“家族アニメ”を作る新たなジャンルへの挑戦――「うどんの国の金色毛鞠」宅野誠起監督インタビュー
香川県を舞台に、主人公の俵宗太(たわらそうた)とタヌキの男の子・ポコを取り巻く、ハートフルなアニメ「うどんの国の金色毛鞠」。水彩調の画作りで温かみのある雰囲気を持つ今作を手がけるのは宅野誠起監督だ。丹念なロケハンを経て作り上げられた本作は人間ドラマに重きを置いた大人な仕上がり。それは監督にとって念願の演出スタイルだった。新たなジャンルに挑む制作の様子をうかがった。
段階的にロケハンを繰り返した結果、うどん県民も認める描写力に
──最近はご当地色を打ち出したアニメも数多く作られるようになり、「うどんの国の金色毛鞠」も香川県を舞台にしています。監督のご出身はどちらですか?
宅野 僕は九州です。香川に明るいというわけではないのですが、主人公の宗太が地方から上京して仕事をしていたところに共感する部分はありますね。彼は10年間ずっとウェブデザイナーをやってきて、曲がりなりにも形になってきたところで、父親の死をきっかけに生き方の方向転換をして故郷に帰ってきました。僕の場合も、とにかく実家を出たくて遠くの大学に進学し、大学を卒業してからは一度アニメの制作会社に入り、その後実写の専門学校に行ってその後もまた別の仕事をしたりと紆余曲折を経て今、ここに立っているので、悩んでいる宗太の姿にはリアリティがあり、非常にシンパシーを覚えましたね。
──アニメ化をするにあたって、どのように映像化しようとイメージされましたか?
宅野 作品が持つ雰囲気をどう映像に置き換えようかなということを、まず考えました。原作の篠丸のどか先生の描くやわらかい感じとか、水彩調のカラー原稿とかをアニメでも映像として追求したいというのがひとつありました。もうひとつは香川を舞台にしているので、香川の言葉や現地の音という部分にも注意しました。
──今作の舞台となる香川県の描写へのこだわりを非常に感じます。
宅野 この作品に携わって合計で4回、香川県に行きました。最初はシリーズ構成ができ上がる前に行ってみて現地の雰囲気を見て、それを反映して高橋ナツコさんとシリーズ構成を詰めていきました。2回目はある程度絵コンテを作りました。琴電(高松琴平電気鉄道)にも乗りましたし、舞台となった、かずら橋にも行きました。屋島寺から見た絶景などは作品に生かされていると思います。3回目は第11話、第12話のシナリオが上がってからです。全話数の構成を固めてからシナリオ作業を進めていたのですが、打ち合わせを重ねるうちに段々と最後の着地点が変化していきました。最終的に第11話、第12話は香川を舞台にした、ある大きなイベントの話になり、その資料写真を撮るためにロケハンに行ってきました。
──4回目は?
宅野 先日の先行上映会です。お客さんと話をしたのですが、東京に暮らしているとなかなか感じづらいところですが、やっぱり地元の方にとっては、自分が普段生活している場がアニメになるというのは相当うれしいことなんですよね。アニメで登場した場所の近所に住んでいるという方もいました。方言に関してもお墨付きをいただいて(笑)。
──登場人物がアニメでもしっかりと香川の言葉でしゃべっているのが特徴です。これはどのように演出されているのでしょうか?
宅野 眞鍋昌照さんという方が方言監修で立ってくれています。本編にも声優として時々出てもらっています。皆さん楽しんで方言を演じていらっしゃいますが、第6話で東京が舞台になると純粋に演技に集中されていたので、やっぱり方言と演技を両立するのは大変なんだなと思いました。
──香川県へ行く前と行った後で、一番印象が変わったものはなんですか?
宅野 大したことではないかもしれませんが、山の形が独特なんですよ。想像で描くと普通の山なりにしてしまいそうですが、向こうの山はとんがっているんです。今回、初めて四国に行きましたが、それにはとても驚きました。あとは、東京と違って家屋が和風というか、黒い屋根瓦が多かったのも印象的でした。
──そういったディティールの積み重ねが、現地の人をも納得させるリアリティを作るのですね。
宅野 そのように見てもらえていたらうれしいです。それと、もうひとつこだわったのはうどんの描写です。やはり、香川県民はうどんに対して非常に厳しい目を持っていますので、これだけは手を抜けないなと思いました(笑)。そもそも東京と比べて、香川のうどんは長いんです。ロケハンに行く前はそのことを知らなくて、第1話冒頭で宗太が食べているうどんが短かったので、リテイクして麺を長くしてもらいました。その成果なのか、香川で行った先行上映会では、地元の皆さんがとても好意的に作品を見てくれましたね(笑)。
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