもかかわらず、六つ子を拘束した犯人には見分けがつかない、というネタなので、ここでははっきり「六つ子の見分けがつく」ということが前提になっているのである。
ちなみに第18話アバンタイトル「しどう聖澤庄之助さん」では、サブキャラクター聖澤庄之助が実は十七つ子(全部同じ顔)というネタが登場している。「おそ松さん」では「顔が同じ」ってことそのものがもうパロディの対象なのだ。
というわけで今回は、六つ子とかいわゆる多胎児が登場するアニメをたどってみようと思う。とはいっても、双子はいっぱいいても、それ以上というのがなかなか探しても出てこない。
双子といえばやはり筆頭にあがるのは、あだち充の同名マンガをアニメ化した「タッチ」(85)だろう。ゆっくり動くカメラワークなどであだち充特有の「間」を映像に翻訳した演出は、その後のアニメ演出にも影響を与えた1作でもある。この作品は、顔は(おおむね)そっくりだが、いろいろスペックが違う上杉達也と上杉和也の物語。ヒロインの浅倉南を中心においた三角関係を構成することで、双子の兄弟の間の「似ている」と「違う」を浮き上がらせるしかけになっている。映画版1作「背番号のないエース」は原作をアレンジした内容で、突然事故死した弟・和也のかわりに、弟になりすました達也がピッチャーとしてマウンドに登るという展開が描かれている。
ちなみに「タッチ」で杉井ギサブロー総監督の下腕をふるった、ときたひろこ監督は、この後、また双子アニメを手がけている。なかよしの人気マンガ「ミラクル☆ガールズ」(93)がそうで、前半を担当した安濃高志監督から引き継ぐ形で、30話から監督を担当している。こちらは一卵性双生児の女の子、松永ともみと松永みかげが主人公で、2人が揃うと超能力が使えるのがポイント。
このほか「おちゃめなふたごクレア学院物語」(91)や「青の祓魔師(エクソシスト)」(2011)ほか、双子が主役のアニメはちょくちょくある。さらにサブキャラクターまで広げれば、さらに数は増える。
でも、三つ子以上になると途端に減ってしまう。
数少ない例のひとつが「サイボーグ009」の「地下帝国ヨミ編」に登場する五つ子。地下帝国ヨミは巨大な竜ザッタンたちに支配されている。地下帝国の人間プワ・ワーク人は彼らの食糧として生かされている。彼らは食糧なので、増産のため多胎化されており、このエピソードのヒロイン、ヘレンとビーナの姉妹は全員で五つ子という設定になっている。当然、プワ・ワーク人はこのほかの人間もみな多胎児だ。このエピソードは、石ノ森タッチを再現し、原作の各エピソードをていねいにアニメ化したシリーズ「サイボーグ009 THE CYBORG SOLDIER」(2001)でアニメ化されている。
もうひとつは「超時空騎団サザンクロス」(84)に出てくる異星人ゾル人。「マクロス」「オーガス」に続く「超時空シリーズ」3作目となる本作は、男性向け作品に女性主人公を置いた作品の嚆矢でもあった。打ち切りということもあり、いろいろ物足りないシリーズではあるが、敵の異星人であるゾル人の設定はかなり凝っていた。
ゾル人は全員が一卵性の三つ子で、普段は一定の自由意志を持っているものの、社会生活における重要な意志決定の場合には、3人がそれぞれ情報・判断・行動を分担して行うというのだ。この三つ子で社会が構成されるのは、背景にエネルギーリソースが限られている社会状況があり、効率的に集団を運営する必然から生まれたとされている。このあたりの設定は、SF的なアプローチで、「人間性とは何か」に迫る要素があったので、このあたりがもっと深掘りされていれば……、と思わないでもない。なお、このゾル人の少女ムジカ役で声優でデビューしたのが、後の「タッチ」で浅倉南を演じる日髙のり子なのであった。
双子以上の多胎児という設定は、ギャグよりもSFのほうがうまく生かせるアイデアなのかもしれない。(文/藤津亮太)
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