ホビー業界インサイド第16回:世の中をより楽しくする“最強チーム”の作り方 グッドスマイルカンパニー社長、安藝貴範インタビュー!

レーシングチーム“グッドスマイルレーシング”の運営、レッドブル・エアレースの開催、ヘッドホンやラジオの開発、アニメ製作、ゲーム製作、人形劇「Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀」の製作……と、ホビー業界にとどまらない多角的な広がりを見せているフィギュアメーカー、株式会社グッドスマイルカンパニー。今年で創立15周年を迎えるが、代表の安藝貴範さんによると、まったくの異業種から参入だったという。

たった15年でホビー業界のみならず、趣味の世界、遊びの世界を確実に活性化させているグッドスマイルカンパニー。その力の源は何か? 安藝さんにお話をうかがった。


いいものはいい、しかし、改革する必要もあった


──グッドスマイルカンパニーは今年で設立15周年とのことですが、振り返ってみて、いかがですか?

安藝 あっという間でしたね。記憶がないです(笑)。もともとは異業種の会社だったのですが、周囲の要望にこたえているうちに、こうなっていました。「世界をホビーで覆いつくす」という野心でもあれば、もっと答えやすいんでしょうけど。

──芸能事務所としてスタートしたそうですが、なぜフィギュアメーカーになったのですか?

安藝 簡単に言うと、芸能事務所としてはうまく行かなかったんです。その頃、弊社の所属タレントだったMAX渡辺さん(マックスファクトリー代表)の仕事を手伝っているうち、ホビーの仕事がメインになっていきました。フィギュアに強い興味があったわけではありませんが、間近に見て「いい!」と思いました。興味はなかったけれど、いいものはいい。同時に、「もう少しこうすれば、もっと良くなるのに」とも感じました。それはマックスファクトリー周辺だけではなく、業界全体に対して。

──改善の余地がある、と思われたわけですね?

安藝 はい、「うまくお届けできていないのではないか?」という疑問でした。当時のフィギュア商品は、ガレージキットが原点だったため、模型流通を使っていました。昔から存在していた模型ビジネスに最適化された商慣習、ユーザーとのコミュニケーション方法が、業界に当然のように存在します。その模型流通の役割分担は、完成品フィギュアやキャラクターホビーには向いていないように感じました。たとえば、姫路城のプラモデルは20年たっても(在庫に)価値があるけど、展開の終わってしまったアニメ・ゲームのキャラクター商品の店頭在庫には価値があるのだろうか。流通の仕組みがマッチしていないせいで、お客さんがフィギュア商品を手に入れづらくなっていないだろうか? そんな疑問から、流通や製造方法の改革、予約を通じたお客さんとのコミュニケーション、「他のサブカル趣味とフィギュアとは、それほど差はないんだよ」といったイメージ戦略をしっかりやりました。過去にはなかった試みですから、少しは業界のお役に立てた部分があったと思います。


──当時、商品のクオリティはどうだったのですか?

安藝 商品の数が少ないうえ、よい物が少ないと感じていました。よい物(商品原型)を、よい物のまま製造するのも難しかった。プレゼンテーションしたとおりの商品を製造できるようになるまで、生産面での改革が必要だったし、工場と一緒にみんなで苦労しました。

──それが2000年代初期のころですね?

安藝 そうですね、その頃はグッドスマイルカンパニーをフィギュア“メーカー”にしようとは考えていなくて、企画力・造形力のあるチームを、バックアップする会社というスタンスでした。3~4年ほど経過するうち、新たなマーケットの広がりが見えてきました。僕らの試した方法論は効果がある、これならうまくいく……と、実感できたんです。

──それまで、安藝さんと同じ考え方をする人はいなかったのでしょうか?

安藝 たまたま、ホビー業界にいなかっただけでしょうね。僕はそれまで、ゲーム業界や芸能・興行の世界で生きてきました。ゲームソフトはマスな商材で、しっかりマーケティングをして、お客さんの元へ届けるにはどうしたらいいのか、何千人もの人たちが知恵をしぼって販売していました。そうした経験を踏まえると、ホビーやフィギュアの世界には違和感をおぼえたし、まだまだ手を加えられると感じました。最初からホビー業界にいたら、違和感をおぼえなかったでしょう。業界からすれば、僕はウイルスのような異分子だったと思います。「よそから、変なヤツが入ってきたぞ」って(笑)。

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