【アニメコラム】ときめき☆タイムトリップ第5回「PSYCHO-PASS サイコパス」己の生き方を貫いたイケメンたちの運命のドラマ

「今見ても、やっぱりいいわー!」

「なんでそんなに女性に受けたの?」

おもしろいものには理由(ワケ)がある! 女性アニメファンの心をつかんでヒットした懐かしの作品を、女性アニメライターが振り返ります。

連載第5回で取り上げるのは、東京・渋谷で8月に、大阪で9月に原画展が開催される「PSYCHO-PASS サイコパス」(2012年)です。

2014年放送の新編集版、続編の「2」、そして2015年公開の劇場版まで続いた大人気作品になりましたが、人気の秘密は、やはり最初のシリーズのヒットでした。

舞台は、人間の心理状態や性格的傾向が、瞬時に計測・判定され、「PSYCHO-PASS」という値で数値化され、管理されている未来社会。この世界での「罪」を判定するのは、法律でも裁判でもない、包括的生涯福祉支援システム「シビュラシステム」。犯罪に関する数値「犯罪係数」によって、人は裁かれ、社会の安定が保たれています。

夏は、ゾクッとする話がおもしろい! 猟奇的犯罪たっぷりのハードボイルドなドラマなのに、がっつり女性ファンの心をつかんだ「PSYCHO-PASS サイコパス」の魅力を振り返ります。


キャラクター原案は漫画家の天野明


物語というのは、いかに限定された人数の中でドラマを濃密に展開できるのかがひとつのカギだと思いますが、「PSYCHO-PASS サイコパス」はそれがとても上手でした。まるで舞台劇のよう。

「日本はシビュラシステムに支配されている」という世界観の中で、メインで描かれるのは厚生省公安局刑事課一係の6人と分析班の1人、そして犯罪者である槙島聖護。これで東京の都市機能が壊滅するような大事件を描いているのですから、かなりハッタリがきいています。

キャラクターの数をしぼることによって、それぞれを深く書き込むことにも成功しています。

近未来ディストピア警察アクションものと思わせておいて(もちろんそうなのだけれど)、実は心理ドラマだったといってもいいでしょう。

そもそも「PSYCHO-PASS サイコパス」が女性ファンの注目を集めたきっかけは、キャラクターデザイン原案を担当した天野明の存在が大きかったといえます。

天野明は、週刊少年ジャンプ連載漫画でアニメ化もされた「家庭教師ヒットマンREBORN!」の原作者として知られています(2017年には「エルドライブ【ēlDLIVE】」がアニメ化予定)。4年間にわたってアニメが放送された「家庭教師ヒットマンREBORN!」は、非常に女性人気の高い作品でした。その原作者である天野氏がキャラクター原案を担当するということで、「PSYCHO-PASS サイコパス」に興味を持ったファンも多かったでしょう。

華麗なビジュアル原案に、しっかりした肉体の厚みと重みのある動きが加わり、シナリオによって重厚なドラマを与えられたキャラクターたちは、ドラマの中でいきいきとした魅力を持って動き出しました。


イケメンぞろい!魅力的で味がある男性キャラクターたち


この作品の魅力はひとえに、男性キャラクターたちの魅力ともいえます。

まず、テレビシリーズ1期のメイン、執行官の狡噛慎也(こうがみしんや)。

筋肉、イケメン、ストイック! ひとり寡黙にトレーニングをこなす肉体派でありながら、知性も教養もあり、紙の本が大好きという頭脳派でもあります。捜査のためには手段を選ばない狂犬めいた執行官で、かつての部下の復讐を誓った頑固者です。

狡噛の対極にあるもうひとりの主人公といってもいのが、稀代の犯罪者・槙島聖護(まきしましょうご)です。

細身、イケメン、ウンチク語り。まごうかたなき猟奇キャラで恐ろしいことこのうえなく、目が離せません。まったく感情移入できないのに、だんだん彼の言ってることも正しい気がしてくるから不思議です。「人間らしさってなんだ?」ということをしみじみ考えさせられます。彼のおかげで、アニメを見ていて紙の本を読みたくなりました。

この“二大巨頭”に絡むのが、監視官の宜野座伸元(ぎのざのぶちか)です。

インテリメガネ、イケメン、苦労人。テレビシリーズ2期以降、どんどんカッコよくなった宜野座ですが、1期では、突っ走る朱や狡噛に振り回されたり、彼なりに元相棒の狡噛を心配したりと、なかなか精神的にきつい立ち位置にありました。その不憫なところが、女性ファンの心をくすぐったともいえます。

そのほか、子どものときから潜在犯認定を受けている、黒さを秘めたヤンチャ小僧、執行官の縢秀星(かがりしゅうせい)。

「とっつぁん」の愛称で呼ばれる昭和風味の刑事(デカ)、頼れるおっさん、執行官の征陸智己(まさおかともみ)。

ハッキングに強くて紙の本好き、飄々とした怖さを持つ、槙島の部下で貴重な話相手のチェ・グソン。

ここに、主人公でありヒロインである常守朱(つねもりあかね)を中心とする女性陣がからみます。しかし、テーマはやはり「男が男の決着をつける男のドラマ」です。


実は似た者同士!? 主人公3人の運命的な構図


狡噛と槙島は、ビジュアル的にも黒と白、名前も慎也(深夜)に聖護(正午)と、相容れない正反対の存在として描かれています。

それでいて、シビュラシステムの判断が絶対とされるこの世界で、それを是としないという意味において、狡噛と槙島は、この世でたった2人の、精神的な双子でもあるのです。劇中でも、互いが互いによって個性が際立ち、活力を得て輝く存在となっています。

次第にシビュラシステムに疑いを抱く常守朱がここにからむと、きれいな正三角形の構図になります。実は、3人とも社会の異端者。似た者同士なのです。

その中で、狡噛と朱は、たとえシビュラシステムが犯罪とみなさなくても(犯罪係数が安全値でも)、「人の殺害」は許されないと考えています。その意味で、槙島は共通の憎むべき敵です。

朱はあくまで、潜在犯であり監視官である狡噛が、社会に居場所を失わないかたちで、槙島を断罪したかったのでしょう。

けれど結局、槙島との決着のためには手段を選ばない狡噛とは、袂を分かつことになりました。いわば狡噛は朱より、槙島を選んだわけです。



勝者は誰? 喪失と勝利のフィナーレ


テレビシリーズ1期のラストの「完璧な世界」では、3人のドラマがとてもきれいに完結しました。狡噛、槙島。そして朱。それぞれに大きなものを失いました。

朱は狡噛と、システムへの信頼を。狡噛は職と、社会での居場所を。槙島は命を。

でも同時に、得たものもありました。朱は経験と胆力と闘志を。狡噛は、信じたことをやりとげた満足感と、シビュラシステムからの自由を。槙島は、求めていた答えを。

そういう意味でこれは、悲劇的なようでいて、それぞれが勝利した物語でもあります。

それぞれが自分の願いをかなえ、生き方を貫き、その代わりに大切なものを捨てました。やるべきことはやった。そうならざるをえなかった。

たぶん、それぞれ自分がなくしたものを後悔はしていない。だから、最後はどこかすがすがしいのでしょう。余韻のある最終話でした。


1期からすべてはスタートした


キャラクターのモノローグの新作シーンなどが追加された新編集版では、上記の物語のテーマ、演出意図をより明確に感じることができます。

続編として制作された2期と劇場版では、その後の一係が描かれます。すっかり強くたくましくなった朱や宜野座、そして再会した狡噛の活躍は、感慨深いものがあります。

それだけに、思い返すとやはり1期は懐かしい。あの中に、劇場版までつながる楽しみのすべてが詰まっていました。

すべてを見たあとで、1期を見ると、新たな発見がきっとあるにちがいありません。


(文・やまゆー)


(C) サイコパス製作委員会

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