【中国オタクのアニメ事情】中国の7月新作アニメの動向、日本から来た武侠作品の衝撃
中国オタク事情に関するあれこれを紹介している百元籠羊と申します。
今回は中国の動画サイトで配信されている日本の7月の新作アニメの動向などを紹介させていただきます。
7月も「リゼロ」が話題の中心に
4月の新作アニメの中で中国でも大人気となった「Re:ゼロから始める異世界生活」ですが、7月に入ってもその人気は衰えず、しっかりとしたファン層を構築しながら話数を重ねているようです。
中国でも異世界トリップ系、逆行系の作品はありふれていますが、目に付きやすいのは「主人公にとって都合のいい展開」になる、爽快感重視な作品が多いそうです。
「リゼロ」はそういったある種の定番に対するカウンター的な存在として扱われているところもあるそうで、ストーリーの引きの強さにくわえて、作中における痛みや絶望感、もどかしさが中国オタク界隈のファンの間で共有され話題となっている模様です。
それに加えて「リゼロ」のファンの動きを見ると、これまで中国に入って話題になった作品に比べ原作の知識を持っている人が多く、ある程度原作を把握しながらアニメを追っかけ、アニメと原作の違いを意識する人が増えているのが目に付きます。
もちろんこれまでにも原作の知識を持ちながら新作アニメを楽しむ人はいました。ですが「リゼロ」に関してはそのシーズンの話題の中心となるような人気作品で、原作も意識しながら作品を楽しむ動きが活発になる、原作も含めた作品の知識やイメージがかなり広い範囲で共有されるというのは今までにない動きだと感じられますね。
7月新作の配信形式の変化
7月の新作アニメは「食戟のソーマ 弐ノ皿」や「モブサイコ100」、「甘々と稲妻」といった作品などが話題になっていますが、4月のような序盤の段階から飛び出た人気、話題になる作品は出ていないようです。
しかし、日本のアニメの配信形式に関してはこれまでと違ったところも出ています。
まず目に付くのは「斉木楠雄のΨ難」でしょうか。
この作品は日本でも短編版と30分枠の一括版が放映されるという変則的な形になっていますが、中国の動画サイトにも短編版と一括版の両方を配信しているところがあり、中でも「bilibili」では短編版が好調で再生数を伸ばしています。
これに関しては「bilibili」の強みのひとつである「広告がない、あるいはスキップ可能な環境」も追い風となっている模様です。中国では動画サイトで頻繁にはさまれる広告に対する不満がかなり強く、中国のオタク界隈でも短編アニメに関しては
「1話ごとに強制的に広告を見せられる時間を考えると、本編の短いアニメを見るのは損している気がする」
といった考えから短編アニメの視聴が敬遠される傾向もありました。
「bilibili」の環境ではそういった問題を意識する必要がなくなりますし、気軽に見れる長さでさらに内容も中国オタク的に「吐槽」(ツッコミ)で盛り上がりやすいということで、この作品にとってかなり有効な配信スタイルとなっているようです。
またそれとは逆に「一括配信」を行うことにより目立っているのが「ReLIFE」です。
こちらは日本で公式の「ReLIFEチャンネル」で全話の一括配信も行っているように、「YoukuTudou」の有料会員向けサービスの配信で全話一括配信が行われているそうです。
「ReLIFE」は全話一括配信という形式での配信もあってか、中国での反応も
「全話を通して見たうえでの感想」
という他の作品とは少々異なるものになっており、有料会員限定配信でありながら中国のオタク層の一部ではかなりの評価を獲得しています。
実は中国ではドラマもアニメも基本的に毎日放映や更新となるスタイルなので、中国のオタク界隈でも日本のような週1ペースに対応して作品を追いかけ、話題にするスタイルが広まったのは比較的最近の話になります。そのため、全話を一気に見られるというのは中国の視聴者にとっては日本以上に「気分よく見られる」ものとなっているのかもしれません。
一括配信に関してはコンテンツの消費ペースが速くなってしまいますし、話題や人気の維持、さらには制作側の負担などの面でも難しいところが出てきますが、中国で正規に配信される日本の新作アニメの作品数がこれだけ増えている状況では、下手に埋もれてしまうよりは随分といいやり方のようにも思えますね。
配信のゴタゴタ今度は日本側から
これまで中国における規制の動きの影響を受けた日本アニメの配信トラブルをいくつか紹介させていただきましたが、7月は新作アニメの「レガリア The Three Sacred Stars」に関して日本側の理由による配信のトラブルが発生し、現地でも話題になっているようです。
公式の発表によれば、「レガリア」は「本来意図していたクオリティと相違がある」ということを理由に、第4話で放送をいったん終了し、制作体制を整えて9月1日から再度放映開始となる模様ですが、中国でも複数の動画サイトで配信されていたことから即座に放送終了の影響が出ることとなりました。
中国における日本の新作アニメの配信に関して、中国のほうではバイオレンスやポルノ描写に関する規制や政治的な物が含まれる規制のリスクなどがありますが、日本のほうでも今回の件のようなリスクが目に見える形で出てきました。今後の海外の配信ビジネスに関してどういった影響が出るのか気になるところです。東離劍遊紀の衝撃
最後に7月の新作で中国のオタク界隈に最も衝撃を与えたかもしれない作品、「Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀」についての紹介をさせていただきます。
「東離劍遊紀」は台湾の布袋劇(ほていげき。人形劇の一種)で厳密にはアニメではありませんが、中国では虚淵玄氏をはじめとする日本のスタッフが関わっている作品ということで日本のアニメ枠に近い扱いを受けています。
そしてこの作品の「中国に対する衝撃」ですが、1つ目はこの作品が
「日本人によって作られた、中国の感覚でも問題なく受け入れられる武侠の空気を持った作品」
だという点です。
虚淵玄氏が過去に武侠要素を取り入れた作品を作っていたのは、中国のオタク界隈でもよく知られていましたが、それでも真正面から武侠的な空気を持った作品が出てきたのを予想外だと感じた中国のオタクの人は少なくなかったようです。
2つ目は「オタク向け要素を入り口にした別ジャンルへの影響」という点です。
布袋劇は中国で人気の高い有名な娯楽ですが、ある種の伝統芸能でもあり、中国のオタク界隈ではこれまで一部の層を除いて、興味を持つ人はあまりいなかったそうです。
しかし虚淵玄氏が手がけるということで、それまで布袋劇に興味を持つことのなかった層も「東離劍遊紀」を視聴することとなり、その結果、オタク趣味を持った中国の若者の間で布袋劇に興味を持つ人が増加しているとのことです。
この作品の「中国のオタク層に対する新たなアピールと影響」に関して、中国の方からは
「オタク系コンテンツの活用方法について考えさせられる」
という話も聞きました。
最後に、これは私自身も実感していることなのですが、
「日本に対する中華系要素を持った作品を展開する際の理想的なやり方」
についての衝撃です。
ここしばらくの間、中国の国産アニメが日本に進出する流れが続いていますが、お世辞にも成功しているとは言えない状況です。
中国の国産作品が日本であまりうまくいっていない理由に関しては、作品自体のクオリティ、日本語への翻訳の難しさや、日中の一般的な視聴者の中華的要素に関する知識の差、劇中のキャラクターの言動に対する共感の方向やその範囲の違い、ちぐはぐにも感じられる日本向けの広報展開など、さまざまなものが考えられますし、一概には言えないかと思われます。
しかし、業界寄りの中国のオタクの方から聞いた話によれば、「東離劍遊紀」は高いクオリティに加えて、武侠的な空気を形作る劇中の「日本語の言い回し」、さらにはメディア展開や公式サイトにおける情報提供などさまざまな面で非常にうまくできており、武侠的な要素をはじめとする中華的な要素を持つ作品が日本で受け入れられる際の見本のひとつなのではないかとも感じられたそうです。
このように「東離劍遊紀」はさまざまな衝撃を中国のオタク界隈に与えており、ある意味では今期最も衝撃的な作品になっているとも言えそうです。
(文/百元籠羊)
(C) Thunderbolt Fantasy Project
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