作家・海法紀光&深見真 ロングインタビュー!(アニメ・ゲームの“中の人”第4回)
アニメ・ゲーム業界の第一線で活躍するクリエイターたちにインタビューを行い、仕事の流儀や素顔に迫っていく本連載。第4回は、作家の海法紀光さんと深見真さんの豪華対談をお届けしよう。小説家や漫画原作者としても有名なおふたりに、影響を受けた作品、独自の創作論、「PSYCHO-PASS サイコパス」「翠星のガルガンティア」「がっこうぐらし!」「ベルセルク」「ダンガンロンパ3―The End of 希望ヶ峰学園―」といったアニメ参加の経緯、今後の目標など、多岐にわたる興味深いお話をうかがった。
きっかけはニトロプラスのオフィス
──本日はどうぞよろしくお願いいたします。早速ですが、おふたりが知り合われた経緯を教えていただけますか?
海法紀光(以下、海法) 深見さんが「PSYCHO-PASS サイコパス」(2012)関係でニトロプラスに来られていた当時、私も出入りしてましたので、すれ違ったり挨拶を交わしたりしていました。深見さん、どうでしょう?
深見真(以下、深見) そうですね・・・。ぼんやりとしてますが、その頃、パーティーなどでも挨拶するようになって。あと、Twitterで海法さんをフォローして、追いかけていました。いずれにしても、自分のほうが先に「海法さんと仲良くなりたい」と思っていました。
海法 私も以前から深見さんの小説は面白いなと思っていて、「アフリカン・ゲーム・カートリッジズ」(2007)などは大好きですよ。
深見 ありがとうございます(笑)。
アメコミへの情熱
深見 自分の中で海法さんは最初、「アメコミの人」だったんです。「ウォッチメン」の翻訳者のひとりとして有名ですよね。自分はガース・エニスが好きで、彼の「ヒットマン」の翻訳も、海法さんですよね。
海法 ですね。エニスといえば、今「プリーチャー」が実写ドラマ化してますね。
深見 「プリーチャー」、面白いですよね。アメリカは宗教や政治的なことにはかなり気を遣っているのに、トム・クルーズが礼拝中に爆死するニュースが流れたりとすごいですね。
海法 アメリカはアダルトものなどでは、そういったエグイ表現がありますね。日本人には「アメリカは不自由だ」という方もいますが、そんなことないですよ。「女神転生」も「ペルソナ」も、アメリカで大人気ですから。「プリーチャー」は基本的に「主人公が神様を蹴っ飛ばしに行く話」ですから(笑)。
深見 すごい話ですね(笑)。もっとも、エニスは「パニッシャー」では堅実な仕事をしてますね。
海法 「パニッシャー」が堅実かどうかは、議論のあるところですが(笑)。ガース・エニスのアメコミ作品は、当初、いわゆるスーパーヒーローものをやっていたのですが、次第にスーパーヒーローものに批評的というか、皮肉なテーマの作品も描くようになってますね。
「魔法少女特殊戦あすか」はマーク・ミラーの影響
深見 自分は今、ビッグガンガンで「魔法少女特殊戦あすか」の漫画原作をやっているのですが、この作品はマーク・ミラーの影響がすごく濃いと思っています。
海法 「あすか」、めちゃくちゃ面白いですよ。
深見 ありがとうございます。マーク・ミラーの作品は、割と政治思想がにじみ出ていて、すべて肯定するわけにはいかないのですが、それでも好きなんです。日本では「キックアス」が有名だと思うのですが、自分は「シビル・ウォー」や「アルティメッツ」も大好きです。これらの作品ではスーパーヒーローと特殊部隊が一緒に行動しても何ら違和感がなくて、独特のリアリティがあるんですよね。
海法 確かに。
深見 「キックアス」でも、「本当のリアル価値のヒーローがいたら、どうなるんだろう」というシミュレーションがあったんです。これに対し、「あすか」は「本当のリアル価値の魔法少女もの」を描いています。「魔法少女まどか☆マギカ」(2011)などの先行作品とは違うリアリティを追及しています。
海法 「リアル」という言葉には、いろいろなニュアンスがあると思いますが、たとえばアメコミヒーローが現実にいたら当然、軍事利用、政治利用される。そのうえでどうするかという話ですよね。
深見 自分は最近、「スペリアー」を読んだのですが、このマンガは病気で体が不自由になった少年のところにキュゥべえみたいな奴が現れ、「スーパーヒーローにしてあげる」と言ってくる作品なんです。この少年がスーパーヒーローになって最初にやるのが、アフガニスタンに行ってテロリストをやっつけることなんですよ。これは日本ではあまりない展開だと思います。
海法 我々のまわりにはそうしたニュースや国際情勢があるのに、それを放っておくのはつまらないというのはありますね。「あすか」は、魔法少女というのが社会に認められた存在であって、ちゃんと自衛隊などとも協力しながらやっている、というのが私も大好きで、そういう意味ではアメコミ的ですよね。
「リアル」とは「シミュレーションの回数と精度」
深見 先ほど海法さんは「リアル」という言葉の使い方に触れられましたが、今自分が使っている「リアル」というのは、「シミュレーションの回数と精度」なんです。
海法 なるほど。
深見 「がっこうぐらし!」などのゾンビものも、「もしもゾンビが出たら」というのを頭の中でどんどんシミュレーションしていって、シミュレーションの精度を高めていくというのが、リアリティの要素のひとつだと思います。シミュレーションの回数が多くて、精度が確かだと、普通の人が思いつかないようなリアルなゾンビやシーンができる。マンガ「がっこうぐらし!」でドキっとしたのが、“かれら”が「ごはんとお水さがしてます」という札をかけているシーンですね(編注:第6巻参照)。あれは上手いなぁと思いました。
海法 あれは「カーゴ」という、ゾンビ世界の中で、赤ん坊を守ろうとする父親を描いたショートムービーがありまして、そこからヒントを得ました。
深見 「がっこうぐらし!」の世界の構築も、いろいろ試行錯誤があったんだと思うのですが。
海法 「ワールド・ウォーZ」から刺激を受けた部分もありますね。あの作品は無数の試行錯誤や掘り下げをしていて、学ぶところが非常に大きいです。
深見 なるほどですね。あと、「がっこうぐらし!」は単なるゾンビものではなく、「美少女日常・オブ・ザ・デッド」ですが、何かを足して新しいものを作るというのも、すごいですよね。
ポストアポカリプスの中だからこそ、人間の生き様が見えてくる
深見 「がっこうぐらし!」もそうですが、ゾンビものはポストアポカリプス(編注:文明崩壊後の世界を描いたもの)ですよね。海法さんは、ものすごくポストアポカリプスが好きなんですね。
海法 深見さんも、たぶん虚淵さんも、我々のまわりはみんな好きなんじゃないですか(笑)。ポストアポカリプスの中だからこそ、余計なものを取り払った世界だからこそ、人間の生き様が見えてくるところがあって楽しいですよね。
深見 自分は手塚治虫さんのメソッドがすごく好きで、手塚さんは命の大切さを描こうとする時、逆に不死の人間を主人公に、人間の尊さを描く時にはロボットを主人公にするんです。それと同じで、文明の崩壊した世界を描いたほうが、文明のありがたみがわかりますよね。
海法 それはありますね。あと、新しい文明や神話を創作する時には、一度壊してからのほうが発想しやすいんです。その意味では、「マッドマックス 怒りのデス・ロード」はすごかったですよね。
深見 知り合いの同業者やアニメ関係者は「この仕事辞めようか」と思ったくらい、衝撃的だったそうです(笑)。「マッドマックス」はぶっとびました。
海法 世紀末だから不老不死の象徴としてクロームが、文明の象徴として車が崇められ、と、新しい宗教と文化をひとつずつ作っていくというのが、すごい楽しそうですよね。
深見 ポストアポカリプスと言えば、コミックアライブ連載中の「彼女と旅する崩壊後世界」というマンガがあるんですが、自分はストーリー協力で参加しています(編注:著者は貴島煉瓦さん、単行本第1巻は7月23日発売)。
海法 そうなのですね。単行本を楽しみにしています(笑)。
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