【アニメコラム】キーワードで斬る!見るべきアニメ100 第10回「プラネテス」ほか
アニメファンの飲み会というのは得てして、大喜利というか連想ゲーム的なものになりがちだ。「○○には××なシーンが出てくるよな」と誰かがひと言いえば、ほかの誰かが「××なシーンといえば△△を忘れちゃいけない」と返してくる。アニメとアニメはそんなふうに見えない糸で繋がれている。キーワードを手がかりに、「見るべきアニメ」をたどっていこう。
10月10日に声優の田中一成さんが亡くなった。筆者は、ネットラジオ「裏でネットギアスリターン」のお手伝いをした時にMCの田中さんにとてもお世話になった。最近では7月に朝日カルチャーセンター新宿教室で特別講座「声優の仕事を知ろう」を行った時に、田中さんに講師をお願いし、かんたんなワークショップをやっていただいた。田中さんのあまりに急な旅立ちをにわかには信じがたい。そんな気持ちでいっぱいだ。
今回はまずそんな田中一成さんが主役のハチマキを演じた「プラネテス」を紹介するところから始めたい。
「プラネテス」は幸村誠の同名マンガのアニメ化。ただアニメ化にあたって、「お仕事もの」の部分を強化するなどかなりのアレンジが加えられている。
舞台は2075年。主人公ハチマキ(星野八郎太)は、テクノーラ社の会社員として、宇宙ステーションでデブリ(宇宙ゴミ)回収を仕事にしているサラリーマン。自分の宇宙船を手に入れるため、デブリを回収する日々を過ごしている。物語は、ハチマキたちが仕事を通じて直面するさまざまな事件を通じて、「生きることの意味」へと迫っていく。地に足の着いた語り口が、キャラクターの生きている姿をとてもリアルなものとして感じさせた。
ハチマキは、叩き上げの船外活動要員で、言葉遣いは雑だが、明朗でくだけた性格のつきあいやすい人物だ、だが、その心の底には、より遠くの宇宙を目指したい熱情が渦巻いている。その熱情と厳しい現実の間で揺れ動いていくのがハチマキのドラマとなっていく。
そんなハチマキというキャラクターは、田中さん個人と、とても距離や温度感が近い存在だったように思う。今回のニュースで田中さんの名前を意識した方がいたら、ぜひこの「プラネテス」を見てほしい。
ちなみに「プラネテス」に出演したことが縁となって「ハイキュー!!」の烏養繋心役に決まった――というのは、講師をお願いした後の打ち上げで聞いたお話。
というわけで、今回は皮切りとなったのが「プラネテス」だから、「宇宙(主に月軌道ぐらいまで)」をキーワードにしようと思う。
月を目指すアニメなら小山宙哉原作の「宇宙兄弟」も忘れてはいけない。最近のアニメでは珍しく(しかもキッズものでもないのに)、全99話、2年間にわたって放送されたシリーズだ。
主人公は会社を辞めて、子供の頃の夢だった宇宙飛行士を目指し始めた31歳の男・南波六太(なんばむった)。「プラネテス」のハチマキが25歳だったことを考えても、かなり“おじさん”だ。六太には日々人という3つ違いの弟がおり、こちらはアメリカで世界最年少で月面探査のクルーとして選ばれた有名人。この対照的な兄弟の宇宙への思いを軸に、物語は展開していく。
六太はサラリーマンからの転職組。だからストーリーの中では、宇宙に出る以前の、宇宙飛行士になるための試験や訓練などがていねいに描かれていく。このあたりの地に足のついた展開は、見方によれば「プラネテス」以上にリアルだし、実際にJAXAやNASAが行っている活動とも重なりあう部分は多い。
なお、主に月軌道ぐらいまでを舞台にした宇宙アニメは意外に多くて、「宇宙兄弟」以外にも、「MOONLIGHT MILE」「ふたつのスピカ」「ロケットガール」(いずれも原作付き)などがアニメ化されている。
地に足がついている、というなら「王立宇宙軍 オネアミスの翼」も地に足がついている宇宙ものの代表的作品といえる、ただかなり変わった“地に足のつき方”なのだけれど。
「王立宇宙軍」の舞台は、地球の1950年代に相当するレベルの文明をもつ惑星。航空機はプロペラ機が主流だが、ジェット機も投入されつつある。TVはまださほど普及しておらず、あっても白黒。町の中にはまだガス灯も残っている。そして、人類はまだ宇宙空間に到達していない。この架空の惑星の文明のあり方をていねいに積み重ねていくところが、本作の“足のつき方”なのだ。
ある国の弱小組織である宇宙軍が、世界初の有人人工衛星計画をたて、主人公シロツグがそのパイロットとして志願するところから物語は始まる。宇宙飛行士を目指すシロツグの個人的な思いと、宇宙に到達するに至った人類の大きな歴史が、クライマックスでクロスする構成がこの作品の魅力だ。
こういう小さなものと大きなもののクロスは、「プラネテス」だと、木星往還船乗組員を目指すハチマキとその往還船を開発したウェルナー・ロックスミスの対比の中にも見るることができる。
最後は「機動戦士ガンダム」をあげよう。「ロボットもの」の「ガンダム」だが「宇宙もの」としての魅力に注目するなら、やはり第5話「大気圏突入」をあげないわけにはいかない。
第5話では、ホワイトベースを追撃する敵ジオン軍の指揮官・シャアが次のセリフを言う。
「20分後には大気圏に突入する。このタイミングで戦闘を仕掛けたという事実は古今例がない。地球の引力に引かれ大気圏に突入すれば、ザクとて一瞬のうちに燃え尽きてしまうだろう。しかし、敵が大気圏突入のために全神経を集中している今こそ、ザクで攻撃するチャンスだ。第一目標、木馬、第二目標、敵のモビルスーツ。戦闘時間は2分とないはずだが、諸君らであればこの作戦を成し遂げられるだろう。期待する」
大気圏突入という題材の「美味しいところ」(タイムリミットを超えれば死んでしまう恐怖。それゆえに誰もやったことのない奇襲が成立する)を、簡潔に言い尽くしているこのセリフはやはり名セリフといえる。
そういえば田中さんは、劇場版「機動戦士ガンダム」特別版以降、ホワイトベースのオペレーター、オスカー・ダブリンが持ち役になっていた。「機動戦士ガンダム展 THE ART OF GUNDAM」で流れていたホワイトベースの艦橋を描いた映像にもオスカーとして田中さんの声が流れていた。
月よりも遠くの星になった、田中さんの冥福を祈りながら、この原稿を締めくくりたいと思う。
(文/藤津亮太)
(C) 幸村誠・講談社/サンライズ・BV・NEP
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