【アニメコラム】ときめき☆タイムトリップ第3回「聖闘士星矢」激闘し傷ついても立ち上がる少年たちは美しい
「今見ても、やっぱりいいわー!」
「なんでそんなに女性に受けたの?」
おもしろいものには理由(ワケ)がある! 女性アニメファンの心をつかんでヒットした懐かしの作品を、女性アニメライターが振り返ります。
第3回は、連載スタートから30周年を迎え、この6月に秋葉原で「聖闘士星矢30周年展」が開催される「聖闘士(セイント)星矢」(1986年放送)です。
車田正美さんによる「聖闘士星矢」の連載が週刊少年ジャンプでスタートしたのは、1986年1・2合併号。アニメのテレビシリーズは1986年10月からスタートしました。
倒れても絶望の中から何度でもよみがえる熱いストーリーと、ギリシア神話と星座にまつわるロマンあふれる世界観は、男性はもちろん多くの女性ファンをも魅了し、長く続くシリーズとなりました。
聖闘士と書いて「セイント」と読み、聖衣と書いて「クロス」と読む。小宇宙は「コスモ」で、聖域は「サンクチュアリ」……と、ナチュラルに読んでしまうあなた。懐かしいあの作品を思い出してみませんか。
クセになる! 時代劇めいたセリフ回しと不屈のバトル
オープニング「ペガサス幻想(ファンタジー)」を見れば、テンションが上がる。横山菁児作曲のBGMを聴けば、胸が高鳴る。「聖闘士星矢」は、一度ハマればクセになる、中毒性の高いアニメです。
原作者・車田正美さんが描くのは、努力・友情・勝利を体現した、男のロマンにあふれた世界です。主人公の星矢たち青銅聖闘士(ブロンズセイント)は、敵に対してはいつでも全力の真っ向勝負。どんなに絶望的な危機に陥っても決してくじけず、仲間を信頼して戦い抜き、不可能と思われた逆境をくつがえします。
今のきれいな画面に慣れたファンが、「聖闘士星矢」のテレビシリーズを見れば、どこか古い「昭和のアニメ」と感じるかもしれません。しかし、ハングリーな熱さを秘めたこのセンスは、30年前でも十分ベタでした。「なんだこりゃ」と思いつつも、ぐいぐいと引っ張られてしまう力技がすごい。アニメは、荒木伸吾・姫野美智両氏の華麗なキャラクターデザインによって、より多くの人に受け入れられやすくなりました。
メインキャラクターである青銅聖闘士の5人は、いずれも見目うるわしい10代前半の少年たち。それぞれに個性的で魅力的です。
単純明快、不屈の闘志を持つ、一途な元気少年、ペガサス星矢。
冷静沈着、ストイックで自己犠牲もいとわない、長髪黒髪のドラゴン紫龍。
クールでマザコンの変わり者、ハーフで金髪碧眼のキグナス氷河。
兄思いで泣き虫だが実は強い、かわいくてやさしさを持つアンドロメダ瞬。
弟の危機には必ずやってくる、こわもての一匹狼、フェニックス一輝。
この5人が、互いに瀕死の重傷を負うまで激闘したり、逆に命をかけて相手を救ったりしたことのある、いろいろな因縁を持つ「仲間」なのです。ドラマチックなことこのうえありません。
彼らのセリフが熱い。というか、熱苦しい! 「笑止!」「問答無用!」「貴様はそれでもアテナの聖闘士か!」って、時代劇でしか見ないような、ありえないセリフ回しでした。フェニックス一輝が弟に言い放った「惰弱(だじゃく)な!」は、当時ちょっと周囲で流行りましたね。少年たちは突き進み、倒れ、傷つき続ける!
熱く、見る者を引き込む原作コミックの魅力は、アニメ化でブレイクしました。初めて見たときの「踊る必殺技」のファーストインパクトはすごかった。
「セイヤの拳がペガサスの13の星の軌跡をえがいている!!」
と原作で語られた星矢の動きが、アニメで具現化したのを皮切りに、必殺技の前振りが加速していきました。聖衣を脱ぎ捨てるところから始まる「廬山昇竜覇」、神秘的な響きをともなう瞬の「ネビュラ・チェーン」、地獄の火炎が画面を舞う一輝の「鳳翼天翔」。
白眉はやはり、「キグナスダンス」と呼ばれる氷河の「ダイヤモンドダスト」でしょう。新作の「聖闘士星矢Ω(オメガ)」でも寸分違わず再現されていてちょっと感動しました。
絶望的な苦境に追い込まれながら希望を捨てず、ギリギリのところから逆転を決める、という熱い展開のためには、「追い詰められる段取り」が必ず必要です。その結果、必殺技もさることながら、戦いや衝撃のすごさを見せる演出がみがかれていき、主人公の星矢たちが「倒される」描写に、工夫がこらされていくことになりました。
衝撃波が空間を支配し、顔がゴムのように引き伸ばされ、顔から壁に突っ込んで石の壁を砕き、最強の聖衣がパリーンと陶器のように粉々に砕け、あげくの果てに自分から脱ぎ捨て、髪の毛がエネルギーの激流に逆立ち、額の生え際があらわになり、ヘッドパーツが砕けて、乱れた髪の毛があらわになり……。
戦い、傷つきつづける少年は、まるで戦いに捧げられる供物のよう。それでも何度でも立ち上がる星矢たちの熱い姿に、ツッコミを入れつつ楽しんでいたはずの心は、いつしかときめいているのです。
圧倒的な強敵、黄金聖闘士(ゴールドセイント)たちが登場する「十二宮編」は、シリーズ1の人気を誇るエピソードでした。「おいしい敵役がチームで登場すると、作品人気がはねあがる」という法則が、ここでも発動しています。
青銅聖闘士たちは魅力的ですが、いずれもまだ青くさい少年です。それに比べ、黄金聖闘士たちは、ひとまわり年齢が上のオトナの貫禄。牡羊座のムウが星矢たちの見守り役で、天秤座の童虎が紫龍の師匠、水瓶座のカミュが氷河の師の師(アニメ版)と、歴然とした力差を前提にした師弟関係が、青銅聖闘士たちとの間にあったりもしました。
また、黄金聖闘士同士の関係も複雑でした。12人の中に、忠誠を誓った主従あり、対等な友情あり、哀しい兄弟愛あり、因縁の憎しみあり、過去にまつわる葛藤あり、とさまざま。聖域にまつわるドラマは一気に複雑化して、ファンは自分の好きなキャラを中心としたドラマを、それぞれに楽しむことができるようになりました。
キラ星のような黄金聖闘士からひとりあげるなら、双児座のサガでしょうか。謎を秘めた存在として君臨し、実は神のように清らかな善の人格と、悪魔のような冷徹な悪の人格を持つ二重人格の持ち主。さらに対立した双子の弟カノンが存在するという事実がのちに発覚。何重にも屈折を抱えた男として、女性ファンの心を惹きつけました。
気軽に作品のエッセンスに触れるなら、ファンにも人気の高かった劇場版がいいでしょう。BGMが美しい「聖闘士星矢 神々の熱き戦い」(1988年)、黄金聖闘士も登場する「聖闘士星矢 真紅の少年伝説」(1988年)がおすすめです。
広がり続ける「聖闘士星矢」の世界
「聖闘士星矢」のテレビシリーズ全114話は、原作のポセイドン編までで終わっています。また原作自体がさまざまな派生作品を生みだしていることもあり、30周年を迎える今にいたるまでアニメも、さまざまな続編や新作が制作されています。
青銅聖闘士のキャストの交代は、ファンに複雑な思いを抱かせましたが、バラエティ豊かな新シリーズが次々に生み出された今は、むしろその違いを楽しみたいものです。
「聖闘士星矢 THE LOST CANVAS 冥王神話」(2009年)は、原作・車田正美、作画・手代木史織によるコミックのOVA化で、全26話。18世紀を舞台に繰り広げられる、前聖戦を描いています。絵がまったく違うため、前のシリーズにとらわれることなく、今の人気声優たちが演じる聖闘士たちの熱い物語を楽しむことができて、前のシリーズを知る人にも初めての人にもおすすめできます。ただ、原作の最後までアニメ化されていないのが残念です。
「聖闘士星矢Ω(オメガ)」(2012年)は、「聖闘士星矢」の後の世代の聖闘士たちの活躍を描くオリジナルのテレビシリーズで、全97話にわたって放送されました。聖衣が箱入りではなくペンダントに格納されたり、メインキャラに女性聖闘士を登場させたりと、新しい試みのあるいっぽうで、星矢を始めとする前の世代のキャラも登場。前作のイメージを残しつつ、懐かしさもありつつ、新しい世界を紡ぎ出していて、いろいろと感慨深いものがあります。
「聖闘士星矢 Legend of Sanctuary」(2014年)は、「十二宮編」を中心に制作された、フル3DCGアニメーション映画。絵も声もかつてのアニメとはまったく違うため、これも別物として楽しむことができます。星矢たちの今ドキの少年らしさや、ひとりの少女としての沙織の思いなど、見せ方をガラッと変えたからこそ、原作の持つ力を改めて感じられるところが新鮮です。十二宮のある聖域が、今まで見たこともない斬新な美術で描かれていて、自由なイメージの「聖闘士星矢」が楽しめます。
生まれ変わった新しい「聖闘士星矢」の作品群を見ていると、少年たちがくじけず何度でも立ち上がる、この作品の熱い魅力を改めて感じます。
「聖闘士星矢」30周年のこの機会に、新作をたどるのもよし。懐かしい聖闘士たちに、また会ってみるのもいいでしょう。あなたがもう一度見たいシーンやセリフは、どれですか?
(文・やまゆー)
(C) 車田正美/集英社・東映アニメーション
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