【犬も歩けばアニメに当たる。第15回】好きなことにひたむきに挑め! 明日を信じて自分をみがく「アイカツ!」

心がワクワクするアニメ、明日元気になれるアニメ、ずっと好きと思えるアニメに、もっともっと出会いたい! 新作・長期人気作を問わず、その時々に話題のあるアニメを紹介していきます。

女児向けのアイドルアニメ「アイカツ!」は、現在4thシーズンが放送中。新シリーズ「アイカツスターズ!」の4月スタートが発表され、現シリーズは3月で終了することが明らかになりました。クライマックスを前に、3年半にわたり放送されたこの作品を振り返ります。


中学生が主人公の「お仕事」アニメ


「好きなことを仕事にする」というのは、どうやら昨今注目されているキーワードのようだ。世の中には、当然のように自分の好きなことを仕事に選ぶ人と、仕事は仕事として好きなこととは別に選ぶ人とがいる。イヤなことを我慢しながら仕事をしている人にとって、「好きなことを仕事に」という言葉は、とても魅惑的な響きを持つ。「自分もそうできたら」「いやいや、そんなに世の中甘くない」と、心が揺れるだろう。

アイドルアニメ「アイカツ!」は、「好きなことを仕事にした」女の子が、仕事で自己実現しようと、アイドル活動(=アイカツ)に全力をつくす、学園業界スポ根アニメである。

舞台は、アイドル学校・スターライト学園だ。主人公は中等部に在籍する現役アイドル。彼らは、学校でアイドルになるためのレッスンに励み、自分の魅力を自ら開発して、「アイドル」として成長していく。テレビ番組やCM、雑誌づくりの業界裏話も語られる。いわば、中学生が主人公だが「お仕事アニメ」でもあるのだ。

大人でも「アイカツ!」を見ていると、「仕事とは何ぞや?」「自分はここまで仕事に全力投球しているか?」「自分らしく輝くって何だろう?」と、思わず我が身をふりかえるだろう。そして時には、ひたむきにアイカツに励むアイドルたちの姿に胸が熱くなり、「自分もがんばろう」と元気をもらうことになる。

作品のキーワードのひとつが「セルフプロデュース」だ。「アイカツ!」のアイドルたちに、マネージャーはいない。所属事務所ともいうべき「スターライト学園」では、仕事のオファーを取り次ぎはするが、生徒たちに「こうしなさい」という指示や強制はしない。アイドルたちは、1人ひとりが自分を磨き、なりたい自分の姿を描き、そのための努力目標を自分で組んで、成長していく。

これはかなり高度な目標だといえないだろうか? 言われたことをやるだけではダメだし、他人のマネをするだけでもダメなのだ。先輩のトップアイドルに憧れることはあっても、同じことをすれば追いつけるわけではない。

トップアイドルになるための方法は、10人いれば10人全員が異なる、ということを全員が理解している。そして誰もがとてもひたむきで、一生懸命だ。


型破りで天然な天才・いちごと、努力家のひたむきな秀才・あかり


これまで放送されたシーズンは大きく分けて、星宮いちごが主人公の前半(1stシーズン、2ndシーズン)と、大空あかりが主人公の後半(3rdシーズン、4thシーズン)に分かれる。また、星宮いちごStoryのラストエピソードとして、「劇場版アイカツ!」(2014年公開)が制作された。

「アイカツ!」という作品の方向性を大きく決めたのは、初代主人公の星宮いちごといえる。いちごは元気で前向き、メゲない天然娘。弁当屋の娘で、いちごパフェが好物だ。実は、母親も元伝説的アイドルだったことが途中で明らかになる。

ドレスのデザイナーに会うために崖を上ったり、クリスマスツリーにするために巨樹を斧で伐採する、といった活躍も見せる。それは本当に、アイドルに必要な試練なのか!? この奇妙さ、おかしみが、単なるかわいい女の子たちの話に終わらない、「アイカツ!」のスパイスになった。ちなみにこのいちごを「やっぱりいちごだね」と笑って受け入れる仲間たちも、かなりの大物だ。

1stシーズンで忘れがたいのが、最後のエピソードとなった第50話「思い出は未来のなかに」。スターライトクイーンカップで憧れの神崎美月と勝負したいちごが、スターライト学園を離れ、アメリカへの1年間の留学に旅立つ。そこにエンディングテーマ「カレンダーガール」が流れる。普通の毎日こそが、かけがえのない宝物……という歌詞が、旅立ちと別れにあたって深い意味合いを持ち、視聴者を泣かせた伝説回となった。

二代目主人公の大空あかりは、いちごの3学年下の後輩として登場した。オーディションでいちごに才能を見いだされた新人として登場したのだが、最初は歌もダンスもダメな落ちこぼれで、アイドルなら必ず出せる「スペシャルアピール」(ステージ上で出す技のようなもの)が出せず、夏休み中に居残り特訓をするハメになった。

基本的に「アイカツ!」は、「辛い」「自己嫌悪」「涙」といった負の感情を描かないが、このときのあかりの落ち込みは、見ていてかわいそうだった。「自分には必要な力がない」「才能がないのかも」という現実を前に、あかりは涙を流す。何でもやればできてきたいちごは、やってもやってもできないあかりに、何を言うことができるのか? いつも明るく展開する作品なだけに、このときは緊張感があった。

この第97話「秘密の手紙と見えない星」は、シリーズ構成の加藤陽一が手がける、かなり作品のテーマにせまった内容になっている。

自分なりの小さな光を見失いそうになった時、どう考えればいい?

頑張っても頑張っても結果が出ないときは、どうすればいい?

自分とは違う状況で頑張る相手の気持ちに寄り添うために、何ができる?

応援し、力づけるとは、どういうこと?

シビアな現実を前に、発される言葉、通う気持ちの1つひとつに、自分がつらかったときのことを思い出したりして、思わず胸を熱くさせられた。

「アイドルはいかに生きるべきか」というのも、通奏低音のように流れるこの作品のひとつのテーマだ。元アイドルのスターライト学園の光石織姫学園長や、いちごの母親。そしてトップアイドルとして長く君臨する神崎美月の言動を見ていると、トップにのぼりつめたアイドルが、次に考えることや、アイドルをやめた先にある人生にまでも思いが及ぶ。

また、学園の中で先輩から後輩にわたされるバトン、つながる思いも、何度もいろんなエピソードで描かれた。神崎美月に憧れた星宮いちごが、スターライト学園転入から、トップアイドルにまでのぼりつめ、いちごに憧れてアイドルになったあかりが、またトップへの階段を上る。

誰と競い合うのでもなく、一途に自分を高めることでトップに近づく。けれどその道は孤独ではない。アイカツに励むアイドルは、皆ライバルであると同時に仲間でもある。1人ひとりが自立し、前を向いて進んでいるからこそ、仲間でいられる。

自分を研ぎ澄ましていくいちごやあかりたちからは、現実の自分の力にもなるいい言葉を、たくさんもらうことができた。それがこの作品が、小さな女の子たちのみならず、オトナも引きつけた一因といえるだろう。


見る人を明るく元気にしてくれた作品。3年半に「ありがとう」


シリーズ構成の加藤陽一のインタビューによれば、この作品のコンセプトは、東日本大震災を転機として生まれたそうだ。「皆で一緒に笑いながら、身近な幸せを改めて感じ、明日を信じる力、未来への夢を持てる作品」が、これからは必要とされると、リアルタイムでニュースを見聞きしながら感じたという。

また、木村隆一監督は、「悪人がいない世界で、善人がくりひろげるコメディをやりたいと思った」と語っている。(いずれも学研パブリッシング「アイカツ! オフィシャルコンプリートブック」より)

セルフプロデュースとは、自分の身ひとつを頼りに、個性を磨きあげ、世間に打って出るということだ。もちろん、アイドルとしてのルックスが必要なことはいうまでもない。でも、劇中で容姿が賞賛されたり、それで優劣がつくことはない。

勝敗も、アイドルの評価を決める決定的な要素にはなりえない。ドラマを盛り上げる構造としてステージ勝負のイベントはあるが、勝者に栄誉があるのみで、敗北は決して恥でも挫折でもない。順位はつくけれど、それはひとつの通過点に過ぎず、アイドルは淡々と自己鍛錬を続けていくだけだ。

よそ見はしない。毎日、やるべきことをつづけて、たゆまず進化していくのみ。まるで、一流のアスリートの世界だ。

そうやって、勝敗が必ずしも物語のハッピーエンドではなかった「アイカツ!」で、今、4thシーズンのクライマックスは「スターライトクイーンカップ」争いになっている。

スターライトクイーンというのは、スターライト学園中等部のトップを決めるイベントで、トップをとったアイドルは「スターライトクイーン」の称号を手に入れ、全国のトップアイドルの仲間入りをすることになる。これまで、自分を磨き抜いた、アイドルの中のアイドルが手にしてきた称号だが、初代主人公のいちごは、神崎美月にやぶれ、手にすることはなかった。

その称号に、二代目主人公のあかりが今、挑もうとしている。

勝ち負けがすべてではないが、やはり勝ってほしい。しかし、氷上スミレを始めとする仲間たちも、それぞれに真摯な気持ちで自分の最高のパフォーマンスをしようとしているから、彼女たちにも勝ってほしい。まるで、オリンピックのメダル争いを見ているような気持ちになる。

3年半つむがれてきた、あたたかで前向きな世界は、どんなクライマックスを迎えようとしているのだろうか?

劇中のアイカツ(=アイドル活動)は、仕事であると同時に、生きていく姿勢とも同義だった、と思う。

──自分の良さを生かし、魅力を磨いて、好きなことに素直に、そして真摯に取り組めば、誰もがオリジナルの光で輝くことができる。小さい光でも、自分らしく輝こう。そして、他の人を照らそう。──

何度も劇中で伝えられてきたそのメッセージが、どんな形のエンディングになるのか。なじんだ登場人物たちとのあと少しの時間を楽しみながら、見届けたい。

(文・やまゆー)

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