すずさんの思いを描いた、綿毛のような音楽──コトリンゴと、映画「この世界の片隅に」

2016年11月12日から全国での公開が始まっている、片渕須直監督のアニメーション映画「この世界の片隅に」。戦時中の広島・呉を舞台に、ひとりの女性・すずの目を通して、当時の人々の暮らしと、それを覆う戦争の姿を描いた作品だ。こうの史代の原作マンガを、片渕監督が6年の歳月をかけて映画化。主人公すずを、女優・のんが演じていることも、大いに話題を呼んでいる。
その作品の主題歌とサウンドトラックを手がけたのが、コトリンゴ。公開に先立ち、11月9日にはサウンドトラックアルバムがリリースされた。普通の人々の暮らしを丹念に描いた「この世界の片隅に」に、いかに音楽を付けていったのか、話を聞いた。


「マイマイ新子と千年の魔法」で、片渕監督と出会いました


──昨日(10月17日)、初号試写だったそうですね。

コトリンゴ はい、スタッフさん、キャストさん用の初号試写にお邪魔して、見てきました。監督さんがギリギリまで手を加えて、0号試写から進化していましたね。「すずさんがちょっと日焼けしているかも」とか、「お洋服の柄も変わっているかも」と思いました。軍艦や爆弾などの修整も入っていたみたいですね。メカ関係は詳しくなくて私にはよくわからないんですけど(笑)。それから、クラウドファンディングのクレジットも昨日初めて見ました。本編にはないエピソードがそこに追加されていて、びっくりしました。

──試写会場では、片渕監督とは、お話しされたんですか?

コトリンゴ キャストさんがたくさんいらっしゃったので、私はご挨拶だけさせていただきました。のんさんとも、ちょっとだけお話しできました。

──片渕監督との出会いは、監督の前作「マイマイ新子と千年の魔法」ということになるんですよね。

コトリンゴ はい。「マイマイ新子と千年の魔法」の製作に、私が当時所属していたavexが関わっていて、私の歌が作品に合うんじゃないかということで、引き合わせていただいたんです。

──レコード会社を介しての出会いだったんですね。

コトリンゴ 実は、そうなんです(笑)。主題歌を作るにあたって、監督さんは、出来上がった映像はもちろん、資料や背景美術などを見せてくださって、枕草子とかの関連書籍まで貸してくださいました。そのうえで、いろいろなお話をしてくださって、「ここまでていねいに説明してくださるんだ、情熱のある方だな」と感じたのを覚えています。

──そうしてでき上がった曲が「こどものせかい」で、コトリンゴさんの2009年のアルバム「trick & tweet」にも、ボーナストラックとして収録されました。そして、その翌年にリリースされたカバーアルバム「picnic album 1」に、「悲しくてやりきれない」が入っているんですよね。

コトリンゴ 「picnic album 1」は監督さんにもお渡ししていて。ちょうどその頃ですよね、「この世界の片隅に」の製作に入られたのが。それで、すずさんの心情に合っていると思ってくださったと、うかがっています。

──「この世界の片隅に」は、2015年3月から5月にかけてのクラウドファンディングで集まった資金で、パイロットフィルムが作られることになって、「悲しくてやりきれない」は、その映像に使われることになりました。

コトリンゴ そうですね。映画本編で使うかどうかは、その頃は話し合われていませんでした。

──コトリンゴさんが、「この世界の片隅に」を知ったのは、いつですか?

コトリンゴ 「悲しくてやりきれない」を使いたいというご連絡と同時に、原作のマンガをお送りいただいて、すぐに読みました。

──原作の第一印象はいかがでしたか?

コトリンゴ 絵柄が個性的で、鉛筆で描いているページもあったりして、最初はびっくりしました。お料理のシーンとか、すごく細かく描写されていたり、恋愛関係のエピソードもあって、なごんだり、「えっ!」って驚いたりしながら、どんどん引きこまれていきました。そして、物語が進むにつれて、戦争が迫ってきて……。

──絵柄はやわらかいんですけど、かなり実験的な手法も取り入れた作品なんですよね。

コトリンゴ そうなんです。こういうマンガに触れたのは、初めてでした。

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