【犬も歩けばアニメに当たる。第17回】「坂本ですが?」にツッコむもよし、惚れるもよし!
心がワクワクするアニメ、明日元気になれるアニメ、ずっと好きと思えるアニメに、もっともっと出会いたい! 新作・長期人気作を問わず、その時々に話題のあるアニメを、アニメライターが紹介していきます。
4月にスタートした「坂本ですが?」は、佐野菜見原作の同名コミックのアニメ化。スタイリッシュで何をやってもカッコよすぎる高校1年生の坂本と、彼を取り巻くクラスメイトや先輩たちの騒動を描くギャグアニメ。
ツッコミが間に合わないボケ満載で、さらに時には「ほろっとイイ話」もあり!? 今からでもまだまだ追いつける「坂本ですが?」の楽しさをご紹介します。
今期イチの出オチ作品……かと思いきや!?
「坂本ですが?」がおもしろい。県立学文高校の1年2組に在籍する、圧倒的にクールでスタイリッシュな学園生活を送る「坂本」が主人公のギャグアニメだ。
坂本の一挙手一投足が、衆目の目を惹きつける。一度見たら忘れない。
第1話を見て、笑ってしまった。これはズルい!
そもそも、坂本のキャラがインパクトありすぎなのだ。PVにも登場する、スタイリッシュに日直をする姿(まるでビリヤードに興じるハスラーのよう!)、スタイリッシュにコンビニおにぎりを食べる姿(旋風で華麗にカーテンもたなびく!)、スタイリッシュに廊下に立つ姿(撮影中のモデルですか?)は、一度見たら忘れられない。一幅の絵が、そのまま説明なしでオチがついている1コマ漫画の存在感だ。
監督は、「銀魂」「男子高校生の日常」「イクシオン サーガ DT」「美男高校地球防衛部LOVE! LOVE!」の高松信司監督。しょうもないことを、そのしょうもなさを含めてまるっと笑える作品に仕立てる職人技には定評がある。
キャラクターデザインは「逮捕しちゃうぞ」「GetBackers-奪還屋-」「薄桜鬼」の中嶋敦子。キラキラしたツヤのある美男・美女を描かせたら天下一品のアニメーターだ。
そして坂本の声を演じるのが、緑川光。「SLAM DUNK」の流川楓、「新機動戦記ガンダムW」のヒイロ・ユイ、「彩雲国物語」の茈静蘭などを演じており、クールな二枚目役なら誰もが納得するキャスティングだ。
ここまでお膳立てされたら、「笑うな!」というほうが無理だろうという隙のない布陣だ。
くわえて、エンディングのテロップを見て驚いた。
坂本に絡む赤い帽子の不良は、杉田智和。おどおどした気弱なチョイ役っぽい子が、石田彰。女子生徒を堀江由衣、田村ゆかり。どれが誰やらわからないようなクラスメイトの1人ひとりを、よその作品で主役をやっているクラスの声優が総出で演じているのだ。
なんだこれは……なんだコレは!?
第1話を見終わったとき、「すごい出オチ感あったなあ。もう今日だけでお腹いっぱいだよ」と思ったものだ。しかしどっこい、「坂本ですが?」のおかしさは、まだまだこんなものではなかった。
どう考えてもおかしい坂本の言動を、結局みんなが認め、讃えることになっていく。ツッコミがいないシュールな世界の中で、延々続くボケドラマの味わいは、やがてクセになっていく。女はもちろん、男を落とす坂本のカッコよさ
無駄に華麗でスタイリッシュ、何をしてもカッコいい坂本に、女子生徒は夢中だ。第2話に登場した、果敢にアタックするクラスのアイドルから、遠くから見るしかできない奥手な子まで、クラスの女子という女子が彼に熱い視線と黄色い歓声を送る。
注目を集め、モテモテの坂本を、男子生徒は苦々しく見る。ハッキリ言って、おもしろくない。だから第1話の赤い帽子の不良の「あっちゃん」、おしゃれを自称するけど実はメタボ腹の「瀬良裕也」のように、坂本に目をつけ、絡んでくる輩が続々登場する。もちろん坂本は、その1つひとつをとんでもなくクールに回避していくわけだけれど。
この話のおかしさは、そのライバルたちが、次々に坂本に「落とされていく」ところにある。
あっちゃんがいい例だ。仲間と坂本をシメようとしたのに、結局いい汗をかいて終わった。それどころか、坂本に「心を奪われた」状態になっている!
瀬良もそうだ。いじめられっ子だった久保田吉伸も、坂本に心を救われたかたちになっている。以後、2人はクラスでもわりと仲良しになる。そしてさらに1学年上の2年生も……!
突飛すぎる坂本の言動を、笑いながら見ていたはずなのに、いつのまにか、「カッコいい……かも!?」という気分にさせられる。よく考えるとやっていることはマヌケなのに、それを感じさせないアニメの技もすごい。男が惚れる男。それが坂本だ。
アニメになって、美麗な絵で美形度があがり、イケメンボイスがついた結果、坂本のスタイリッシュにも磨きがかかった。何よりパワフルになったその秘訣は、「音楽」にあると思う。
シャレたジャズの坂本のテーマは、坂本のカッコよさと、軽妙洒脱なおかしみをよく伝えている。あのテーマ曲が流れると、もうクスリとするぐらいだ。
そして「恋のかくれんぼ」で流れる、某・韓ドラを彷彿とさせる切ないピアノ曲のおかしさといったら! 予告では謎の俳優、チョン・チョリソーの語りもくわわり、笑いがこみあげてしょうがなかった。音楽の力はあなどれない。坂本を表現したオープニング主題歌「COOLEST」が熱い!
一見しただけでも忘れられず、つくづく見ればなおおかしく、エピソードを重ねるとしみじみ魅力を感じる。そんな坂本の魅力は、一体どこにあるのだろうか?
坂本はなにせクールで、モノローグもほとんどないので、本当のところ何を考えているのかは、誰にもわからない。
坂本は、実はすごくやさしいのかもしれない。
そう思わせておいて、ストイックで厳しい人間なのかもしれない。
なんでもお見通しなのかもしれない。
逆に、とぼけて常識にうとい天然なのかもしれない。
ミステリアスとは罪なことだ。いろんな風にとれるし、無理に納得のいく答えを見つけようとすると、おかしなことにもなりかねない。土台、設定からして無茶なやつなんだと、納得しておいたほうがいいのかもしれない。
ただ、原作を見ていてこれはまちがいないと思ったことがある。それは、坂本は何に対しても、すべてあるがままに受け止める、ということだ。
坂本は自分のスタイルをマイペースで貫くけれど、それを人に押しつけはしない。暴力で反撃もしない。不良もいじめられっ子も、裏表のあるアイドル女子も奥手の委員長も、自分への好意も悪意も、そのまんまあるがまま、受け止める。そして、きちんと答えを返す。その方法は無駄にスタイリッシュで、ワケがわからず、しばしばとんでもなくぶっとんでいるけれど。
その「きちんと受け止めて、返す」ところが、坂本がやさしく、魅力的に見えるところなのだろう。坂本の包容力、器の大きさ、律儀さ、率直さを目にしたとき、男は坂本に敗北し、坂本に惚れる。
なんてことのない普通の学校生活に、刺激とときめきと癒しをくれる特別な存在。それが坂本だ。
その魅力が、特にオープニングテーマ「COOLEST」によく出ている。カスタマイZが歌う「COOLEST」を、ぜひフルサイズで聴いてほしい。
劇中のキーワードをちりばめた「COOLEST」は、坂本というキャラクターが持つおかし
さと魅力と熱さを、ロックに乗せて実に「らしく」表現している。特に2番の歌詞は、
原作を知っているファンにオススメだ。先の展開を思わせ、ついほろりとするようなフ
レーズも入っている。
スネオヘアーが歌う、ミディアムバラードのエンディングテーマ「無くした日々にさよなら」は、シュールな本編とはうらはらに、この日々が坂本たちの「日常」であることを印象づけ、あたたかで穏やかな1日が終わっていくのを感じさせる。映像も夕暮れのオレンジ色だ。
どちらも結構クセになる。ノリノリのオープニングで始まり、シュールで笑える本編、最後はじんわりと余韻を感じるエンディング。「作品をまるっと楽しんだ!」という心地よさがある。
アニメになって再発見する作品の魅力というのはあるものだが、もうひとつ、アニメになって気づいた坂本の魅力がある。
坂本はかなり、ガタイがいい。シュッとした細身に見えて、実はかなり筋肉ムキムキなのだ。エンディングで、プールでくつろぐ坂本を見てほしい。そのまんま、「ジョジョの奇妙な冒険」に出てもおかしくないくらい、いい筋肉をつけている。
それもそのはず。坂本の身体能力は、オリンピックの金メダリストをはるかに上回る。敏捷にして精密、アクロバティックにして華やか。あれだけの動きをこなす坂本に、筋肉がついてないわけはないのだ!
劇中でも、坂本の謎アクションが登場するエピソードはこれから結構あるはずなので、坂本の筋肉は見ものですぞ。
あと、基本的に坂本の髪型は七三分けなのに、アクション時、ときどき前髪が乱れて垂れてくるのもヤバイ。ポイントでメガネを外すのも必殺技に等しい。
坂本のスッとぼけたシュールさに、ツッコミを入れつづけるか。クーレストな超人っぷりに惚れて流されてツッコミを手放すか。どっちを選んでもきっと、坂本とスタッフ・キャストの「おもてなし」を十分に楽しむことができるだろう。
(文・やまゆー)
(C) 佐野菜見・KADOKAWA刊/坂本ですが?製作委員会
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