【懐かしアニメ回顧録第16回】なぜ、「ゼーガペイン」は第6話からが面白いのか? ボイスオーバーによる異化効果
新海誠監督の自主制作アニメ「彼女と彼女の猫」が、テレビアニメシリーズとしてリメイクされた。主演声優は、花澤香菜と浅沼晋太郎。まだ新人だった2人が競演した初の作品が、ロボットアニメ「ゼーガペイン」(以下「ゼーガ」)である。
放送当時、花澤の初々しい演技は「良い棒(棒読み演技に聞こえるが、そこが良い)」と評された。あれから10年。いまだ隠れた名作と呼ばれる「ゼーガ」の魅力をプレイバックしてみよう。
「日常すべてがデータによる幻」という難解な設定
まず、全26話の「ゼーガペイン」の基本設定を、おさらいしておこう。
ソゴル・キョウは千葉県舞浜市に暮らす高校生だが、謎の転校生ミサキ・シズノに導かれ、荒廃した都市で巨大ロボット兵器“ゼーガペイン”に乗って戦うよう、うながされる。キョウは“ゼーガペイン”の存在する無人の都市を、ゲーム内の架空世界だと信じ込む。
だが、実はキョウが高校生活を送る舞浜市のほうが“舞浜サーバー”内に再現された仮想都市で、キョウも幼なじみのカミナギ・リョーコも“幻体”と呼ばれるデータ人格記憶体にすぎないことが明らかとなる。実際の世界では、謎の敵“ガルズオルム”によって人類は滅ぼされ、一部の“幻体”だけがゼーガペインなど物理的に存在する兵器を使って、ガルズオルムに勝ち目のない戦いをいどんでいる――つまり、見なれた日常生活は小さなサーバー内に再現された、仮想現実でしかない。もし敵にサーバーを破壊されれば、キョウの過ごす仮想の日常は、データごと永遠に失われてしまうのである。
このような倒錯した世界設定を、数話をかけて視聴者に理解させるシリーズ構成となっているため、ファンの間では“「ゼーガ」は第6話”“第6話までは我慢”と、自嘲気味に言われることがある。第6話で、ようやく“幻体”という言葉が明示され、キョウは悲痛な面持ちで自分の存在がデータに過ぎないことを受け入れる。では、「ゼーガ」の第6話がなぜ面白いのか、その理由を探ってみよう。
絵とセリフをズラして、キャラの内面に踏みこむ
第6話「幻体」は、ガルズオルムの戦士を相手に、キョウとシズノの乗ったゼーガペインが敗れるシーンから始まる。そのシーンの最後、キョウはシズノの体と自分の腕が、粒子状に消え去っていくのを目の当たりにして、ショックのあまり気絶してしまう。
舞浜サーバー内の自分のマンションで目覚めたキョウは、現実感を取り戻そうと、夜の舞浜の街へ出る。だが、キョウたちの戦いをサポートする女性型AIが現れ、「すべて作り物なんです。街だけでなく、人も」と、キョウの置かれた現状を説明する。だが、キョウは納得しない。ここまでが、Aパート。
さて、Bパートは翌朝、キョウがマンションを出て、学校へ向かうシーンから始まる。
ガムテープの貼られたマンションの郵便受け、母親がキョウに残した「今日は遅くなります 夕食はレンジでチン」のメモ――が、広角レンズで映される。その映像へ、昨夜の女性型AIたちの説明がボイスオーバー(画面外のセリフ)で重なる。マンションに空き室が多いのは、現在のキョウのように“本当の世界”で戦った者たちが大勢いた証であり、母親がメモだけ残してキョウの前に姿を見せないのは、サーバー内なら姿を見せなくてもキョウの生活に支障がないからだ。「幽霊、幻、つくりもの……」と、いつもの教室の風景に、キョウのモノローグが重なる。つまり、キョウの見ている“日常”を絵で見せると同時に、セリフでは目に見える“日常”がデータに過ぎないことを強調している――絵とセリフを、わざとズラすことで、視聴者を不安に追いこむのだ。
その日の夕方、キョウは、幼なじみのリョーコと散歩に出る。リョーコは、コンビニでキャンディを買うが、店員がいないので、レジに小銭を置く。そのシーンに、やはり昨夜のAIの声が、ボイスオーバーで重なる。「あなたは、必要としてないから見えないんです。必要としている人には、店員も客も存在する」。そのセリフは、キョウの回想なので、エコーがかかっている。そして、リョーコがレジに小銭を置くカットは、魚眼レンズでゆがめられたような、異様なパースがかかっている。
見なれた風景に違和感をおぼえさせる演出を、演劇用語で“異化効果”という。第6話Bパートは、異化効果の積み重ねで、それまで小出しにされていた「サーバー内の幻の日常」という難解な世界設定に、しっかりとていねいに実感を与えていく。だから、「ゼーガ」第6話は面白いのだ。ボイスオーバーと生(なま)のセリフの使い分け
第6話のクライマックスは、日常が「幻でも作りもんでも幽霊でもない」ことを確かめようと行動するキョウと、シズノの会話によって幕を閉じる。シズノはキョウの前に立ち、「私たちは機械の中の幻の街で暮らす、滅亡した人類の記憶なのよ!」と、怒ったように言いすてる。それまでの説明が茫洋としたボイスオーバーだったからこそ、最後のシズノの生(なま)のセリフに、ただごとでない切迫感が加わるのだ。
現実も幻も、すべてをセルで均一に描かなくてはならないため、「ゼーガペイン」は苦労を強いられた。精一杯の知恵をこらした演出、じっくりと味わっていただきたい。
(文/廣田恵介)
(C) サンライズ・プロジェクトゼーガ
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