【懐かしアニメ回顧録第20回】「勇者王ガオガイガー」の合体シーンに見る、ロボットの「人格」と「主導権」

7月スタートのアニメの中に、「食戟のソーマ 弐ノ皿」がある。監督は、米たにヨシトモ氏。米たに監督の名を世に知らしめたアニメといえば、「勇者王ガオガイガー」(1997年)に尽きる。

サンライズが1990年に開始した勇者シリーズの最終作でありながら、米たに監督のロボットアニメに対する積年の愛情が注ぎ込まれたことで、類いまれな個性を獲得した異色作である。前回の「ジャイアントロボTHE ANIMATION 地球が静止する日」に引きつづき、ロボットアニメのメカ描写を読みといてみたい。


ライオン型ロボットが人間型に変形して「人格」を得る


さて、「勇者王ガオガイガー」には、勇者シリーズの特徴である「乗り物から変形する人格のある(言葉を話す)ロボット」が多数登場する。しかし、主役ロボの“ガオガイガー”のみ、特殊な合体パターンをとる。

まず、サイボーグである獅子王凱が、ライオン型のロボット“ギャレオン”を呼び出す。宇宙から飛来したギャレオンには意志があり、まれに勝手に動き出すこともあるが、人間の言葉を話すようなことはない。

そして、凱がギャレオンの口の中から搭乗すると、ギャレオンは人間型ロボット“ガイガー”へと変形する。この搭乗→変形をフュージョンと呼ぶ。フュージョンによって、凱はガイガーと一体化する――というのも、ガイガーには2つの目と口があり、凱が話すとガイガーの口も動き、人間らしい表情がつけられているからだ。つまり、ガイガーは「人格のあるロボット」だ。

ガイガーはピンチに陥ると、3機の“ガオーマシン”と合体(ファイナルフュージョン)して、巨大ロボット“ガオガイガー”となる。新幹線の形をした“ライナーガオー”、ステルス戦闘機型の“ステルスガオー”、ドリル戦車である“ドリルガオー”は、それぞれ人間型であるガイガーを包み込むように合体して、ガオガイガーの頭や手足を構成する。ガオーマシンにはコクピットがあり、たまに凱や他の人間が乗り込むことはあるものの、基本的には無人で動く。

要するに、ギャレオンとサイボーグの凱のフュージョンによって、ガイガーという「凱の意志を反映する、人格のある人間型ロボット」がまず構成され、さらに無人で意志のない3機のガオーマシンがガイガーに合体することで、凱の意のままに動くガオガイガーが完成するのだ。


ガイガーの「目の色」に注目すべし!


では、劇中のガイガーと3機のガオーマシンとの合体シーンを詳細に見てみよう。

1:「ファイナルフュージョン!」とガイガーが叫ぶ(凱の意志で動いているので、ちゃんと口が動く)。

2:ガイガーの腰から、緑色の竜巻が生じて、周囲を包みこむ。(この竜巻は背景を隠して、毎週の放送で使いまわすためだ。こうした使い回しを“バンク”と呼ぶ。合体バンクとは、毎週使われる合体シーンのこと)。

3:ガイガーの胸部のライオン顔(ギャレオンの頭部)の口が光る。

4:ガイガー周囲の竜巻に、ドリルガオー、ステルスガオー、ライナーガオーが突入してくる。

5:ガイガーの腰が回転し、前後逆になる。

6:ドリルガオー先端部のドリル部が開いて、その内部にガイガーの足を受け入れる。

7:ガイガーの両腕が後ろに折れて、両肩に空いた穴に、ライナーガオーが突入する。

8:ガイガーの背中にステルスガオーが接合し、固定される。

9:ガイガー胸部のライオン顔に、ステルスガオーに付いていたタテガミが移動する。

10:ガイガーの肩部に固定されたライナーガオーから、ガオガイガーの上腕が出てくる。

11:ステルスガオー下面のガオガイガーの前腕部がスライドして、上腕と接合する。

12:上腕と接合された前腕部のハッチが開き、ガオガイガーの腕が回転しながら出てくる。

13:ガイガーの頭部に、ステルスガオーに付いていたヘルメットがかぶさる。

14:ガイガーの口元をマスクが覆い、目が光る。

15:額に、パワーの源であるGストーンが現れ、光る。ポーズを決めて、ガオガイガーの完成。

だいたいの流れはおわかりいただけただろうか? ガオガイガー完成後、ガイガーの体はほとんど隠れてしまう。胸のライオン顔はギャレオンの意志が宿っているので、大きなタテガミが付くことでかえって強調される。だが、ガイガーの表情を伝えていた口部はマスクで覆われてしまう。

そのいっぽう、ガイガーの目はマスクに隠されることなく、ガオガイガー完成後も露出したままだ。

それでは、ガイガーの目に注目して、もう一度、合体プロセスを見直してみよう。ガイガーの目はオレンジ色だが、5の腰が回転するときには、目は黒く塗りつぶされている。1と3はアップなので、目はオレンジ色だ。つまり、「腰が前後に回転する」という、人間には不可能なメカニカルな動きをしはじめた瞬間から、ガイガーの目は消灯するのだ。

両肩が後ろに折れる7でも、ガイガーの目のあたりは黒く塗りつぶされており、無表情だ。合体のために「人間型」であることを失っている間、ガイガーは「人格のない機械」に徹しているかに見える。ガイガーの目が、ふたたびオレンジ色に点灯するのは、14である。合体メカの一部であることから解放され、シルエットが人間型に戻る――つまり、ガオガイガーが完成した瞬間、ふたたびガイガーの目が光り輝くのだ。「ガオガイガー!」という凱の雄叫びも、戻ってくる。

人間型ロボットが、合体プロセスの間だけ、キャラクターの人格を投影することを遮断し、人形のように描かれる――「ガオガイガー」の場合、オレンジ色の目が消えて黒く塗られる。無人格なマシンにもなるし、キャラクターの肉体にもなる。それこそが合体ロボットの魅力であることを、「ガオガイガー」の合体シーンは教えてくれる。

そして、もうひとつ。合体の間、何度かガオーマシンの内部メカが描かれる。スプリングやシャフトなどの精密な合体機構が丸見えになる。その内部メカのあちこちがオレンジ色に、すなわち、ガイガーの目と同じ色で光っているのだ。

このオレンジ色の光は、合体プロセスの主導権――「人格」を、(凱と一体化したガイガーではなく)無人のガオーマシン側が有していることを意味してないだろうか? だとするなら、マシンと人間の立ち位置の変化、もっと言うなら「マシンと人間の信頼関係」を毎週毎週、無言のうちに、しかし力強く描きつづけたのが「ガオガイガー」の合体シーンである……とは受けとれないだろうか?



(文/廣田恵介)

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