アニメ業界ウォッチング第19回:ガンダムからジブリ作品まで、声優の演技を裏で支える音響監督、木村絵理子インタビュー!

「崖の上のポニョ」「風立ちぬ」などの宮崎駿監督作品から、「機動戦士ガンダムUC」、現在配信中の「機動戦士ガンダム サンダーボルト」、はたまた「TIGER&BUNNY」や「ピンポン」などの個性的なテレビアニメを“音響監督(録音演出)”という立場から支えるベテラン、木村絵理子さん。

他のアニメの芝居と“ひと味ちがう”テイストは、いかにして生み出されるのか? 木村さんが演出部長をつとめる東北新社外画制作事業部にて、お話をうかがった。


「アニメ声優」と「実写俳優」の区別は必要なし?


──木村さんは外画(海外の映画)吹き替えの演出がご専門ですが、アニメに関わるようになったキッカケは?

木村 今から10年ほど前、初めてアニメの仕事をいただきました。「外画の吹き替えをやっている人に、音響監督をやってもらいたい」と誘われて、「焼きたて!! ジャぱん」(2004年)に参加しました。お話をくださったサンライズの富岡秀行プロデューサーは「アニメ未経験でもいいじゃないですか」と、面白がってくれる方だったんです。アニメの世界は右も左もわからなかったので、選曲さん、効果さん、ミキサーさんに手とり足とり教えてもらいながら、何とかやった感じでした。キャスティング、収録、ダビングの流れは、外画の音響演出と通ずるものがありますが、私には音楽のセンスがないので、選曲の方には必ずついてもらっています。

──それ以外は、外画吹き替えと同じように、声優さんへの演技指導が主ですか?

木村 そうなんですけど、私は「アニメだからこうしよう」「外画だからこうすべき」とはあまり考えません。「この作品は、こうアプローチしたら面白い」と、作品単位で考えます。

──「崖の上のポニョ」(2008年)以降、「借りぐらしのアリエッティ」(2010年)など、スタジオジブリ作品を何本か担当されていますが、ジブリ作品の場合、実写の俳優さんが主役に起用されることが多いですよね。

木村 私は、声優さんと実写の俳優さんとを、あまり分けて考えていないんです。「思い出のマーニー」(2014年)は、女優の高月彩良さんと有村架純さんが主演でしたが、声優さんも、オーディションにお呼びしました。

──「風立ちぬ」(2013年)の庵野秀明さんは、宮崎駿監督が決めたようですか?

木村 監督のイメージに合う声を探しつづけて、ボイスサンプルを集めていました。結果的に「庵野さんの声がピッタリだったんだ」と、宮崎監督が気づいたわけですね。もし庵野さんのタイプの声を探そうと思ったら、プロの役者さんの中から見つけ出すのは難しかったでしょう。



富野監督と宮崎監督、2人の監督に触れて


──「ピンポン THE ANIMATION」(2014年)で、ペコを演じた片山福十郎さんは、アニメ声優ではないんですよね?

木村 はい、歌舞伎の演奏者さんであり、役者さんでもあります。

──そういう方をキャスティングすることは、珍しいのではないかと思うのですが?

木村 はい、まず監督がどういう方向性でキャスティングしたいのか、要望を聞きます。そのうえでオーディションに候補者をお呼びするのですが、前から声が気になっていた片山福十郎くんに「ピンポン」のオーディションへ来てもらったら、ペコにバッチリはまったという感じでした。

──「いま、アニメファンの間では、この声優さんが人気だから」ということは意識しませんか?

木村 その声優さんが、キャラクターにマッチしそうだったら、もちろんキャストの候補に入れますし、その声優さんに合わせたスケジュールを考えるでしょう。監督さんや作品に関わっている人たちによって条件は変わりますけれど、役のイメージを主体に考えるところから、まずは始めます。

──アニメの声優さんと「アフレコは初めて」という俳優さんとでは、やはり違うものですか?

木村 演技の方向性、声の出し方、いろいろな部分が違うと思います。だけど、私の担当したアニメは偏っていて、女の子がいっぱい出てくるアニメには、あまり関わったことがありません。外画でも同じで、“男祭”というかハードな作品が多いんです。「シルミド/SILMIDO」(2004年)ですとか、男くさい映画のほうが向いているんですね、きっと。なので、かわいい女の子たちのほのぼのとしたアニメの依頼が、まったく来ない(笑)。「TIGER&BUNNY」(2011年)も「外画っぽい雰囲気で」という監督の要望がありましたので、私に発注する側も、どんな作品が向いているのか、わかってらっしゃるのだと思います。

普段からボイスサンプルや番組などで、気になった役者さんの名前はメモしています。自分にいただいた作品のキャラクターとその声優さんがマッチすると思えた時には、アニメでも外画でもこだわらずキャスティングさせてもらってます。


──もうひとつ、木村さんのキャリアの中では「ガンダム」シリーズも欠かせません。「機動戦士ガンダム サンダーボルト」(2015年)では、中村悠一さんと木村良平さんが主演ですね。

木村 松尾衡監督は音響演出もされる方なので、声のイメージは、ハッキリしていました。「サンダーボルト」はジャズがBGMで、絵柄も大人っぽいんですよね。そして、作品のテーマも重厚です。それを考えると、酸いも甘いも知ってる大人でないと演じ切れないように思いました。

──「機動戦士ガンダムUC」(2010年)では、内山昂輝さんが主演ですが?

木村 内山くんは、子役として活動しているころから知っていました。「UC」のオーディションの最終日に「誰か忘れているような気がする……」と、何年か会っていなかった内山くんのことを、はたと思い出したんです。バナージを演じる、ちょうど良い年頃になってるわ、と。その日の朝、劇団に電話して、その日の夜、最後の最後に間に合いました。内山くんは「ガンダム」の前知識はあまりなかったようですが、そのまま自然体でフッと演じた感じが、バナージのイメージにとても合っていました。

──その内山昂輝さんを「ピンポン」のスマイル役で使っているところが、また面白いですね。

木村 ええ、最初からスマイル役が合ってるだろうと思って、オーディションに来てもらいましたが、ちょっと悪戯心で、ペコのセリフを読んでもらったりもしました(笑)。

──「サンダーボルト」と「UC」、そして「ガンダム Gのレコンギスタ」(2014年)の音響監督をなさっていますが、「ガンダム」ならではのセオリーは気にしましたか?

木村 いえ、私は「ガンダム」をよく知りませんでしたので、サンライズの小形尚弘プロデューサーが宇宙世紀シリーズの「ガンダム」作品を、すべてDVDで用意してくれたんです。それを観ながら受験生のように登場人物の名前や用語、ストーリーをノートに取って、「UC」の小説と脚本を読んで勉強しました。

──「ガンダム」シリーズとジブリ作品の両方に関わった音響監督は、木村さんだけだと思うのですが……。

木村 そうですか、あまり意識したことはなかったです。だけど、富野由悠季監督も宮崎駿監督も、本当に凄い方たちでした。自分のような凡人には計り知れないことを考えていらして、とても刺激的で貴重な時間を過ごせたと思っています。作風はまったく違いますけど、根底に流れている熱は同じだと感じました。

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