「ゼーガペインADP」オールナイト上映会レポート 下田正美監督「10年目にしてスタート地点に立てる作品がつくれた」 「ガルパン」との意外な共通点も?

アニメ「ゼーガペイン」の放送10周年プロジェクトとして制作された「ゼーガペインADP」は、再編集版にとどまらない新解釈を加えてテレビシリーズの前日譚を描き出した。新たな物語を見たファンの間ではさまざまな憶測が飛び交い、いまだ衰えぬ人気ぶりを証明した。
10月28日のイベント上映最終日には、作品の謎を解き明かすトークショー付きオールナイト上映会が行われた。新宿ピカデリーには下田正美監督、シマ役の坪井智浩さん、サンライズの松村圭一プロデューサーが登壇し、約1時間にわたって本作の裏話を披露した。

「ゼーガペインADP」オールナイト上映会は平日深夜の開催ながら、新宿ピカデリー最大の収容人数を誇るスクリーン1は大入りとなった。ロビーに設置されたセレブアイコンスタンプを記念に押したり、キャラクターの等身大パネルを撮影したりと、来場者は開演前からイベントを満喫していた。そして22時の開演を迎えてゲストの3人が登場すると会場は温かい拍手に包まれた。
まず坪井さんは「『スタッフトークショー』だったのに急きょ登壇する事になり、サーバーが耐えられなくなって今日は雨に…」とシマの台詞をひと言。当日は実際に雨が降っていたこともあって客席からは笑いが起き、イベントの幕開けを盛り上げていく。本編の感想については、台本をもらった際に「こう来たか!」と驚いたそうだ。ループものという現在流行中の設定をテレビ放送時から取り入れ、それを生かした構成に「うまいこと編集したなぁ……。監督すごい!」と絶賛。これに監督は照れながらも「10年前に真面目に作っていてよかった」と安堵していた。


シマはテレビシリーズで途中退場してしまったキャラクターだが、本作では全編にわたって登場している。シマの活躍について監督は「『ゼーガペイン』は一度死んだキャラは復活しないというルールで作っているが、僕が坪井さんに会いたくて『ADP』を作ったという側面もあります」と告白。その発言に坪井さんは感謝しつつも、「今後は出番がないと言われたような気がしますね……」と返して会場は爆笑の渦に。「ミニキャラのコメディシリーズでもいいですから出してください!」とスピンオフでの展開を提案し、監督も前向きな姿勢を見せていた。
そんなシマを演じる坪井さんは、彼が気弱な生徒会長と冷徹な司令官という二面性を持っていることが不思議だったと打ち明ける。この疑問に監督は「オリジナルのシマであるジョサ・アダマールが、壊れた幻体データである生徒会長に自分のデータを分け与えている」からだと回答。本来の姿は気の弱い生徒会長であって、そこにシマの性格が乗り移った二重人格に近いキャラクターだと説明した。


テレビ放送時のアフレコに話が移ると「シマは僕の中でもトーンがかなり低めで、声を作ってしゃべっているキャラクターでした」と当初は大人びた渋い声でしゃべるのが難しかったと振り返る。今では自然と演じられるようになったものの、10年ぶりのアフレコでは貫禄が付きすぎて「すこしオッサンっぽい」と言われてしまったと苦笑い。坪井さんは「シマが『ADP』のループで学習したから、テレビシリーズでは声が若くなったのだと解釈してください」と伝えて、またも客席の笑いを誘った。
「ゼーガペイン」は主演の浅沼晋太郎さんや花澤香菜さんをはじめ、新人のキャストが多く起用されていたため、「ADP」のアフレコには声優陣も気合が入っていた様子。芝居の成長ぶりには一同驚いたようだ。だが花澤が演じたリョーコの「ほっぺたブサイク。ブー」という台詞はあえて当時の初々しい芝居を求めたとのこと。下田監督は「あれを変えてしまったらリョーコでなくなってしまう」と語り、スタッフにとってもお気に入りシーンだとわかった。


Q&Aコーナーでは「ADP」公式ライターの廣田恵介さんが事前に用意したマニアックな質問にスタッフが答えていった。第1問は新キャラクターのルーパについて、「イタリア語で雌狼、サンスクリット語では色を意味するが、その由来は何なのか?」というクエスチョンが。下田監督は「狼」については人狼ゲームを意識していて、ルーパは「人工知能はウソを付けるかという発想から生まれたキャラクターだ」とコメント。サンスクリット語の「色」は「色即是空」から来たもので、インドネシア語では「忘れる」という意味もあると告げると、ファンから驚きの声が上がった。

主人公機のゼーガペイン・アルティールについては「ゼーガAIの台詞からコードネームはHLA-24だとわかるが、少なくとも24機以上製造されたのか?」という質問が。これには「HLA-24は戦闘機のF-22と同じような開発番号」だと回答。24機存在するわけではないとしつつも「(デザインディレクターの)ハタイケヒロユキがまだ設定を隠しているかもしれないですね」と含みを持たせた。
オスカー攻略戦時にゼーガAIがフランスの詩人 ヴェルレーヌの「秋の歌」を読んでいるシーンは、第二次世界大戦時のノルマンディー上陸作戦前日に連合国の暗号としてラジオで流された逸話が由来だと語る。下田監督は「『ガールズ&パンツァー 劇場版』でもモールス信号で使われていましたね。僕もそんな気分で遊び心を加えてみました」とニヤリ。MCの廣岡祐次プロデューサーは「僕は『ガルパン』も担当していましたが、この歌を1年で2回も聴くとは思いませんでしたよ」と漏らし、両作品の意外な繋がりも判明した。
(※下田監督は「ガールズ&パンツァー」TVシリーズのオープニングのコンテ・演出を担当している縁もあります。)


最後の質問では、本編でリョーコの未来の記憶が描かれる点や、ラストのキョウとシズノの再会シーンがテレビシリーズとは異なる点、さらに以前の取材でハタイケが「時間が過去から未来に進むとはかぎらない」と発言していた点に触れて、「もしかしたら『ADP』はテレビ版に直結していないのでは?」という大胆な仮説が飛び出した。
監督はあくまでテレビ版に繋がるつもりで作ったとしながらも、テレビ版を未見の観客に向けて調整した部分もあると語った。たとえばキョウが自爆するシーンでは、すでにシズノという名前を忘れており、以前の名のイェルと呼ばせて再会シーンに余韻を持たせたと明かす。世界をていねいに再構築することで、新たなファン層も広がる一作に仕上がったのだ。


総集編で前日譚でもあるという意欲作になった本作について、松村プロデューサーは「テレビシリーズのいろいろな部分を決め込まなかったからこそ、10年の間に出たアイデアをはめ込めることができた」とコメント。下田監督も「まだまだ使っていない設定は山のようにあります」と意気込みを見せる。最後は「『ゼーガペイン』を10年間支えていただいてありがとうございます。10年目にしてスタート地点に立てる作品がつくれたことを光栄に思っています。この先もどういうかたちになるかはわかりませんが、スタッフ一同で何かをやっていきたいです」と宣言し、期待を寄せるファンの拍手が巻き起こった。
フィナーレはイベントお決まりの「エンタングル!」の掛け声を会場全員で披露。本編では発せられなかったシマの「エンタングル!」が飛び出す貴重な一幕もあり、イベントは大盛況の内に幕を閉じた。


(取材・文/高橋克則)

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