【アニメコラム】ときめき☆タイムトリップ第1回「TIGER & BUNNY」バディの絆とドラマにキュン♪
「今見ても、やっぱりいいわー!」
「なんでそんなに女性に受けたの?」
おもしろいものには理由(ワケ)がある! 女性アニメファンの心をつかんでヒットした懐かしの作品を、女性アニメライターが振り返ります。
第1回は、放送5周年を迎え、記念イベントや新商品で盛り上がる「TIGER & BUNNY」(2011年放送)。
物語の舞台は、周りを海に囲まれた未来都市シュテルンビルト。突然変異的に誕生したNEXT(ネクスト)と呼ばれる特殊能力者8人が、「ヒーロー」という職業について犯罪者を逮捕し、その様子を市民に中継して、人気を競っているという世界観のヒーローアクションアニメです。
タイトルの通り、コンビを組んで戦うふたりのヒーロー、ワイルドタイガー(本名:鏑木・T・虎徹)と、バーナビー・ブルックス・Jr.(本名同じ、愛称バニー)が主人公のバディもの。
スポンサー企業のロゴをヒーロースーツに表示し、劇中に広告を出すという新しい商業展開も話題になりました。
ブームのきっかけはスタートの「つかみ」
アメコミ調の世界観やバタくさいルックスのキャラクターは、当初女性ファンには受けないと思われたようですが、フタを開けてみればびっくり。本来想定されていた社会人はもちろん、女性ファンの心をつかみ、舞台化、映画化にまでつながりました。
一体なぜなのか?
最初のインパクトとしては、第1話・第2話のつかみがよかった。今振り返ってもおもしろかったなあと思います。
特殊能力で犯人たちを追うヒーローの活躍をテレビ中継するという世界観に、始まってすぐ引き込まれる、スピーディーで緊迫感のある展開。その中で、ヒーローたちの能力や性格が、キャッチーな決めゼリフを挟みながら、テンポよく紹介される。
細かい独特の設定がいろいろあるのに、すっと頭に入ってきます。わかりやすい。そしてコミカル。軽妙なせりふ回しが笑いを誘います。
虎徹とバーナビーの出会いは「お姫様だっこ」で、これもコントのようなベタな笑いだけど相当ウケました。かっこ悪いワイルドタイガーが落下するところを、正体不明のニューヒーローが颯爽と助ける。それがバーナビーのデビューだったわけです。
会社のリストラで他社に移った虎徹は、会社命令で「コンビを組む」ことを命じられますが、その相手が、あのいけすかない新人のバーナビーでした。「おじさん」と呼ばれて、虎徹は憮然。いっぽうのバーナビーも、軽く「バニーちゃん」なんて呼ばれて、カッチーン。「僕はバニーじゃない。バーナビーです!」と食ってかかる。ここに、かみ合わないコンビのパターンが完成します。何もかもが対照的な2人が「信頼」にいたるストーリー
考えが古めかしくて、結果よりプロセスを重んじ、うっとうしくバーナビーとコミュニケーションをとろうとする虎徹は、昭和のオヤジのよう。いっぽうで、能率と結果重視、合理性を重んじ必要以上のつきあいを避けようとするバーナビーは、平成生まれの若者のようです。しかしこの2人、どちらも「ヒーロー」という仕事には一途。そこが互いの理解の突破口になります。
バーナビーに邪険にされても、持ち前の鈍感さとオトナの包容力で受け止める虎徹は、愛嬌たっぷり。またいっぽうで、ツンツンお堅いバーナビーには、両親を殺害した犯人を追うというシリアスな目的のあることが明らかになります。
ふたりは、家族環境も対照的です。妻を亡くし娘と離れて単身赴任の虎徹は、面倒見がよくてチャーハンを作るのが得意。年取った母親や酒屋を営む兄など、遠く離れていても家族とつながっています。かたや、両親をなくして天涯孤独のバーナビーは、スッキリした部屋が殺風景で生活感がなく、欠落を感じさせます。こうした相手の事情を、虎徹とバーナビーは少しずつ知り、互いを理解していきます。
「信頼」=「trust」という言葉をキーワードに、ふたりの絆は深まっていきます。相棒への信頼、仲間への信頼、ヒーローへの信頼。バーナビーの頑なさが少しずつゆるみ、迷いながらも虎徹を「信頼」できるようになり、ふたりはコンビの絆を育てていく。前半は、このエピソードの積み重ねになりました。
前半でジェイクという強敵を倒した2人は、そこまでの流れから一転、互いを理解し支え合う「理想的な名コンビ」となります。これには、2人の周囲はもちろん、見ているほうもビックリ! 「ツン」のバーナビーが、完全に「デレ」た状態になって、呼び方も「おじさん」から「虎徹さん」へ。「バニー」と呼ばれることも許す「デレデレ」状態になりました。
しかしドラマの主軸がふたりの関係である以上、前半で「くっついた」ふたりの関係は、シリーズ後半できしみ、大きくヒビが入っていくことになります。そして明らかになる真の敵の正体。離れ離れになったコンビは、果たして再び手を携えて共に戦うことができるのか?……「すれ違い」に「誤解」「記憶喪失」と、これでもかというさまざまな試練を経て、ドラマはクライマックスへと向かいます。
バディものはおいしい!
この作品の魅力は、ひとえに虎徹とバーナビーのコンビの魅力と言ってもいいでしょう。
もちろん、天然で朴訥な好青年のスカイハイ、ネガティブな日本マニアの折紙サイクロン、オネエ言葉で包容力のあるファイヤーエンブレム、無骨で不器用なロックバイソンといった他のヒーローたちも魅力的です。1人ひとりのエピソードがていねいに描かれ、群像劇の要素もありました。
それでも、ドラマの骨子をなすのは虎徹とバーナビーで、だからこそ、アニメでは珍しい「バディもの」としての魅力をしっかり打ち出せたといえます。
異なる個性の2人が、反発しあいながら互いへの理解を深め、共通の目的に向かって力を合わせる。こうした「バディもの」、ドラマや映画ではおなじみのキャラクター構成ですが、アニメでは意外に見かけません。
「ドラえもん」のドラえもんとのび太に代表されるように、タイトルロールと、視聴者の共感を得る実質主人公の2人がメインという構図は、アニメによくあります。「パートナー」というなら、子どもとモンスターも鉄板です。共に戦う「相棒」という言葉には、パイロットと、人語をしゃべる巨大ロボットの関係が一番近いかもしれません。運命的に敵対する2人を「ダブル主人公」と見る作品もありますね。
しかし、対等な人間同士のバディものは、意外に少ない。
そしてこういう「関係性」に、女子は弱いのです。いくらでも深読みして萌えられる。
ケンカしつつ、心の奥底では信頼し合ってる、というのは、うんうんツンデレだよね! そして唯一無二の絆の貴さ、替えのきかない存在の切実さは、まるでプラトニックな恋のよう。「特別な、ただひとり」という存在が、心をキュンとさせるのです。
しかもバディを主人公にすえているので、しっかりたっぷりドラマが描ける。密度の濃いドラマを楽しみました。
「かわいい」「ギャップ萌」これ最強!
虎徹もバーナビーも、話が進むにつれ、どんどん人間くさい面が出てきます。いわば、ダメなところが出てくる。
虎徹は、年のせいか、能力に異変が出てきて、ヒーローを続けることに迷いが出てきます。さらに、娘の楓との約束が守れず、不信をあらわにされて、父親としておたおたしまくります。
バーナビーは、両親の死に関する新たな真実が出てくることで、繊細であやうい一面がどんどん表に出てきます。ホントあぶなっかしい。虎徹でなくとも、気が気じゃありません。
ダメな男に魅力を感じるのは、オトナの女性の特徴です。だから「タイバニ」がオトナの女性ファンに人気だったというのは、すごくうなずけます。
男性キャラのイケメンでカッコいいところに惹かれるのは、せいぜい中高生まで。それ以上年を食ったら、カッコよさはカッコよさで愛でつつ、裏腹な弱点だらけの中身を合わせて愛でたいものです。弱さやヘンなくせなどの「ヌケ」がある方が、男は愛嬌がありますからね。女は度胸、男は愛嬌。
女性ファンは、純然たる「イケメン」よりも、いろんな意味で「かわいい」ものに弱いのです。「ヌケ」や「愛嬌」のあるキャラクターにぎゅっと心をつかまれた経験、女性なら身におぼえがあるのでは?
そして「ギャップ萌え」に弱い。みんなイケメンキャラが大好きなのは、完璧だからじゃなくて、「イケメンなのにおもしろい」「イケメンなのに弱点がある」といった、ギャップ萌えがしやすいから。
そんな「弱み」と「スキだらけ」の虎徹とバーナビーが、ケンカ漫才をしながら、互いを必要とする関係になり、唯一無二の絆をつないでいく。そりゃおもしろいわけです。
もう最初の放送から数えて5周年にもなるって、ビックリしちゃいますよね。ハリウッドで実写化のニュースもありましたが、その後どうなっているのか?
この原稿のために久々にテレビシリーズと劇場版を見返しましたが、ホントやっぱりおもしろい。願わくは、アニメ新作でまた、あのバディのその後の活躍をまた見たいなーと思うのであります。
(文・やまゆー)
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