「アクティヴレイド -機動強襲室第八係-」特集 スタッフ連続インタビュー 第3回 音楽・中川幸太郎氏

ほとんどの谷口悟朗作品で音楽を担当する中川幸太郎。彼の特徴的なブラスサウンドは谷口作品の数々の名シーンとともに視聴者の脳裏に刻み込まれていることだろう。「アクティヴレイド -機動強襲室第八係-」のサウンドトラックはそんな中川の得意とするところが存分に発揮された作品に仕上がった。彼自身をして「最高傑作」と言わしめたこの音楽は、魂を揺さぶる作品に対するイマジネーションが生み出したものだ。まずはその原点となる、中川の音楽家としての生い立ちから語ってもらった。


音楽の英才教育から生まれた自信と葛藤


──谷口悟朗(総)監督作品ではほとんどの作品に登板されている中川さんですが、初コンビを組まれた「スクライド」のサウンドトラックのブックレットにはご自身のコメントとして、「(ジャズは得意なジャンルだが)意外と書くチャンスがなく、この仕事まで温めていたアイデアをドーン!と大放出することができました」と書かれていました。まず、この時のお話から聞かせていただけますか?

中川幸太郎(以下、中川) 谷口さんは音楽を発注する時に、こういうシーンで使いたいというお話はされるのですが、具体的なことはあまりおっしゃらないんですよ。「スクライド」のときもジャズをやってくれという話をされたのではなく、ラテン音楽を根底にして、というお話でした。ラテンとジャズは音楽的に隣り合わせなところがあるし、土臭い感じとか男臭い感じの作品であればジャズっぽいものが合うんじゃないかということで、それでいきましょうという話になったんです。

──中川さんはジャズ一家に育ったんですよね。(注:父はトランペット奏者の中川喜弘氏、弟はトロンボーン奏者の中川英二郎氏)

中川 ええ、父は古いジャズをやる人なんですよ。なので、小さい頃からそうした音楽に触れ合う機会は多かったですね。父は早いうちから息子もミュージシャンにしたかったようで、小さい頃からものすごく音楽について厳しく育てられたので、僕は逆に音楽が嫌いになってしまったんです。それでも絶対音感はついていて、音楽の素養だけはあって。それで大学に入る頃になったら、このままで終わるのは嫌だという変な負けん気が出てきて、じゃあ一生懸命勉強してみようかと。ただピアノ科とか楽器を練習するのはもう嫌だったから、消去法で作曲科にというわけです(笑)。それでも将来作曲家になろうという気はまったくなかったんです。その頃、平行してアニメやマンガとか映画がすごく好きで、いつかそっちでやればいいやぐらいの感じでした。

──子供の頃から音楽の耳を養われていた中川さんは、アニメをご覧になっていても友達と見方が違うといったことを実感されたことはありましたか?

中川 ありました。その意味で話が合う友達は僕の周りにはいなかったですね。もしかしたら僕の見方が違っていたのかなと。「マジンガーZ」を見た時も「このティンパニのリズムが悪いのに何でOKしているんだよ!」とか思っていたりして(笑)。大人になって当時の録音の仕方を知ると、しょうがなかったんだなとわかるんですけどね。見ていた作品は「宇宙戦艦ヤマト」や「銀河鉄道999」、「機動戦士ガンダム」と王道でしたよ(笑)。


──後から考えてみると音楽の素養とアニメを趣味にしていたという点で、現在の職業とのすばらしい合致が見られますが。

中川 当時はまったくそんな意識はなかったんですけどね。まさか作る人間になるとはね。ただ、好きだったしこっちならやれるかもという感じだったんです。

──そして、東京藝術大学作曲科の在学中から、もうすでに音楽のお仕事をされていますよね。

中川 ええ。ただ先ほどのブックレットで書いたように、仕事としてジャズを求められることはあまりなかったんです。ディズニーとか宝塚とかショーの音楽ぐらい。でもいつかはアニメでジャズを試したいなという思いは持ち続けていました。

──そして「スクライド」で、念願のジャズによるアニメ劇伴で実現されたわけですね。先ほどの具体的な指示というものが監督からない中で、どのように作られていったのでしょうか?

中川 僕の場合、「ここはどういうシーンなのかな?」とか、「彼らがどんなことをしゃべっているのかな?」といったことを考えると、そこにふさわしい音楽が聴こえてくるんです。逆に「さぁ音楽を作るぞ!」という感じになると何も進まないんですね。これはどの作品でもそうです。その意味で谷口さんのメニューの出し方はやりやすいと思います。

──今回の「アクティヴレイド」の場合ですと、楽曲メニューのオーダーとして印象的だったことは何ですか?

中川 話の流れになっているのが面白かったですね。つまり、事件→発進→装着→交渉……と進んでいって、最後は飲み会をするところまで作っていくという(笑)。あと、谷口さんがイベントで「あまり考えないで見てほしい」とおっしゃっているので、今までと違うものを作りたいのかなとは感じました。もちろん僕に頼んでくれていることについては裏切れないですが、僕も常に違う自分の一面を見せたいという思いで作っているし、何とか違うものをお聞かせしたいというあたりを一番意識していましたね。それでやりたいことをやったら新しい一面も出てくるんじゃないかなと。今回、とにかくツカミがある曲を作ろうと思って、イントロが長めの曲を多く作りました。この曲も本メロディまで30秒くらいあったりするんです。谷口さんも、始まった時にパッとこの曲だとわかりたいみたいなことをおっしゃっていたような気がします。


──「アクティヴレイド」の作品のなかで最初に着目したのはどんな部分でしたか?

中川 警察モノということはあまり意識にはなかったかな……。キャラクターたちも明るい表情をしているし、仲間が力を合わせるチームプレーみたいなのが最初のイメージでしたね。

──今回、キャラクター別のテーマ曲というのも用意されていませんし。

中川 そうなんです。こういうのだと大体、誰々のテーマみたいなのがあるんですけど、谷口さんも今回はそういうことをしませんとおっしゃっていて。なので、外から応援する時の気分を増幅するような音楽の作り方をしていますね。

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