「『おそ松さん』ファンに言いたい。こっちのほうがもっとひどいぞ!」アニメ「おそ松さん」も手がける松原秀&お笑い芸人・おおかわらが語る、映画「珍遊記」脚本化裏話
伝説のギャグ漫画、漫☆画太郎の「珍遊記~太郎とゆかいな仲間たち~」。1990年より週刊少年ジャンプで連載が開始され、単行本はシリーズで累計400万部を売り上げた恐るべきギャグ漫画である。主人公は、妖力を操る巨大で凶暴な少年・山田太郎。僧の玄奘が法力で太郎の妖力を抑えるも、連れ出した先々で暴れ回る。漫☆画太郎のギャグは力技ともいえるタッチと、下品を絵に描いたようなエログロナンセンスが特長。実写化は難しいとされ、これまで何度も実写化の話が出ては流れていた。
しかしこれまで「地獄甲子園」「漫☆画太郎SHOW ババアゾーン(他)」を実写映画化した映画監督・山口雄大が、映画「珍遊記」のメガホンを取ることが決まり、いよいよ「珍遊記」実写映画化が現実のものとなる。脚本を書いたお笑いトリオ「鬼ヶ島」のおおかわら、放送作家で現在アニメ「おそ松さん」のシリーズ構成・脚本も務める松原秀のお2人に、伝説のギャグ漫画の脚本化にまつわる苦労と楽しさを語ってもらった。
──おふたりが映画「珍遊記」の脚本を書くことになったのは、どういう経緯だったんですか?
松原 山口雄大監督とは家が近所で、数年前からよく飲んでたんです。あるとき「映画やる? 『珍遊記』の実写映画なんだけど」と言われて、「はあ!?」と(笑)。でも山口監督は脚本をチームで書くんだろうと思ったので、ちょっと気楽な部分もあって。脚本を担当するというよりは、参加するという感覚でオファーを受けました。監督が「脚本にもう1人誰かいないかな」と言うので、そのとき僕が構成に入っていた鬼ヶ島のライブに「絶対好きですから」と誘ったんです。
──山口監督の反応はどうでしたか。
松原 1本のコントに惚れこんでました。ライブ終わりに「あのコントがすごかった。書いた人を脚本チームに入れたいから紹介してよ」って熱弁されて、それでおおかわらさんが入ることになったんです。
おおかわら そのライブで僕は初めて山口監督と会ったんです。僕は映画の脚本というお話を聞いて、まずびっくりしましたけどね。
松原 2、3週間ぐらいびっくりしてましたよね(笑)。
おおかわら この監督、頭おかしいのかなって(笑)。何本も映画を撮られているような監督が、映画の脚本なんて書いたこともないお笑い芸人に脚本をやらせようとする、その動きに驚いたし、正直感動しました。でも「あのコントを見ておおかわらくんだって思ったんだよ」って監督が言ってたそのコント、バッキバキに滑ってたんですけどね!
松原 そうそう(笑)。
おおかわら でもそのコントは僕も書いてて一番好きなやつだったので、褒めてもらってうれしかったんですよね。僕は松ちゃん(松原)と10年ぐらいの付き合いで、ライブの構成作家に入ってもらったりもしていたので、松ちゃんの言うことなら大丈夫だろうと信じていました。
──原作「珍遊記~太郎とゆかいな仲間たち~」を映画の脚本にするにあたって、最初に苦労したところはどこですか。
松原 ありすぎます。全部です(笑)。
おおかわら 子供の時に原作を読んでいたし、すごくリスペクトしている作品なんです。それまでの漫画の概念を覆した漫画ですよね。でも「珍遊記」って、漫画だったから面白かったんだと思う。だから映画であの面白さを出すのは、絶対に無理。違うベクトルで面白くしましょうよって3人で話し合いました。
松原 書くにあたって原作を読み返したら、ただ笑って本を閉じちゃったんですよ(笑)。「あー、面白かった……って、これを映像に!?」って。ストーリーはわりとシンプルなので、そんなに激しく展開するわけでもないんですけどね。
おおかわら 最初のインパクトが強すぎるのと、あとはほとんど酒場で戦ってるシーンだしね。
松原 どこまで原作から拾って、どこをあきらめるかというバランスが難しかったので、山口監督と3人で細かく話し合いながら進めていきましたね。
──おおかわらさんと松原さんはそれぞれどのような部分を担当されたんですか。
おおかわら まず僕が最初にバーッと書いたんです。それに対して細かいところを松ちゃんが調整して、形にしてくれたって感じですね。
松原 おおかわらさんは普段コントを書いているので、書くのは基本セリフだけなんです。台本で言うト書きの要素って、コントだと相方と稽古で共有すればいいものなので。ダイアログ(対話)が面白いっていうのが、おおかわらさんの書いてきたものを読んだとき「すげえな」って思ったところでした。
おおかわら あれを1人でやるとなるとゾッとするよね。
松原 2人でやれて本当によかったですよね。
──キャスティングは脚本にどんな影響を与えたんでしょう。
松原 原作の山田太郎って絵的にインパクトがあるし、大声が面白かったりするので、実写になったときにどうキャラクター性を表したらいいんだろうっていうのが、実はハードルだったんです。太郎ってただ悪いヤツというわけではなく、意外と男気を見せることもあるので。だけど松山ケンイチさんと聞いて「キャラが立つ。これなら大丈夫だ」って、正直ホッとしましたね。
おおかわら 原作でも、太郎って人格や感情が見えないからね。でも原作モノだからあまり太郎はいじりたくなかった。その分、龍翔(溝端淳平)は映画オリジナルのキャラクターなので感情をつけるのが楽しくなっちゃいましたけど。太郎のキャラクター性は、松山さんにお任せしちゃってる部分が大きいです。
松原 玄奘ってお坊さんだけどセリフがけっこうドギツイので、最初から3人で「女性がいいね」って話してました。女性が言うことでギャップが出て、セリフが際立つ気がしたんですが、倉科カナさんのおかげで最高なものになりました(笑)。龍翔の側近役でおおかわらさんも出演してますけど、相方のアイアム野田さんがもっとおいしいたけし役で出てるのってどうなんですか。
おおかわら たけしはまさに野田のためにあるような役なので。普段のコントでもほぼああいうキャラクターなので、ぴったりだなぁと思いましたね。今野浩喜さんも、今野さんにしかできない役で出てる。このあたりはほぼ当て書きで書きました。やりやすい人たちです。
──笑いをお仕事にされてるお2人ですが、笑いを映画にすることに、どんな面白さや難しさを感じましたか。
おおかわら 僕が今回感じたのは、プロの役者さんってお芝居がすごくていねいだなってこと。そこがお笑いの演技とは一番違う。芸人って、もっとさらっとやるんですよ。役者さんはやっぱりお芝居の基礎レベルが高いので、今後またこういう脚本を書く機会があるとしたら、役者さんがやるということを考えて書くかもしれないなって思いました。
松原 役者さんがやると生々しさが出るし難しいよなとか、感情のラインを守るとギャグが弱くなるしなとか、僕もかつてはいろいろ考えましたけど、今はもうそういうことを考えるのはやめました(笑)。最終判断は監督に任せてます。映画脚本家1年生の僕があれこれ考えても仕方ないですから。
──松原さんが脚本を書かれている人気アニメ「おそ松さん」も、全編に渡ってギャグだらけですよね。TVアニメと実写映画、どんな違いを感じましたか。
松原 実写映画は幅があるなと思いました。どんどん跳ねていく可能性があるというんですかね。現場のノリ、演者さんの言い方、メイク、面白そうならとりあえず撮っておいたり。アニメはそれができないですから。もちろんアニメならではのメリットもありますけどね。
──「おそ松さん」を見たうえで映画の「珍遊記」を見ると、松原さんの上限ってまだまだあるんだなって思いました。
松原 「おそ松さん」ファンの方で、「珍遊記」を見にいらっしゃる方もいると思うんですが、「ギャグモノの実写化って、アニメ化よりもさらにひどさを増すからどうぞお楽しみに」と言いたいです(笑)。「おそ松さん」の絵のかわいさが好きっていう方は、「珍遊記」はくれぐれも慎重に見てほしいです。普段から「『おそ松さん』ってひどいな」って思ってる人は、ぜひ「珍遊記」も見てほしい。腹は満たせる気がします。
──漫☆画太郎先生ファン、松山ケンイチさんファン、「おそ松さん」ファンなど、あらゆる人たちが注目している映画ということですね。
松原 やっている事は刺激が強い事ばかりなのに、オール層が気軽に楽しめるエンタメにうまく着地できました。ここは自信アリです。それって一番面白いパターンだと思うので是非!
おおかわら 人間関係で疲れたときとか、頭がからっぽになる映画が見たいときってあるじゃないですか。「珍遊記」はまさにそんな映画。ポップコーンをムシャムシャ食べながら、思いきり笑ってくれれば充分です!
プロフィール
■おおかわら/1977年5月31日生まれ、埼玉県出身。お笑いトリオ「鬼ヶ島」のリーダー。プロダクション人力舎のスクールJCA7期生を経て、04年にアイアム野田、和田貴志と鬼ヶ島を結成。キングオブコント2011で初の決勝進出。キングオブコント2013では、2位に輝く。
■まつばらしゅう/1981年8月27日生まれ、滋賀県出身。放送作家、脚本家。「ナインティナインのオールナイトニッポン」ハガキ職人から放送作家となる。バラエティ番組「エンタの神様」にて、アンジャッシュ、東京03などのネタを多数手がけた。また、ドラマ「主演さまぁ~ず」「NMB48 げいにん!」やアニメ「銀魂°」「おそ松さん」のシリーズ構成・脚本も担当している。
作品情報
珍遊記
2/27(土)より、新宿バルト9他にて全国ロードショー!
キャスト:松山ケンイチ、倉科カナ、溝端淳平、田山涼成、笹野高史、温水洋一、ピエール瀧
監督・編集:山口雄大
原作:漫☆画太郎「珍遊記~太郎とゆかいな仲間たち~」(集英社刊)
脚本:おおかわら/松原秀、企画・総合プロデューサー:紙谷零、撮影:福本淳、照明:市川徳充、録音:西條博介、美術:福田宣、音楽:森野宣彦
(C) 漫☆画太郎/集英社・「珍遊記」製作委員会
(取材・文:大曲智子)
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