【アニメコラム】アニメライターによる2016年春アニメ中間レビュー
新年度の到来とともにスタートした春の新作アニメは、クライマックスに向けて怒濤の勢いを見せている。5月病を吹き飛ばすどころか、すべてを投げ捨ててアニメ漬けの日々を過ごしたくなる作品たちを中間レビュー!
8年ぶりのテレビシリーズ「マクロスΔ(デルタ)」、シリーズ累計150万部突破の「田中くんはいつもけだるげ」、映画化もされた人気ミステリー「ジョーカー・ゲーム」、ヒグマと巫女のカントリーライフ「くまみこ」、乙女ゲーム原作の「薄桜鬼~御伽草子~」をピックアップ!
マクロスΔ(デルタ)
1982年にスタートした「超時空要塞マクロス」のシリーズ最新作。人々を凶暴化させる奇病・ヴァールシンドロームが猛威を振う世界を舞台に、歌の力で症状を鎮める戦術音楽ユニット ワルキューレと、ライブを護衛する可変戦闘機部隊 Δ小隊の活躍を描く。歌×可変メカ×三角関係という「マクロス」の伝統を盛り込んだSFアクションだ。
OPアニメが「手を飛行機に見立てる」という過去作の名シーンで始まっていることからも、シリーズへのオマージュが感じられる本作。そうなると見逃せないのは、歌姫たちがライブで披露するポージングだろう。前作「マクロスF」のヒロイン ランカ・リーは親指、人差し指、小指を立てて「F」を作る「キラッ☆」で一世を風靡したが、ワルキューレの美雲・ギンヌメールは中指と薬指をクロスさせる「W」のハンドサインを片手だけでやってのける。常人なら指つり必至のポーズを華麗に決める姿は、まさにエースボーカルらしい佇まいである。新人メンバーのフレイア・ヴィオンはこのフィンガーテクを受け継ぐことができるのか。彼女の成長に期待したい。
田中くんはいつもけだるげ
原作は「ガンガンONLINE」連載の学園コメディ。スローペースな主人公 田中とそんな彼を見守るクラスメイト 太田のまったりとした青春を描く。ギャグアニメと言えば過剰なセリフの応酬を思い浮かべがちだが、太田のツッコミは冷静かつ愛情にあふれており、どこか気品すら備わっている。1話当たり200カットをわずかに越えるゆるやかなテンポと相まって、休日深夜のオンエア作品らしい落ち着いた雰囲気を楽しめる。
2人が通う高校の開放的なデザインにも目を奪われてしまう。天窓が大きく取られ、吹き抜けスペースも存在する校舎には、いつもやわらかな陽光が注ぎ込んでいる。田中はこの完璧な採光環境に惹かれて入学したとしか思えない。露出オーバー気味の心地良い画面とホワイトフェードに挟まれたOPアニメが穏やかな日常を描き出していく。
ジョーカー・ゲーム
帝国陸軍内に設立されたスパイ養成部門 D機関のメンバーが世界各地で暗躍する短編ミステリー小説をアニメ化。スパイという役柄ゆえに登場人物たちは目立たないことが必須で、個人を識別することさえ難しい。それゆえにアニメ化は困難ではないかという杞憂を見事に裏切っている。OPアニメのラストでは髪型や服装はおろか、光源も等しい無個性なスパイたちの正面顔を描き分けており、スタッフの自負が伝わってくる仕上がりとなった。
物語の舞台は東京、上海、ロンドンとエピソードごとに異なり、ときには南満州鉄道の超特急や豪華客船のデッキでも任務が繰り広げられる。その背景美術や小物に至るまで細やかに描き込まれ、日中戦争期の世界をリアリティあるものにしている。スパイ顔負けの緻密な設定考証と、Production I.Gの技術力が結実した一作。
くまみこ
「月刊コミックフラッパー」連載の同名コミックを原作とするテレビアニメ。東北地方の山奥にある熊出村で、巫女として神社に仕える中学生 まちと、人語を喋るヒグマ ナツの田舎暮らしを描く。田舎コンプレックスに悩むまちは都会の高校に通う夢をかなえるため、ナツが出す試練にチャレンジ! 彼女に立ちはだかるのは、マルイやユニクロ、ヴィレッジヴァンガードなどハイソな都会のお店たち。エスカレーターもまともに乗れないまちは、実名で登場する有名店に打ち勝てるのだろうか?
いっぽうのナツはクマでありながら、最新家電を使いこなすほど現代社会になじんでいる。都会で生き抜くために必要な知識を授けながらも、まちとずっと一緒にいたいと願う健気さがまた愛らしい。アンビバレントな感情の行く先にも注目だ。
薄桜鬼~御伽草子~
時代劇ファンタジー「薄桜鬼」シリーズのショートアニメ作品。おなじみの登場人物が2頭身のデフォルメキャラに変身。オリジナルキャストが続投し、雪村千鶴役の桑島法子、土方歳三役の三木眞一郎ら、実力派声優陣が再集結した。ストーリーはなぜか食べ物ネタが多く、父親とスイカを見間違える千鶴、金平糖を投げつけられる土方、カステラに執着する風間など、ほとんどのエピソードに食事やお菓子が出てくるカオスっぷりである。
アニメーション制作はDLEが担当。国産肉の美味しさを広めるPRアニメ「おにくだいすき! ゼウシくん」や、最終回は登場人物がおでんになる「ガラスの仮面ですがZ」を手がけた同社らしい作風だ。キュートなキャラとシュールなギャグに癒やされる至極の3分をお楽しみあれ。
(文/高橋克則)
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