【犬も歩けばアニメに当たる。第20回】「甘々と稲妻」手料理の食卓と家族の笑顔は何よりのごちそう!
心がワクワクするアニメ、明日元気になれるアニメ、ずっと好きと思えるアニメに、もっともっと出会いたい! 新作・長期人気作を問わず、その時々に話題のあるアニメを、アニメライターが紹介していきます。
7月にスタートした「甘々と稲妻」は、妻をなくした父娘と、母親が不在がちな女子高生が、小料理屋の台所で、肉じゃがやハンバーグ、どなべごはんなど、一緒に家庭料理をひたすら作っていくアニメです。
グルメアニメもいろいろあるけれど、ここに描かれているのは、家族をよろこばせるために腕をふるうという家庭料理の基本と、みんなで食卓を囲むという団らんのあたたかさ。登場する料理のつつましさ、普通さに感心しつつ、笑って涙ぐんでいるうちに、いつのまにか自分も台所に立ちたくなってしまいます。
穏やかな食卓にある「幸せ」のかたち
幸せってなんだっけ。お金があること? 人にほめられ、うらやまれること? いい成績や結果を出してすごいといわれること? 好きなことをしてゆっくり休めること?
世の中はいろんな困難に満ちていて、大人も子どもも毎日はとても忙しいので、こんな単純なことが時々わからなくなることがある。
でも、ひとつ確かなことがある。それは、大好きな人と一緒に作って食べて、大好きな人がおいしいと言ってくれる穏やかな食卓は、まちがいなく「幸せ」な時間だということだ。
「甘々と稲妻」は、そんなことを思い出させてくれる、食と団らんの物語だ。
主人公の犬塚公平は、半年前に妻をなくしたばかりの高校数学教師だ。娘のつむぎは、元気いっぱい、育ち盛りの幼稚園児。仕事と子育てを懸命に両立する公平は、つむぎの幼稚園の弁当もちゃんと作ってあげている。それでもつむぎはひとりで夕食をとることが多く、父と娘の食卓には何かが欠けている。
そんな父娘が出会ったのが、公平の教え子である飯田小鳥だ。料理研究家の母親が営む小料理屋は、テレビ出演の仕事が増えた母が忙しいため、現在休業中。その小料理屋の台所を使って、小鳥は父娘に「料理をふるまう」という。ところが、小鳥は包丁がこわくて自分では料理を作れない人だった!
料理の知識は豊富な小鳥と、初心者で不器用だけどやる気はある公平という「料理できない人コンビ」が、つむぎにおいしいものを食べさせたいという思いから、二人三脚でえっちらおっちらと初めての料理に挑む。
以後、各話こんな感じで、ひたすら、ちょっとぶきっちょな料理シーンが展開していくことになる。
登場する料理は、どれもこれも「普通のおうちの食卓に出てきそうなメニュー」だ。それを、料理番組かという細かさで、手順と材料を紹介していく。食材を刻んだり、並べたりする手つきがいかにも初心者で、料理が得意でない人は親近感を、そこそこできる人はハラハラ見守る親のような気持ちを感じてしまう。つまり、目が離せない!
ちょっと頑張って初めてのことに挑戦して、手間をかけて料理をかたちにしたら、実際に食べるドキドキの時間が待っている。うまくできたかな? つむぎはよろこんでくれるかな? こんなに身近で小さなことに、サスペンスやアクションに劣らずドキドキハラハラさせられる自分に気づく。
「おとさん、ンマ~イ!」
ぱあああっと小さなつむぎの笑顔が輝くと、公平と一緒に、見ている方までほおおっとため息が出てしまう。笑顔になって、涙ぐみそうになる。
ひとりで食べるご飯はどこかさびしい。「おいしいね」といいながら、笑顔で家族や大切な人と顔を合わせてご飯を食べられたら幸せ。そういえば、家族と一緒にご飯を食べたのはいつだっけ? あの人と最近ご飯食べてないな。そんなことを考えてしまう。
食が、団らんがいとおしくなり、猛烈に自分で食事を作りたくなる。そんな副作用が、このアニメにはある。
いっしょにご飯を食べる時間を積み重ねれば家族になる
犬塚父娘に台所と料理の作り方を伝える女子高生・小鳥も、団らんと食に飢えている。
母ひとり娘ひとりの母子家庭だが、母親は最近仕事に忙しく、一緒にご飯を食べられないことが多い。もう小さくはない高校生だけれど、小鳥はやっぱりさびしい。
もちろん、母親の忙しさはよくわかっている。母親も、小鳥のことを気にかけて、食事を作り、電話で連絡をくれる。それでも本当は、小鳥も母親と一緒に食べたいのだ。
そのさびしさが描かれているから、ちょっとおせっかいな小鳥の行動も嫌味なく、ごく自然に感じられる。
公平の前ではいつも赤面しているが、小鳥は実のところ、高校の副担任である公平に対して、恋愛感情を持っているらしい。
「先生、私とご飯を作って食べませんか!?」
第1話の小鳥のこのセリフが、プロポーズのように聞こえたのも、あながちまちがいではない。
でも、元はといえば他人同士だった「家族」の始まりだって、そもそも同じ屋根の下で、いっしょにご飯を食べることにあったのではないか。
毎日積み重なっていくその時間が、とても貴重であたたかくて、だから視聴者もつい、和みながら見守ってしまうのだ。小鳥の友人の小鹿しのぶも、公平の知人の八木も、3人の時間をあたたかく見守っている。
小鳥の恋がかなうかどうかは、一番重要なことではない。少なくとも今のところ、3人で食事を作っていっしょに食べることで、小鳥は十分幸せなように見える。家族でないもの同士が家族になるというかたちが、そこにはある。動きと声の演技で堪能! つむぎの愛らしさ
コミックがアニメになると楽しいのは、色がつくこと、動きがつくこと、音がつくこと。ここで「甘々と稲妻」は大きなメリットがある。
まず、つむぎがかわいい。とにかくかわいい!
子供らしいちょこまかとした仕草は止まることがない。もっさもっさしたロングヘアはぬいぐるみのようだ。声を演じているのは、4歳のころから子役として活躍してきた遠藤璃菜。やはり、小さな子どもがいきいきとかわいらしかった「ばらかもん」で、黒髪ロングヘアで泣き虫の久保田陽菜を演じたことで覚えているアニメファンもいるだろう。
「おとさん!」「おとさん、見て!」
ちょっと舌足らずで、元気な声が愛らしい。楽しみに食事ができるのを待つ姿や、おいしいご飯に感動するリアクションが素晴らしい。
この声を聞いているだけで、「つむぎちゃんを笑顔にしたい。人をよろこばせることができる料理って素晴らしい!」って思えてくる。
料理を作る仕草が、また丁寧に描かれる。お米を研ぐ小鳥の手つきが危なっかしいなと思っていたら、本当に料理の素人だった!
できあがった料理は、ほっこりつややかであたたかくておいしそうだ。お米の粒がきらめき、小鳥とつむぎの「おいしーい!」というリアクションでさらに食卓が輝く。そうそう、ご飯は美味しさをしっかり味わいながら食べないとね。
3人のお互いへの態度は、とても真摯だ。
先生だから、生徒だからという気負いは、公平と小鳥の間にはない。
小さい子どもだからと、つむぎの意見を軽んじることも、公平や小鳥にはない。
作る、食べる幸せを中心に、3人はまあるくつながっている。そこがほっこりする。なんともいえない安心感がある。
こんな幸せの中にいたいな、誰かと食卓を囲みたいな。今日登場したこの料理を今度作ってみようか。「一緒に食事食べよう」って、あの人を誘ってみようか。そんな力をくれる、ほこほこあったかい心地いいアニメ。
疲れた体と心によく効くので、ぜひ見てみてほしい。あ、空腹のときに見るといろんな意味でたまらなくなるので、ご注意を。
(文/やまゆー)
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