「シドニアの騎士」「亜人」「BLAME!」……ポリゴン・ピクチュアズの“これまで”と“これから”を塩田周三代表取締役に聞く
2016年10月13日まで公開のアニメ映画「亜人 -衝戟-」をはじめ、アニメ調の3DCGアニメ作品を数多く送り出しているアニメスタジオ、ポリゴン・ピクチュアズ。同社がアニメファンにより広く知られるようになったきっかけは、やはり2013年放映のTVアニメ「シドニアの騎士」からだろう。
とはいえ、「シドニアの騎士」はポリゴン・ピクチュアズの創立30周年記念作品であり、実は同社はかなり古い歴史をもつ企業なのである。となると、「シドニアの騎士」以前にどんな仕事をしていたのか、アニメファンなら誰しも気になるところだ。
今回アキバ総研では、そんなポリゴン・ピクチュアズの代表取締役である塩田周三さんに、同社の歴史、そしてこれからの展望をうかがった。
ポリゴン・ピクチュアズ史──「シドニアの騎士」に至る30年
──まずはポリゴン・ピクチュアズという会社について教えてください。
塩田ポリゴン・ピクチュアズは1983年に設立した会社です。当時、まだまだコンピューターがとても高価な時代だったので、本格的にCGに取り組むようになったのは1988年頃からですね。当時CGはまだまだ未成熟なツールだったので、初期のポリゴン・ピクチュアズはCGをいかに成熟させるかという研究開発が中心で、その一環として、CGの基礎となるアプリケーションの開発を行って、その性能を試すため短編映像などを制作していました。それらの作品を「SIGGRAPH」(毎年アメリカで開催される最先端のCG技術・映像などに関するカンファレンス)に出展する中で、CG業界の中でも名を知られた存在になっていきました。
──設立当事は研究開発がメインだったんですね。それがアニメスタジオとなるきっかけとはなんだったのでしょう?
塩田 1993年の前半に、それまでの研究の成果として「Michael the Dinosaur(マイケル・ザ・ダイナソー)」という作品を発表しました。マイケル・ジャクソンをイメージした恐竜のキャラクターが登場する作品です。……そうしたら同じ年に映画「ジュラシック・パーク」が登場して。「これはすごいぞ」と思いましたね。もちろん我々としては当時最高のCGを作ったつもりでしたが、こちらは1体、向こうには何体もの恐竜が登場していて。日本も80年代はCG分野でそれなりの先進国だったのですが、90年代からCGに力を入れ始めたアメリカとの差をそのときに痛感しました。それが技術開発からキャラクターやストーリー作りに軸足を移すきっかけになりましたね。
塩田 そうした中で生まれたのが1995年の「ロッキー×ホッパー」です。当時、資生堂の整髪料のCMが人気で、マーチャンダイズ展開も含めると140億円ぐらいの市場売り上げになりました。ポリゴン・ピクチュアズ最初のヒット作です。
1995年ごろというのは、CG業界にとってもすごく重要な時期なんです。ひとつはピクサーの「トイストーリー」がアメリカで公開された年ということ。フルCGアニメで大ヒット作を作れるという証明になりました。もうひとつはプレイステーションの登場ですね。当時ゲーム業界が非常に活況で、日本のゲームメーカーも絶好調でしたし、CGでいろいろなことができるんじゃないか、というCGブームがやってきました。
そんな時代の中で、我々もナムコさんとソニー・コンピュータエンタテインメントさん(いずれも社名は当時)と、ドリーム・ピクチュアズ・スタジオを設立し映画作りに乗り出しました。結局2年ほどで形になることなく終わってしまったんですが……。その後、その最先端の設備とスタッフをポリゴン・ピクチュアズに取り込むことで、大規模な制作ができるようになりました。そこで初めて受注したのが2000年の「デジタル所さん」なのですが、これは1話3分で250話近くを制作しました。これがポリゴン・ピクチュアズ初のTVシリーズです。
──ということは、 2000年ごろにはTVアニメシリーズを作る土壌が整っていたわけですね。
塩田 ……とはいえ、そのころには日本のCGブームも終り、むしろCGに対する風当たりも強くなっていましたから、なかなかCGでアニメを作るという案件も少ない。ならいっそ海外を攻めてみようと営業して、2005年にディズニーの「プーさんといっしょ」を受注することができました。そして、それがきっかけになって「トランスフォーマー プライム」や「トロン:ライジング」「スター・ウォーズ:クローン・ウォーズ」など大型作品を制作することになりました。
──日本のアニメファンの耳にもアニメスタジオとしてのポリゴン・ピクチュアズの名前が聞こえ始めたころですね。
塩田 現在に続く大きな流れに乗った時期だったと思います。「トランスフォーマー」は今でも続いていますし。なかでも影響が大きかったのは、「トロン:ライジング」ですね。この作品のデザイナーは個性的な方ばかりなのですが、彼らの個性をCGで再現するために試行錯誤し、開発リソースも大量に投下したんです。おかげで完成した作品はCG業界内でもすごく話題になったんですよ。
そして、これができるなら、我々も日本のアニメ業界にも参入できるんじゃないか、と考えられるようになった。これが「シドニアの騎士」へとつながっていくことになります。
──「シドニアの騎士」原作者である弐瓶勉先生の作品は海外でより人気が高い印象があります。日本のアニメ業界への参入作品として、「シドニアの騎士」を選んだ理由を教えてください。
塩田 これまでお話してきたように、我々は日本のアニメ業界にずっといたわけではないので、業界内の「現在のトレンド」を考えて作品を選んだわけではありません。純粋に「自分たちが好きである」こと、そして「CGで描けば映える」という視点で作品を選んだ、というのが理由です。
また、やはり日本のアニメファンというのはすごく厳しく、そして手描きのアニメに対する誇りがある。それを考えると、フルCGでやるというのは非常に危険ではあったと思います。とはいえ、やはり我々はアウトサイダーですから、怖いものなしといいますか。また作るものに対して自信もありましたから、ここはチャレンジしようということになりました。
──そうして2014年に放送された「シドニアの騎士」は、続編や劇場版が作られるほどの大ヒットとなりました。これほどに受け入れられた理由とはなんでしょうか?
塩田 「シドニアの騎士」も最初のころは「ヌメヌメしてる」と言われたりして、ネガティブな意見もありましたが(笑)、放送を重ねるごとに「弐瓶先生の作品らしい」という評価をいただけるようになっていきました。
あの当時「蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ-」や、少し後になりますが「楽園追放-Expelled from Paradise-」などのフル3DCG作品が次々と登場して、いずれもヒット作になりましたよね。タイミングをはかったわけではありませんが、アニメ業界のそういう大きな流れの中に「シドニアの騎士」があったこととは、非常に幸運な出来事だったと思います。
──本作はNetflixでの配信など、海外展開にも力を入れていました。
塩田 Netflixで放送して、当時は40か国でしたか、とにかく圧倒的なリーチを得られたことは大きかったですね。ロボットアニメはハードコアなファンが海外にもいるんですが、やっぱりそういうファンからの反響がすごく多かったです。自分でもびっくりするぐらい「シドニアの騎士」は知られている。先日「Trojan Horse was a Unicorn」という、ポルトガルで開催されたアートイベントで公演する機会があったのですが、「シドニアの騎士のシーズン3はいつだ?」と多くの方に聞かれました(笑)。やはり海外でもシドニアは最後までやってほしいという声が多いです。あとは「BLAME!」についても聞かれましたね。やはり弐瓶先生はヨーロッパのクリエイターの中では圧倒的な人気だな、と実感しました。
(C)POLYGON PICTURES
(C) 弐瓶勉・講談社/東亜重工動画制作局
(C) 桜井画門・講談社/亜人管理委員会
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