異例のロングランを続ける「ガールズ&パンツァー 劇場版」のヒットの理由とは?

「ガールズ&パンツァー 劇場版」が、異例ともいえるロングラン上映を続けている。しかも、2015年11月の公開当初は77館だった上映館数が、半年後の27週目に、新規上映館38館を含む153館での大規模な上映も実施。結果として、20億超の累計興行収入を記録するまでに至っているというのだ。さらには、この6月に一部の劇場にて、劇場版とOVA「これが本当のアンツィオ戦です!」の2本立て上映や、TVシリーズの一挙上映などのスペシャル上映会も企画されており、製品版が発売された今となっても、とどまるところを知らない勢いが続いている。

この「ガールズ&パンツァー」人気は、いかなる要素がポイントとなっているのだろうか。重要なポイントの1つとなっているのはサウンド的に映画館向きの作品であることだろう。“戦車道”という架空の武道をたしなむ主人公たちは、さまざまな“試合”を行い、そのなかでビンテージ戦車を縦横無尽に操りつつ、ドッカンドッカン戦車砲を撃ち合っている。そんな爆音だらけのサウンドは、家庭用のテレビはもちろんのこと、それなりのホームシアターであっても十分なボリュームを確保しづらく、映画館にうってつけのサウンドと言えるだろう。しかしながら、それだけでは同じ映画に何度も足を運ぶ理由にはならない。そう、ご承知の方も多いかもしれないが、「ガールズ&パンツァー」の音響監督を務める岩浪美和氏が、実際にさまざまな劇場に足を運び、それぞれ「ガールズ&パンツァー」に最適な音響調整を行った特別上映を実施するという、ユニークな取り組みが行われているのだ。これが多くのファンの共感を呼び、「あちらの映画館の音はああだった、こちらの音はこうだった」と、これまでにない盛り上がりを見せることとなったのである。

作品そのものを楽しむことはもちろん、映画館という空間をも楽しめる希少なタイトルとなった「ガールズ&パンツァー 劇場版」。こういった特徴的な上映をスタートするまで、どういった経緯があったのだろうか。新たに、イオンシネマ幕張新都心でのULTIRA 9.1ch上映に際し、サウンド調整を行っていた岩浪音響監督に同行し、実際の作業を拝見しつつ、さまざまな話をうかがわせてもらった。


映画館に対する恩を返したかった


場所は、海浜幕張駅近くのファミリーレストラン。ふらり、といった風に現れた岩浪氏は、開口一番、映画館に対する想いを語ってくれた。

「もともと映画が大好きで、学生の頃には映画館に通って年間300本くらいは見ていました。なんて言うと、なんだか崇高な趣味のように思えるかもしれませんが、決してそんなことはなく、実際には映画くらいしか楽しみがなかったんです。本当に、暗い学生生活を送っていました(笑) 映画好きが高じて、音作りを仕事にしてしまいました。そんな自分を育ててくれた映画に恩返しを、と思っていたのも事実なんです」。

心のどこかでそう思いつつも、特にこれといったきっかけもなく、数多くの作品に携わってきた岩浪氏。ところが、この「ガールズ&パンツァー 劇場版」が、映画館に対しての“恩返し”につながるのではないか、という思いに至ったのだという。

「きっかけは立川シネマシティの極上爆音上映でした。こちらから申し出て、音響チームで音響調整にお邪魔することになったのですが、この上映がお客様に予想を遥かに超える好評を得て、その後の4DX版やさまざまなスタイルでの興行に繋がっていきました。それ以前は、作品が完成するまでが自分たちのやることで、あとは劇場にお任せ、というスタンスだったんですが、立川シネマシティでの経験で、もう一歩踏み込んで制作者、劇場、お客様を繋ぐ事の重要性を感じました。もともと、多くの映画館は素晴らしい音響システムを持っていて、良質なサウンドを実現してくれてはいるのですが、さらにほんのちょっと手を加えるだけで、映画の音がとても魅力的に感じてもらえるようになるんです。それで『映画館で映画を見ることの楽しさ』を実感して頂くことに繋がれば最高じゃないですか。

それで、できるだけ多くの映画館にうかがわせてもらい、その映画館にとってのベストな「ガールズ&パンツァー 劇場版」(のサウンド)を作り上げさせてもらおう、と思い立ったんです」。それが塚口サンサン劇場等さまざまな劇場の音響調整、そして今回のイオンシネマ幕張新都心9.1ch上映に繋がっていきました。」


結果として、岩浪氏による音響調整は、多くのファンが再び映画館に足を運ぶきっかけとなり、「ガールズ&パンツァー 劇場版」ロングラン上映の要因のひとつにもなった。あえて別の映画館に足を運び、それぞれの持つ音の良さを楽しむという、別の趣味性さえ持つようになったのだ。こういった楽しみが増えることは、アニメファンという枠にとどまらず、映画ファンとして大いに歓迎したいところだ。

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